ピロティにて:団地運営会社スタッフの回想
「これで全員ですか?」
緊急にかけつけた、団地運営会社スタッフである僕はそう声をかけた。
火事はボヤで済み、消防が処理をしている隣で住人の所在を確認しているところだった。
「あの…。三階のおばあちゃんは…?」
二階の火元の部屋に住んでいたらしい女はおずおずとそう言った。
「三階の?三階は俺だけなんですよね?」
三階に住んでいたらしい若い男がそう答える。
「えっ…?」
「あの、私よく三階に上っていかれれるおばあちゃんを見たんですけど…」
「三階のおばあちゃんは確かにいたけど…私半年くらい見てないわよ。入院でもなさってるのかと思ってたけど…」
一階の自治会役員の女がそう口にした。
「俺だけって…あなた、奥さんは?」
二階に住んでいるらしい女は、若い男にそう問いかけた。
「奥さん? いや、オレ、一人暮らしなんですよ」
「えっ? あの、この間「一緒に住むことになった」って奥さんが挨拶にきたわよ」
「えっ…何すかそれ…。ていうか、あんた、赤ちゃんは?」
「赤ちゃん?」
「えっ、うちには赤ちゃんがいるって言ってたよな?」
「……」
二階の若い女が再び声をあげる。
「あの、おたくにはご夫婦の名前が表札にありますよね? ご主人は…?」
「えっ? 主人? 主人は…どうしたのかしら…どうしたのかしら…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます