36話 可笑しな空間


 運転席には夏井

 後部座席にはハルキとひかり


 そして、助手席には……佐藤天斗さとうあまとと名乗る15歳の少年。



「おい、下手なコトをしたら……分かるよな?」


 夏井が強めの口調で天斗に話しかけた。


「勿論です。と言うか、今から僕の正体をお話しますので分かって貰えるかと……」


 そう言うと天斗は語り始めた。


「まずは名前も年齢も本当です。あなた達の敵でもありません。ひかりちゃん、驚かせてしまって本当にごめん……」


「ううん!全然いいの!ひかりは大丈夫」


 ひかりは安堵し、笑顔で返答した。


「話を続けろ……」


 夏井はまだ警戒を解かない。


「はい。僕の父はあなた方と同じONMITUおんみつのメンバーでした……」


 !!!


「なっ、ま、マジか……」


 ハルキはお菓子を食べる手を止めると、口元から食べカスが落ちた。


「父は一年半程前に殉職しました。それと、母も幼少期に亡くしているので家族はいません。ただ、父が沢山のお金を残してくれたので、それで独りで生活しています」


 夏井は運転に注視しながら、天斗の表情をチラリと確認する。


「僕はカラダを動かすより勉強の方が好きで、ある時パソコンで現与党の自国党について調べていました。どんな政党が日本を動かしているのかな?って。深く調べていくうちに、に辿り着きました」


 天斗は少し俯くと、話す声が小さくなった。


「皆さんはご存知かも知れませんが、自国党と『国造りの神道』には繋がりがありました。それはとても汚いコトで、『国造り〜』から献金を受け、自国党は言いなり……つまり日本を動かしているのは事実上『国造り〜』だという事です。今、国民を脅かすなども全て『国造り〜』の指示……」


 車内は静まり返っている。

 皆、天斗の話に聴き入っていた。


「そして、もうひとつ分かったコトが……それは父が殉職した時の案件に『国造り〜』が大きく関わっていたんです。僕は自分を抑える事が出来なくなりました。初めて人を○したいと思いました……それで、潜入した。ってところです」


 天斗はひかりと同じように、常人では耐えられないような人生を歩んでいた。まだ15歳だというのに……。


「その案件を指示したのは『国造り〜』ですが、自国党を裏で操っているのは首相では無く、総理官房の木村という男だという事も分かりました。僕は決めました、この木村を必ず○してやる!父の仇と、今 国民を苦しめているコトが許せないからです。だから、今日行われる演説会で木村をこの手で○します」


 天斗は目が潤み、声は震えていた。



「ちょ、ちょっと待ってくれ!では、食堂にいたあの信者4人組はハルキぼく達をめる為のフェイクって事かい?」


「いえ、彼らは僕が金で雇いました。今日、『国造り』の代表を施設内で○すよう命じてます」


 夏井は驚き、黄色信号で急ブレーキをかけた。


「ど、同時に……ってコトか」


「はい、『国造り』と演説会を同時に混乱させて、隙を作ります。そして油断したところを……」


 天斗の声の震えは無くなっていた。

 それどころか、力強い口調に変わっていた。


「ところでお前、何故俺たちの前へ現れた?その感じだと俺たちの任務も何となく分かっているのだろ?」


「はい。何となくというか……沖田首相の暗殺を阻止するんでしょ?」


 夏井の問いに、天斗は淡々と答えた。


「でしょ?って、キミが今回のターゲットだと分かってて……僕達に○されるとは考えなかったのかい?危険じゃないか」


 天斗の大胆な行動を理解し難いハルキは、思わずかばってしまう。


「それについてはひかりちゃんと出会って決めました。こんなに良い子の仲間だし、きっと良い人達なのだろうと。まあ、後は僕のターゲットが首相では無く総理官房の木村だと話したらワンチャン見逃して貰えないかと……」


 天斗は苦笑いしながら頭をポリポリと掻いた。


「ウフフッ、天斗君って面白いのね」


 ひかりはこの不思議な空間が可笑しくなった。

 まるでこれから人を○すとは思えない間抜けの集まりのようで、みんなそんな事をするような人達には思えなくて、少しだけ現実逃避したのかもしれない。


「まあ確かにお前の言う通り、内閣総理大臣暗殺計画という間違えた指令を受けたコトは認める。今は冷戦としよう。だが、こちらが上と連絡を取り、の暗殺を阻止する案件に変わったら遠慮はしない」


「はい、分かってます。僕も全力で計画を実行するまでです」



 およそ一時間後、うみねこホールの駐車場へ到着、嶋田おれ達は合流した。








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