13話 来客
若者で賑わう夜の繁華街、そんな都会に似つかわしくない古びたビル。
ブラインドから漏れる僅かな光だけが差し込む薄暗い部屋でシガレットを咥える一人の男。
空になった缶コーヒーに灰を落とした時だった。
ドアの向こう側に恐ろしい気配を感じ取った。
(待てっ、普通にしてろ)
イヤホンがら聞こえる声に平常心を保ち、いつも通り椅子に座り来客を待った。
ドアが3回ノックされると、身の丈180cm後半はあろう大男が入室して来た。
「お久しぶりです。BOSS」
大男は丁寧にお辞儀をした。
下げた頭から僅かに見える口元はほくそ笑んでいるように見える。
「4~5年ぶりか……白いハットにロングコート、相変わらずお洒落だ。気配を殺さずやって来るところもな。いつ日本へ戻った?」
短くなったシガレットを缶へ捨てると、机の上で足を組んだ。
その一連の行動を見ていた大男が、目の前のBOSSに言い切った。
「あれ?!BOSS、新しい
「影武者に気が付いているのはお前さんともう一人だけだよ。何故新しいと分かった?」
「昔と足の組み方が逆なもので」
男は思わず足を下ろした。
「へぇー、よく見ているな。そうだ、彼は二代目だよ。世話になったな、萩原くん。金は振り込んでおくよ」
「BOSS、お世話になりました」
「へぇー、彼も強いじゃないですか?!凄い殺気でしたよ……ところで、影武者に気付いているのは私と、もう一人は名も無き暗殺者って男ですか?」
「……まあ、そういう事だな」
イヤホンから
「で、日本へ戻った目的は何だ?……
秋山という男の目が鋭くなった。
「私は業界でトップに立ちたい。その為には二人の男を殺らなければならない。私もあっという間に中年です。力が衰えないうちに勝負がしたい。それだけです……伝説の暗殺者ダークアイさん」
BOSS……いや、目黒は一瞬口ごもった。
「……そう言われていたのは随分昔の事だ。とっくの昔に引退してるわい。今日でこの裏社会の職安も引退する。ただの老いぼれじゃよ。勝負しなくともお前さんの勝ちだろう」
秋山は思わず噴き出した。
「ご冗談を。イヤホンからでも凄い圧力を感じますよ。貴方は……強い。さてと、ちょっと珈琲を買ってきます。その間にここへ来て頂けますか?斜め向かいのホテルにいるのでしょ?!」
目黒は苦笑いをし、従うしかなかった。
チェックアウトをして5分程で事務所に着いた。
中へ入ると、秋山がコンビニで買ってきた珈琲を飲んで待っていた。
そして、目黒が入室すると立ち上がり挨拶をした。
「こうして向かい合うのは初めてですね。来て頂きありがとうございます。あ、これお近づきの印に……えーっと?」
目黒は秋山からペットボトルのお茶を手渡された。
「目黒だ……」
「そうですか、宜しくお願いします」
秋山は微笑み、頭を下げた。
「あ!目黒さんご存知ですか?某有名珈琲チェーンは冷凍輸入の珈琲豆なんです。だからね、コンビニの方がよっぽど美味し……」
「余計な話はいらん、要件は何じゃ?」
秋山は珈琲をテーブルの上に置くと、大きく深呼吸をした。
そして目つきは鋭くなった。
「まずはアンタはやはり強い。少しでも警戒を解いたら殺られるだろう……」
「それはお互い様じゃ」
「それと、私なりに調べたんです、名も無き暗殺者について。彼は任務中に岩田というパートナーを撃ち、突然いなくなった。憤怒した岩田はコンビニの
目黒は声も出さずただ静かに頷いた。
「繋がりが無いんですよ……この話に。だからね、私は思うんです。この出来事を繋ぐ人物がいる……とね」
目黒は酷く動揺した。
暗殺者として、相手に感情を見せてしまうなど決してあってはならない。
秋山は目黒が全てを知っていると確信した。
「憶測でしたが、目黒さんを見て確信しました。誰なんです?業界トップクラスの暗殺者二人と一課の刑事を丸め込んだ人物は?」
秋山は動揺する目黒に顔を近づけた。
「汗……凄いですよ。まあ、いいです。どうせ聴いても『死んでも言わない』と言われるだろうし」
秋山はぬるくなった珈琲を飲み干した。
そして、仕切り直すように質問してきた。
「さて、また憶測で申し訳ないのですが……ズバリ、名も無き暗殺者は
ほくそ笑む秋山に目を逸らし黙る目黒……
無言でも……無言だからこそ答えは決まっていた。
「やはりそうですか。アイツは生きていたんですね」
したり顔の秋山が視界に入った。
目黒はこの歳なり初めて知った。
守る者がある重責と恐れを……
嫌な予感が目黒の頭の中にこびり付く。
(武村くん、絶対に此処へ来るなよ!!)
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