第5話 性欲強くてごめん♡

 そして、時は今へと巻き戻り。


「ご、ごめんねっ。ごめんね聖くん、わたしつい、その……興奮しちゃって!」

「あ、うん、いや、いいよ、いいけどさ……」


 何度も何度も搾り取られて、憔悴しきっていた俺は、ようやく我に返った麻栗にめちゃくちゃ土下座されていた。

 そんな俺に、麻栗が衝撃のカミングアウトをかましてくる。


「あのね、実はわたし、性欲がすっごい強いみたいで……学校では周りの目もあるし普段は隠して振る舞ってるんだけど、実は聖くんの傍にいるだけで勝手に色々濡れちゃうの!」

「ぬ、濡れ……」

「そう、濡れるの! 興奮して実は内心ずっとムラムラしっぱなしだしパンツは一日三回は取り替えてるし聖くんの家に遊びに行くたびにたまに聖くんの中古パンツを新品のと取り替えてコレクションしたりしてました!」

「これくしょん……」

「毎日聖くんの写真見ながらひとりでシてるし、初体験の時に聖くんに迷惑かけないようにって玩具でちゃんと慣らしておいた……んだけども」


 そこまで口にしたところで、麻栗がちょっと俯き加減になる。


「……玩具とか写真とか聖くんに見つかって、『あ、わたしのヤバいとこバレた』って思ったら、その……破れかぶれになっちゃいまして、それでまあついムラっとなってヤったといいますか……」

「ついカッとなってやったみたいな言い方すんなよ……。てか――」


 ふと気になり、俺は麻栗に訊ねてみた。


「……三年ぐらい前から部屋に上げてくれなくなったのって、もしかしてこれが理由? 当時は仕事が忙しいから、とか言われてたような気がするんだけど」

「あ、う、え? そ、ソンナコトナイデスヨ?」

「……」


 あ、怪しい~。

 完全に麻栗の目が泳いでいた。長年の付き合いだから分かるが……麻栗が嘘をつこうとする時のキョドり方であった。


「まあ、そうだよな。麻栗がこんなことで、下らない嘘をついたりするわけがないもんな~」

「う゛……」


 だからこそあえて、俺は麻栗を泳がせてみようとそんな風に言ってみれば、気まずそうな呻き声を上げる。

 そのことに気づかないふりして、さらに俺は言葉を続けた。


「なにより俺は、麻栗に嘘をつかれたりしたらショックで死んじゃうかもしれないしな~。そんな俺に対して、下らない見栄とか体裁とかで麻栗が嘘つきになったりするわけが――」

「ふぇぇぇぇぇんごめんなさぁぁぁぁい! 聖くんへのストーカー行為がバレたら嫌われると思って部屋に上げないようにしてましたぁ!」

「やはりか……」


 罪悪感に駆られた麻栗が、そう言って米つきバッタのように何度も頭を下げてくる。


 そんな麻栗の懺悔の最中も、俺はベッドから起き上がれないままだった。なんせ今しがた麻栗に五発も搾られたのである。普通に体力の限界だったし、最後の方はほとんど気絶しかかっていたのである。


 一方の麻栗はというと、これまた疲れた様子など微塵もなかった。むしろ肌艶が良くなり、元気になっているような気がする。サキュバスか何かの仲間かな? ほんと清純派設定はどこに行ったよ……。


 なんて思っているうちに、やがて麻栗の米つきバッタタイムが終わる。

 それから、顔を上げると彼女はおもむろに口を開いた。


「あのね、本当にごめんね……聖くんがまさか、たった五発でこんなにヘトヘトになっちゃうなんて思ってなかったから……」


 ――恐ろしい言葉を聞いた気がした。


「ちょ……ちょっと待って。たった五発・・・・・って本気で言ってる?」

「……? え、だって男の人って一晩で何十回もデキるんじゃないの……?」

「そんなわけないから!」


 思わず大きな声で否定した。


「え? え? で、でもこの本にはそう書いて……」


 狼狽えた様子で、麻栗は本棚から一冊の本を抜き出してくる。

 表紙には、『ヤりすぎ幼馴染は淫らなの野獣~何百回でも〇いでやるぜ~』というタイトルと共に、鬼畜な表情をした男に押し倒され恍惚の表情を浮かべるヒロインのイラストが描かれていた。


「お、お前……そんなの、読んでたのか……」

「う、うん……♡ 聖くんのこと想いながら……♡」


 恥じらいながら麻栗が頬を染めて可愛い――っていやいや、そうじゃない。今するべきはそんな話などではない。


 俺の幼馴染が――清純派な天使として学園のアイドルとしても有名な麻栗が、男の性事情について完全に誤った知識を持っている。そのあまりに大きすぎる問題について、今ここできちんとすり合わせておく必要があるだろう。


 俺はどうにかベッドから身を起こし麻栗に向き直ると、正しい知識を彼女に与えるべく口を開いた。


「いいか麻栗。一般的な男性というものは、漫画や小説みたいにホイホイ発射しまくったりとかできないんだよ」

「そ、そうなの?」

「ああ。健康な十代の男なら、せいぜい一日に二発程度。多くても三回か四回ぐらいしか発射できないものなんだ」

「そ、そんな……」


 俺の言葉に、麻栗が愕然とした表情となる。

 そんな彼女に、俺はさらに言葉を重ねた。


「分かってくれたか? だから今後はさ、エッチなことはほどほどにして、もっと他にも色んな恋人同士らしいことを――」

「じゃあ聖くんの×××××ピーをたくさん強くしてあげないと!」


 俺の言葉を遮って、再び麻栗が妙なことを口走った。


「うん。……え? うん?」

「聖くんの×××××ピーを、いっぱい鍛えてあげないと!」

「え、え? な、なんでそうなるの?」

「え、え? だ、だって気持ちいいこと楽しいよ?」


 ――致命的な認識格差を見た。


「あ、あのなぁ麻栗! 今言っただろ!? そもそも男は、一度にそんなにたくさんデキるように作られてないんだよ! そんなにヤったら干からびるから! 死ぬから!」

「で、でもきっと鍛えれば大丈夫だよ聖くんっ! わたし、頑張るからっ!」

「あのね、麻栗、頑張っても人間、できることとできないことがあるわけで……」

「で、でも何事もいきなり諦めることから始めるなんてよくないよっ。それにわたしたち、せっかく恋人同士になったんだから……恋人同士じゃないとできないトクベツなコト、聖くんとたくさんシたいもん♡」


 あ、可愛い。

 ――じゃなくて!


「な、なんで分かってくれねえかなあ!?」

「分かってくれないのは聖くんじゃないっ」


 そこからは喧々諤々の論争である。


 俺を鍛える派の麻栗VS性欲を我慢しろ派の俺。


 そんな俺と彼女の論争は、結局次のような形で幕を閉じるのであった。


「できるもんできるもんできるもーん! 聖くんの×××××ピーは筋肉ムキムキマッチョメンになれるもん!」

「やれるもんなら、やってみやがれ!」


 ――この日のこの言葉を、俺は後日、大変に後悔することになる。

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