第6話・魔法使いへの転職と女剣士との和解
----6日目表世界----
チュンチュン。
「今日もいい天気、転職日和だな!」
朝のルーティンをこなして転職の仕方を考える。
・・・
魔法使いへ転職する場所自体を知らないじゃないか!
ただでさえ怪しまれているからレイナには絶対に聞けない。
冒険者協会の受付嬢にも、転職できるLVになったと知られるのは危ないので聞けない。
ならば、最終奥義!・・・道で歩いてる人に聞こう。
魔法使いっぽいローブを着た、グラマラスで気だるそうなお姉さまが歩いている。
「すみません、魔法使いに転職する場所を知りませんか?」
「あら、魔法使いになりたいの?なら、私が連れて行ってあげましょうか?」
「是非お願いします」
ゼロは、お姉さまに頭を下げて後をついていく。
お姉さまはステラという名前で、職業はハイウィザードとの事。
ハイウィザードはどんな魔法が使えるんだろうと思っていると、お姉さまが俺の冒険者事情を聞いてきた。
俺は縁あって高価な杖を買い、ワイルドドッグをメインにソロ狩りをしています。と答えると、ステラさんはビックリした顔をしていた。
隠せばよかったかと後悔していると、魔法使い協会と書かれた看板の建物に着いた。
「わざわざ連れてきていただきまして、ありがとうございました」
「うふふ、ではさっそく転職試験を始めましょうか」
おお、転職試験官だったのか。魔法使い協会に入るとローブを着た人たちが結構いて、高LVっぽい魔法使いの方々がいらっしゃる。すぐに追い抜いてやるぜ。
ステラさんに転職試験の説明を受ける。
一つ目は、LV10以上。
二つ目は、この建物にある転移陣から転移した部屋で、敵を倒してゼリー10個を手にいれること。ゼリー?
三つ目は、銀貨3枚。
これが課せられた内容だ。
LV10で転職できる試験だから難しくなさそうだな。
すぐに転移陣に乗ると、広くて大きな部屋へ飛ぶ。俺が転移してきた影響なのか部屋に10体のスライムが湧いた。
やばっ!10体同時戦闘か、これは気を付けないとまずいぞ。
10体がポヨンポヨンしながら近寄ってくる。が、めちゃくちゃ移動速度は遅い。
気を付けなくてもいいかもしれない・・・
ウインドカッター1撃でスライムを倒せることが分かり、ヒット&アウェイで余裕だった。1体につきゼリー1個落としたので、10体を倒しゼリー10個を手にいれて転移陣から部屋へ戻る。
「ヒュー♪歴代最速タイムかな?あのスライムはHP低くはなかったと思うけど、もう10体倒したの?」
「ええ、ウインドカッターで1撃でしたよ」
「それはそれは。将来有望ね」
とウインクされる。ありがとうございます!
転職手数料の銀貨3枚を払うと、いかにもなゲーム音が流れた。転職が完了したようだ。
「あなたは魔法使い見習いを卒業して魔法使いとなりました。願わくば、あなたが偉大な魔法使いとなり他を導く存在とならんことを」
ステラさんから、マニュアルっぽいセリフも頂いたから終了だな。
-ステラside-
あの子、不思議ね。魔法使い協会を出たゼロを見つめる。
あのLVで高価な風の杖を持っていたことや防具を全く装備していないこと、ワイルドドッグをソロ狩りしていることなど全てが不思議。
一般的に魔法使いはHPや防御力が低いからこそ、固定砲台としてパーティに入りLVを上げるというのが当たり前。なのに、あの子は複数体で襲ってくるワイルドドッグをソロで倒し続けて転職LVまで上げてきたのよね。普通なら死んでるわ。
あの子、化けるかもしれないわね。顔も悪くないし、ちょっかいをかけてようかな♪
よし、転職できたぞ。
ゼロはガッツポーズしながら喜ぶ。
職業:魔法使い
LV10
女神の加護
女神の祝福
ステータスの職業も魔法使いだ。
ちなみに新しい魔法も手に入ったんじゃないですか?ドン!
・ファイヤーボール
・アイスボルト
・サドゥンウインド
ほら~、あるじゃないですか。ゼロは新しい風魔法が出たことに満面の笑みを浮かべた。
待ちに待った風魔法が出たのだから、当然サドゥンウインドを取得する。
せっかく新しい風魔法も手に入ったし、狩りにいくかー!
新しい魔法の性能が分からないから、まずはミニコボルトで試し打ちだ。
「サドゥンウインド!」
ミニコボルトは新魔法によって光の泡になった。この魔法は・・・範囲攻撃だ!サドゥンウインドは前方に突風が吹き荒れるのだが、攻撃範囲の幅がだいたい2m程度ありそう。
最高の魔法じゃないか!
後は、火力的にどうなのかな?範囲攻撃は単体攻撃より弱いのが当たり前だからな。
サドゥンウインドがワイルドドッグにどの程度効くか検証するために、いつもの狩場まで行って試してみる。
検証結果としては、ワイルドドッグを倒せるほどの火力はないけど吹き飛ばす事はできる。クールタイムは10秒ぐらい。
俺の頭の中で、ワイルドドッグ4体と戦ってみる。
・・・所持する魔法をフル回転させれば安全に倒せそうだ。ここまできたら、ワイルドドッグ4体湧きの狩場へいくぞ!
いつもの狩場よりさらに奥へ歩いていくと、ワイルドドッグ4体が襲ってきた。
4体のエンカウントは初めてだが、倒すイメージはできてる。
「「ガゥガゥ!」」
「ウインドランス!」
ウインドランスで1体を倒して、速攻でウインドカッターを放ち2体目を倒す。
その後、新しい魔法を使う。
「サドゥンウインド!」
「キャィン!」
前方に突風が吹き荒れワイルドドッグ2体は吹き飛んでいく。
そこへ追撃のウインドカッターで1体を仕留めておいて、最後の1体は体勢を整えて走ってきたところを、ウインドカッターで倒す。
ふー、なんとかなったな。
ウインドシールドを残してワイルドドッグ4体を倒せたから、これからの狩場はここにしよう。ただコボルトとは出会ってないから気を付けないとな。
その後もワイルドドッグが3体~4体襲撃してきたところを倒し続けていると、俺と同じぐらいの身長のコボルトが現れた。
「ググルゥ!」
今検索しますって言わなかったか?
こいつはミニコボルトがでかくなっただけ、本当にそのまま大きくなっただけ。ただ、走る速度は俺と同じぐらいの速度で走れるようになっている。ヒット&アウェイは使えないな。
「ウインドランス!」
「グゥアッ!!」
コボルトはウインドランスを受けて光の泡になったが、ウインドランスは貫通せずに消えてしまった。
ウインドランスが貫通せずに消えたということはHPが多いのだろう。ウインドカッター1発では倒れないだろうな。
その後も、狩りを続けた。
LVは11となったが、風魔法の出現はなし。
本日の成果はワイルドドッグの牙15本、ぼろ切れ5枚、銅貨15枚。コボルトの槍は捨てた。
日没だ。
初の転職をして舞い上がり、初範囲魔法を駆使してワイルドドッグ4体も倒せるようになった。最高の1日だ!と思っていたが忘れていた。この後、協会宿舎の保管箱から裏世界のドロップ品を回収しにいかないといけないんだ。レイナがいなかったら言うことなしなんだけどな~。
協会宿舎まで帰ってきて、部屋の扉の前で合掌しお願いする。
レイナ、今日はたまたま外出中でいないって事でお願いします。いらっしゃったとしても、俺のすることはいつものことだと関心をもたないようお願い申し上げます。
なにを言っているのか分からない状況だが、部屋の扉をノックして開ける。
「お疲れ様」
「お疲れ様です・・・」
レイナさんは出迎えてくれた。
そそくさと保管箱の中から裏世界のドロップ品を回収する。
じー。
背中にすごい視線を感じる、ものすごく感じる。
これほどまでに視線を感じたことは人生で一度もないかもしれない。冷や汗が止まらない。
「ねえ」
「はい」
「私の知る限り、ゼロが保管箱の中にアイテムを保管しているところは見たことないんだけど」
確かに!レイナさんのおっしゃるとおりです!
「いやー、実は狩りの途中で荷物になっちゃうんで、途中で協会宿舎に戻って保管箱に保管してるんですよ。あははは」
「私、イーナさんにゼロが狩りの途中で帰ってきたかを聞いたんだけど帰ってないって」
「・・・」
「・・・」
「よし!じゃあ協会で精算に行ってきます!」
「あ!ゼロ!ちょっと、まだ話終わってないわよー!」
裏世界のドロップ品をポーチに詰めて、ビシッと立ち上がり協会に行くことを宣言して、ダッシュで部屋を飛び出す。
後ろから大きな声が聞こえてくるが、今は無視するしかない!未来のことは未来の自分に投げるしかないんだ!
ああ、昨日と同じデジャブだ。
じー。
冒険者協会に入り、受付嬢に精算したいものを提出するとすごい視線を感じる。ものすっごく感じる。
受付嬢さんは俺に惚れてるのかな?と目を合わすとすごい不信感のある目だ。
決してかっこいい、好き。なんてLOVEな目ではない。
「・・・」
「・・・」
ええっと、そんな目を向けられても精算がしたいとしか言えないんだけどなーと思いながら、あらぬ方向に視線を向けてぼんやりしているように装う。
「ゼロさん、なんでワイルドドッグの牙がこんなにあるんですか?」
迫力のある声で言われる。
確かにレイナも受付嬢も、俺のLVは6くらいだろうと思っているのだから不思議でしょうがないのだろう。
俺が今日から狩りしだしたのは、LV9以上かつパーティ狩り推奨場所だ。その場所をソロで1確狩りしてきましたなんて言えない!俺はLV6と思われているのだから!
唯一の救いは、無暗にLVを聞くのは失礼という暗黙のルールだ。もちろん自分から自慢したり、教えてもいい仲なら問題はない。というようなことから、LV6くらいの魔法使いがワイルドドッグの牙を25本も手に入れることを怪しむのは普通なんだよな。うーむ、どうしたらよいやら。
「ゼロさん、私と出会って1週間立ちましたよね。それなのに受付嬢としか呼んでもくれないし、名前も聞いてくれないじゃないですか。距離感じちゃうなって、ゼロさんにとって私ってそんなに興味ないんですか?」
気落ちしたような振る舞いで受付嬢が話す。
ぐっ、MMORPGではNPCの会話を飛ばしまくった弊害がここにきて!
正直言って、協会や店主などのNPCって取引かクエストぐらいしか必要ないので、名前を覚えたことがなかった。とはいえ、この世界はNPCも人のように行動するから、人に接するように対応しないと色々不都合がでそうだ。
「申し訳ありませんでした。どうも女性と話すのが昔から苦手でして、お名前を聞いてもよろしいですか?」
「もう、ゼロさんはしょうがないですね。あらためまして、冒険者協会受付嬢マリと申します。精一杯サポートいたしますので、ゼロさんも私を頼ってくださいね。あと、女性には優しく・・・」
「あら?ゼロさんじゃないですか」
「あ、ステラさんこんばんわ」
魔法使いのお姉さんって色気の塊みたいな存在だな。
「こんばんわ、ふふ、またどこかでご一緒しましょ」
「是非お願いします」
魔法協会のステラさんが一声かけてくれた。ご一緒って冒険のことかな?あの人は高LV魔法使いだと思うから、色々聞きたいし是非ご教授願いたい!と思っていると鬼のような気配が。
「ゼロさん」
「は、はい」
「女性が苦手だと言いましたよね。ご一緒するほどの仲になったんですか?女性が苦手なのに」
「え、えーっと・・・」
「今日の報酬は銅貨140枚で仮登録料3枚とダンさんへ40枚の支払いですので、97枚のお渡しです!次の方~」
早口でまくられ追い立てられたのでギルドの出口へ向かいつつ、振り返って一礼しながら伝える。
「マリさん!今後ともよろしくお願いします!」
マリさんはしょうがないな~的な優しい顔をしてくれた。
ふー、とりあえず仲直りはできたかな?
現実では本当に女性を苦手としてる部分があるから言い訳にピッタリだと思って説明したら、ステラさんが声をかけてくるんだもんなー。
やはり魔女か、なんて事を思いつつ協会宿舎へ帰ろうと思った時に思い出した。レイナへの返答を全く考えてないじゃないか。
「レイナさん、本当に申し訳ありませんでした!」
「え、なに?」
部屋に入る早々で、謝罪する。
「実はドロップ品の事は事情があって話すことができないんです。悪いことはしていませんので、ご理解いただきたいです!」
「もう・・・、色々言いたいことや聞きたいこともあったけどわかったわ。話すことができないと正直に話してくれれば、冒険者として追及するわけにもいかないしね。悪いことはしていないんだよね。でもいつか教えてくれると嬉しいな」
レイナは笑顔で納得してくれた。この件、犯罪者と罵られてもおかしくないと思うから本当に怖かった。
時と場合にもよるが、話せないことなら正直に話せないと言うことで相手の信頼を得られる場合がある。
話を隠し通せるならそれでいいのだが、ばれているなら誠実に話すことが大事。そんな事を思いながら寝る。
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