21話 案件


 何時いつだろう?

 この記憶は……?




「おい、起きろ……起きろってあかつき!」


「うーん……ああ?」


嶋田暁しまだあかつき!いい加減にしろっ!」


 Даниилダニール秋山は拳銃の弾倉マガジンで嶋田暁の頭を軽く殴りつけた。


「っ痛ぇええ!!やり過ぎだろっ、ダニー!」


 俺は髪をクシャクシャにして頭をさすった。


「てか、ダニーおまえデカイ図体して何でこんな小さい車に乗ってんだよ!足痺れたわっ」


 俺たちは、小さくてボロい高級外車でひと休みしていた。


「まあ、そう言うな、ほれっ目覚まし」


 ダニーは後部座席にいる俺に缶コーヒーを投げ渡した。


「お、さんきゅう♪」


 俺はゴクゴクと喉を鳴らして飲んだ。


「ったく……調子いいなお前は。ところで、暁はこれからどうするつもりなんだ?なんて言うか、近い将来的な」


 Даниилダニール秋山は少し恥ずかしそうに聞いてきた。


「あー、今後ねぇ……俺は面白いがあったら、そこへ飛び込む。まあ、そんなとこだ。ダニーは何かあるのか?」


「オレはこの業界でトップに立ちたい。暫くはフランスで暮らして、掻き回して来るつもりだ。あのさ……お前も、一緒に行かないか?」


 秋山は目を逸らし、真っ青な空を見ていた。


「……誘いは有り難いが、俺はずっとこの業界に居たいとも思ってないんだ。悪いな」


 俺は少し胸を締め付けられたが、正直に答えた。


「そっか」


 秋山はひと言呟くと窓を開け、大きく伸びをした。


「あ、そうだダニー。日本コッチのヤーさんと韓国のマフィアさんがの取り引きをするって噂を、知ってるか?」


「え、ああ、小耳には挟んだ。それがどうした?」


「俺はそのヤマに首を突っ込んで掻き回してやろうかと思ってる!フランスへ行く前に最後に組まないか?それとも渡仏、急ぐのか?」


 秋山は喜びを隠すように快諾した。

 しかし直ぐに顔を歪めた。


「確かそのヤマってあの人が扱ってるのでは?……伝説の暗殺者ダークアイが」


「らしいな。だが、ソイツと絡みがあるという噂の見つけたんだ。俺が仕事取ってくるさ」


 俺は親指を立て、白い歯を輝かせた。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 ここか……随分古びたビルだな。

 なんの看板もねぇ。まあ当たり前か。よしっ!


 コンコンコンッ……ガッ!!


 俺は行儀良くノックをしてドアを蹴飛ばした。


 薄暗い部屋、テーブルに足を置き組んでいる男。


「早速だが、仕事が欲しい。ヤーさんと韓国の件だ。ここで扱ってんだろ?」


「……随分と元気の良い若者だな。確かにその件はウチで扱っている。何処からの情報だ?」


「……それって関係あんの?腕には自信がある。必ずくるから俺にその案件をくれ。頼りになる相棒もいるんだ。な?どっかで聞いてんだろ?ホンモノのダークアイさんよ……」


 俺は両手で丸メガネを作り、キョロキョロと探す仕草をした。


「フッ、面白いヤツだな。しかし残念だ、ウチは一見いちげんさんお断りだ。分かったら出て行け、ドアの修理代を請求される前にな」


「へぇー、アンタも面白いね……ダークアイさん。……まぁいい、俺は諦めない、また来る。認めさせてやるよ」


「そうか?楽しみにしている」


 俺は確信した。

 ここはただの職安じゃねえ……伝説の暗殺者ダークアイの眼の中と言ったところか……。



 3日後……


 俺は再び職安のドアを蹴破り登場した。

 しかもも持参した。


 俺は影武者さんのテーブルにお土産を投げ渡した。


 カランッ……



 !!


「こ、こいつは!ま、まさか公安委員会のバッジ……」


 拾い上げて手のひらで転がす影武者。


「ま、間違い無い……本物だ」


 震えで、手の上のバッジがコロコロと動いている。


「まあ念の為、ニュースを見観てみなよ」


 テレビ、ネット、新聞の一面は全て公安局員暗殺のニュース。


「どうだ?例の仕事、貰える?」


 俺はドヤ顔で白い歯を輝かせた。


「こいつは驚いた、お前みたいなのは初めてだ。文句は無い、この案件はお前さんに任せよう」



 ダニーが大きなカラダで小さな車内で待っていた。


 俺は助手席から乗り込んだ。


「仕事貰えたか?」


 ダニーは冷えた缶コーヒーを俺に渡してきた。


「勿論!文句無しだそうだ」


 俺はプルトップを開け、ダニーと缶コーヒーで乾杯した。


「しかしお前、どうやって公安局の人間をヤッた?」


「実は別の案件で以前からターゲットにしていた。奴の行動範囲、時間、自宅、SP……大体把握していたのさ」


「公安局の人間だぞ。かなり厳しい操作網が引かれるんじゃないのか?!」


「いや、問題無い。奴は真っっっ黒な公安局員さんだからな。狙っている同業は山ほどいる。恐らく警視庁も黒い部分を把握していたろうし、良いお払い箱になっただろうさ。まともに捜査もしないだろう」


「ほーっ!流石さすがは暁さんだな」


 ダニーが求めてきたグータッチに応えると、今回のヤマの話しに入る。


「早速BOSSから第一の指令を預かってきた。まずはコレね」


 俺はダニーに連絡用のスマートフォンを手渡した。


「明日韓国のソオル市へお前と俺は別便で飛ぶ。ホテルも別。情報は都度つどBOSSからスマホに連絡がくる。俺たちは別行動で情報収集、情報共有するのはスマホでは無く、街中のカフェで落ち合う。滞在期間は半年……」


「ちよっ、ちょっ、ちょっと待て!半年?!」


 ダニーは目を丸くして俺を見てきた。


「ハッハッハ!まあ、観光ついでに」


 照りつける陽射しの中


 俺たちは空港へ向かった。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る