ピロティにて:団地運営会社スタッフの回想

「これで全員ですか?」

緊急にかけつけた、団地運営会社スタッフである僕はそう声をかけた。

火事はボヤで済み、消防が処理をしている隣で住人の所在を確認しているところだった。

「あの…。三階のおばあちゃんは…?」

二階の火元の部屋に住んでいたらしい女はおずおずとそう言った。

「三階の?三階は俺だけなんですよね?」

三階に住んでいたらしい若い男がそう答える。

「えっ…?」

「あの、私よく三階に上っていかれれるおばあちゃんを見たんですけど…」

「三階のおばあちゃんは確かにいたけど…私半年くらい見てないわよ。入院でもなさってるのかと思ってたけど…」

一階の自治会役員の女がそう口にした。

「俺だけって…あなた、奥さんは?」

二階に住んでいるらしい女は、若い男にそう問いかけた。

「奥さん? いや、オレ、一人暮らしなんですよ」

「えっ? あの、この間「一緒に住むことになった」って奥さんが挨拶にきたわよ」

「えっ…何すかそれ…。ていうか、あんた、赤ちゃんは?」

「赤ちゃん?」

「えっ、うちには赤ちゃんがいるって言ってたよな?」

「……」

二階の若い女が再び声をあげる。

「あの、おたくにはご夫婦の名前が表札にありますよね? ご主人は…?」

「えっ? 主人? 主人は…どうしたのかしら…どうしたのかしら…」

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