最終話 道

 空港……


 ここは、人々の出会いと別れの場……


 人々は喜び……悲しむ……


 人生の分岐点になる場所でもある。



 俺たち家族も例外では無かった。



「グス……グス……ひかりぃ!おぉぉんっ」


「ちょっとパパ、いつまで泣いているの?恥ずかしいよ!」


 ソダムは、俺の横で口に手を当てクスクスと笑う。



 あれから十年の月日が流れていた。


 18歳になったひかりは、歌の才能が認められ欧州にある音大へ2年間留学する事になったのだ。


「あ、そうだ!お爺ちゃんとタロウは?」


「ああ、ここだよ……グスン」


 ひかりは、俺が手に抱えている『笑顔の目黒さんと犬のタロウ』の写真に手を当てた。


「お爺ちゃん、タロウ……行ってくるね」


「ひかり、忘れ物は無い?大丈夫?」


「うん!バッチリだよ、ソダムママ!……あ、メイク崩れてない?」


「大丈夫、とても綺麗よひかり」


 ひかりとソダムは手を取りあった。



「ねぇお姉ちゃん。いちゅ帰ってくゆのぉ?」


 ひかりには、3歳の弟が出来た。


 俺たち夫婦は、全く考えていなかったのだが、4~5年ほど前にひかりから弟か妹が欲しいと催促されたのだ。



 ひかりは、しゃがみ込むと弟のほっぺたに両手を添えた。


「そうだなぁ……光太こうたが幼稚園生になる頃かな」


「ぼくが幼稚園生になったら帰ってくゆの?じゃあ今から幼稚園生になゆっ!」


 ひかりは、笑いながら光太の頭を撫でた。



 そして、時は来た。


 ひかりが乗る飛行機の、搭乗案内電光掲示板フライトインフォメーションボードのランプが灯った。


「じゃあ、みんな行ってくるね!」


 俺は、いてもたってもいられなくなり、ひかりを強く抱き締めた。


 ひかりは、出会った日と何も変わっていない。


 俺は、ひかりの温かくて優しい光に包まれた。


「パパ、もう行くね。別にお別れじゃないんだから。必ず帰るよ」


 そう言って微笑むと、みんなに手を振りセキュリティゲートへ向かった。


 ゲートをくぐり抜け、最後にまたこっちを見て笑顔で手を振ったひかり……けど、目には光るものが見えた。


 あんなに俺と離れるのを怯えていたひかりが、自分の道を歩き出した。


 俺は、いつまでも ひかりを幼いままの少女のように接してきたが、もう立派な女性になったのだ。


 今更ながら俺は反省した。

 幼いのは俺の頭の中だけだったようだ。



 暫くして、展望デッキに移動した。

 空は何処どこまでも青く、心地よい風が吹いている。


「あっ!パパ、ママ、お姉ちゃんのひこおき飛ぶよぉ!」


 光太が指を差した飛行機は確かにひかりの搭乗してるものだった。


 数ある飛行機の中で、どうして分かったのか?

 光太も勘が鋭いのかな……?


 やがて飛行機は滑走路を走り、大空へと羽ばたいた。


 太陽の光が翼に反射して、思わず目を細める。


 そして……


 ひかりの行く道は、光輝こうきに満ちていた。



 A Nameless Assassin & Brilliant Girl


 ~Fin~








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名も無き暗殺者のひかり をりあゆうすけ @wollia

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