39話 死闘

 ステージ下の3人の警備員達は、何やら頭を悩ませているようだった。


「これで合ってるのか?」


「多分……」


「あー、もう!やってみるしかない!」


 その中のひとりが、右手に何か球体を持っているのが見えた。


 その男は、を沖田総理と木村総理官房のいる方へ投げつけた。


「おい!ちょっと投げるのだろ!」


 もうひとりの男がアタフタして怒鳴った。


 !!!


 ば、爆弾かっ!!


 夏井は球体状の爆弾をジャンプしてキャッチした。

 直ぐさまソレに目をやる。


「なんだこの爆弾は……?」


 元機動隊の爆発物処理班の夏井にとって、それは手作り感満載のお粗末な爆弾だった……しかし、コイツの真ん中にはカウンターが付いていた。


「クソッ!仕掛けだけはいっちょ前かよっ!」


 【0:12】 ……【0:11】……


 無情にも、カウンターは僅かな時を示していた。


「コイツはマズイ!時間がなさ過ぎる……」


 夏井は大きく息をひとつ吐くと、決断した。


「おい、SP共!爆弾だっ!さっさと間抜けな総理どもをここから遠ざけろっ!」


 SPも警備員達も一斉に夏井の方を振り向いた。


 夏井は、手にした爆弾を皆に見せつけた。


「ほ、本物か?おい、筋肉男!ソイツを人混みの中へ投げ込め!はやむを得ん!」


 木村総理官房は夏井に向かい怒号を浴びせた。


(クッ、どこまで腐った野郎なんだ!こんな奴らの為に……畜生!もう悩んでる暇もねぇ)


 夏井は自らを犠牲にして、爆弾を抱え込み身体を丸くして覆いかぶさろうとした。


 刹那……


 爆弾はスッ……と夏井の手から離れた。


「え?」


 ハルキが爆弾を奪い取り夏井から距離を置いた。


「ハルキ……何してんだ?早く返せっ!時間がねぇ!!」


 ハルキは、夏井に微笑みかけると天井を見上げ大きく口を開けた。


 そして……そのをゴクリと一飲みした。


「バ、馬鹿野郎!!なんて事を!!」


 夏井は、この仕事を始めてから、様々な窮地に追い込まれ、動揺する事も多くあった。

 しかし今……圧倒的に気持ちが乱れていた。


「ふぅ〜。最後の晩餐がかぁ……お菓子が良かったなぁ」


 ハルキは冗談めいて笑った。


「ねぇ、夏井さん……僕なんかと仲良くしてくれてありがとう。兄のように思っていたよ……じゃあ、バイバイ」


 ハルキは、笑顔で手を振った。


 そして、爆弾はにぶい音を立てて爆弾した。


 煙が立ち込める……


 だが、そこにハルキは居なくなっていた……



「うわぁぁぁああああ!!!!」


 夏井は膝から崩れ落ち、大きな身体を震わせてボロボロと涙を流した。


「バカヤロ……バカヤロ……何でだよ……クッ、クソォ!」


 そんな状態の夏井に、沖田首相が声を掛けた。


「あのブタはお前の仲間だったのか?良かったじゃないか、私の役に立てて」


 夏井は耐えた……

 血の涙を流して耐えた。


 ハルキは立派に仕事をしたんだ……

 それを無駄には出来ない。


 こんなクソ野郎を護る為に……


 ハルキ……ハルキ……ハルキィィ!!


 夏井は、号泣し、こぶしを握りしめ、歯が砕けるほど強く噛み締めた。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


(このナイフ戦闘術は父から教わった無敵の殺法だ。例え嶋田さんでも適うワケは無い)


 天斗あまとは先に仕掛けた。


 脇を閉め、ナイフを逆手に持ち、しなやかな細かい動作で嶋田おれに襲いかかってきた。


 まるで小さな虫のような動きでナイフをクネらせ、反撃を許さない。


 だが、俺はある事に気が付いた。


 天斗のナイフを見切り、刃を合わせて弾くと火花が散った。


 俺はバックステップで2歩後方へ下がった。


「天斗、お前の父さんの名前はか?」


 俺の質問に、天斗は目を丸くして動揺した。


「な、何故知ってるんです?」


 天斗のナイフを持つ手は小刻みに震えていた。

 手が汗ばんでいる様子も見てとれる。


「ナイフの戦闘術だよ。お前の使うナイフさばきを見て分かった」


 それを聞いた天斗は、ガラリと様相ようそうが一変し、ホッとした顔を見せた。


「なんだ、父の技を知っているという事ですね。だったら……嶋田さんは勝てないと踏んだという事ですね?僕は別に貴方を○したいワケでは無い。勝負は止めて、僕をステージの上に行かせて下さい」


 天斗はスッと警戒を解いた。


「天斗、勘違いするな。お前は俺にに勝てない。だから勝負を止めてここから立ち去れ。総理官房暗殺は諦めるんだ」


 俺は、最後通告をした。


「え?……僕が負ける?何を言ってるんです?では、勝負は続行します。嶋田さんは僕を○そうとはしていない。けど、僕は本気でイキますよ?ひかりちゃんには申し訳ないけど……」


 天斗は、再び構えを取った。


「……そうか、分かった。では勝負を終わらせよう」


 俺もナイフを構えた。


 お互いジリジリと間合いを詰める。

 そして……同時に仕掛けた。


 天斗は肘打ちのようにして素早くナイフをスライドさせた。

 俺はそれを僅か1mmのところでかわすと、ナイフを放り投げ天斗の顎を狙い拳を振り上げた。


 ゴッ……という鈍い音を立て、天斗は後方に倒れ込んだ。


 天斗は、脳天が揺れ動くことままならなくなった。


「な、なんで?どうして……?たぶん、僕は父よりもナイフを使いこなせるようになったはずだ。何で……?」


 天斗は、顎を押さえて立ち上がろうとしたが、ガクガクと膝が笑い、床に尻もちを着いた。


「確かに、お前は父の大介より強かった。でもな、そのナイフ戦闘術は……モノなんだよ」


 !!


「そ、そういう事だったんですね……そりゃ勝てない、勝てるはずが無いですね。いやぁ、悔しいなぁ……」


 天斗は、苦笑いを浮かべて天を仰いだ。




 







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