第5話・女剣士と受付嬢のジト目

「お疲れ様でした、確認させていただきます。ッ!ワイルドドッグの牙じゃないですか!大丈夫でしたか?ワイルドドッグは推奨はLV8以上で、魔法使いのソロは無謀と言っても過言じゃないモンスターです・・・よ?ゼロさんが背負われてる杖、風の杖じゃないですか!」


「そうなんですよ、武器屋の方がオススメしてきたので買ってしまいました」


受付嬢がびっくりした感情と心配した感情が入り混じって、すごいことになっている。


「風の杖は高額だったかと思いますが、お支払いは大丈夫でしたか?」


「分割払いで買いました。毎日一定額返済することを条件に、購入させていただきました」


「す、すごいですね。その杖をそのような方法で売った武器屋の方もすごいですが、ゼロさんもそれを購入するなんてすごいです。ですが、本当に大丈夫なのですか?支払いが滞った場合は、奴隷になってしまいますよ」


「ええ、承知の上で購入していますので安心してください」


すごい心配されてるけど、そんなに大層なことだったのか。風の杖の購入は無謀にしか見えないらしい。


「そうですか・・・がんばってください。精算が遅くなり申し訳ございませんでした、薬草4本で銅貨12枚、ワイルドドッグの牙は1本で銅貨5枚となりますので5本で25枚、合わせて銅貨37枚となります。冒険者登録料銅貨3枚いただきますので、銅貨34枚のお渡しです」


「ありがとうございます」


「これからも気を付けてください、応援していますので」


受付嬢さんはとてもいい笑顔で送り出してくれる。

惚れちゃうよな、あんなに可愛いと。

言い寄ってる男も見たことあるが、その男は当然のように玉砕していたが。


所持金は銅貨74枚。

これから毎日風の杖の支払いで40枚は消えるから、馬車馬のように狩りをせねば。

協会宿舎に戻り、ルーティンをこなして部屋へ帰る。

あ、部屋の前で思い出したが、3日目の裏世界でのドロップ品を清算するの忘れてた。

色々レイナに疑われてるし、ちょうどいいか。


「お疲れ様です」


「お疲れ様」


「レイナさんはあの後、狩りに行きましたか?」


「野暮用があっていかなかったわ」


「そうでしたか。レイナさん、今日は武器屋を紹介してくれてありがとうございました。あんな高額の杖、俺一人で買いにいっても、分割払いなんて無茶な売り方はしてもらえなかったと思います。性能も検証したんですけど、めちゃくちゃ強くてLV上げが捗ると思います。本当にありがとうございました」


「そんな大層なことしてないわ、武器屋に連れて行っただけだし。ただ、あの買い方はオススメできないわ。今後はちゃんとお金を貯めた後で買いなさい」


レイナは少し顔が赤くなりながら、そっぽを向いて答える。


「わかりました、気を付けます。さてと!明日もありますし、もう寝ましょう!」


「なんでそんなに寝るのが嬉しそうなの、怖いわよ」


レイナは機嫌よさそうに、呆れたような顔をした。


夜になったら早く寝て、狩りに出かけなきゃいけないんだよ!

分割払いの返済もしないといけないしね!



----4日目の裏世界----

チュンチュン。


「朝だーーーーーー!!!!」


起きて早々、人がいないと思って全力で叫ぶ。

叫んだ瞬間に、万が一ここが表世界でレイナが横にいたらと思うとゾッとして、焦りながら周りを見回す。

誰もいないよな、焦ったー。


風の杖を持って、初心者の森の奥のほうへ歩いていく。

今日の薬草採取は偶然見つけたら採取するぐらいにして、表世界で見つけたミニコボルトとワイルドドッグが出現する場所で狩りをしよう。


協会で聞いた話では、その辺りの狩場はワイルドドッグが3体までしか襲ってこないと。もう少し奥の狩場は、ワイルドドッグ4体が同時に襲ってくることがあるらしい。その場所で適正LVの魔法使いがソロで挑むのは、魔王に挑むのようなものとまで脅された。

レイナは武器や防具を揃えてワイルドドッグ4体に挑んだらしいが、ポーションガブ飲みで割りに合わなかったらしい。

それでも!裏世界はソロ以外の選択肢がないのでやるしかないんだ!

とするならば、現状を打破できる防具を用意して、ソロ狩りできるようになることが課題だな!


その後はミニコボルトとワイルドドッグがいる場所で狩りを続けて、LV8になったけど新しい風魔法は出現しなかった。まさか火や水の属性スキルをとらないと、新しい風属性の魔法が出現しないのか?と一瞬頭によぎった。

が、まだ様子を見るべきだと思いなおして我慢する。


日没だ。

今日の成果は薬草3本、ワイルドドッグの牙12本、ボロ切れ3枚、銅貨12枚だ。

すごい稼いだ気がするぞ、銅貨の枚数はいくらになっているか計算してみる。

9枚+60枚+12枚=71枚だ。

すっご!銀貨7枚分になってるわ!

宿舎に戻って、保管箱に戦利品を収めて寝る。




----5日目の表世界----

チュンチュン。


朝か~、今日もいい天気だな。

というか、雨を見ていないがこの世界は降らないのかな?


食堂に降りてルーティンをこなし、初心者の森へ急ぐ。

今日も元気に狩るぞー!と心の中で気合を入れる。


オラオラ精神で狩り続けていると、LV9になったが新しい魔法は出現しない。

風属性の魔法は今後一切でませんとか絶対にないよな?いつになったらでるんだ・・・


日没だ。

今日の成果は薬草2枚、ワイルドドッグの牙13本、ぼろ切れ4枚、銅貨10枚だ。


今日の成果は上々だが、この後が非常に問題だ!

何故なら、協会宿舎に裏世界で手に入れたドロップ品を回収しにいかなくてはならない。

そして、そこには怖い怖いレイナが・・・


「お疲れ様~・・・」


なるべく小さな声で、そーっと部屋の扉を開ける。


「お疲れ様、なんでそんなひっそり部屋に入ってくるのよ」


「そういう気分だったんです」


「本当に変な人ね」


レイナはじーっと俺のほうを見ている。

お願い見ないで!

と言えるわけもなく、保管箱を開けて裏世界でのドロップ品を取り出してポーチの中へ。


「ねぇ・・・」


「はぃ」


「おかしくない?」


「な、なにがでしょう」


「あなた、ワイルドドッグの牙を10本ぐらい保管箱から取り出したわよね?」


「・・・取り出しましたね」


「あなたのLVって、がんばっても5LV程度よね?武器が強くてもワイルドドッグ3体は無理でしょう?

それなのにどうやって手にいれたの?」


汗をだらだらと流しながら答える。


「じ、実は、たまたま近くにいたベテラン冒険者の方がペア狩りをしてくれまして、手に入ったんですよ。本当ですよ」


じー。

レイナさんがすんごい見てくる。まだまだ見てくる。


「はぁ、まあいいわ。私にも今度、その冒険者紹介してくれる?」


「紹介いたします!とりあえず協会で精算に行ってきます!」


逃げるように協会へ向かう。


いつも可愛い受付嬢さんに精算をお願いする。

忘れていた3日目と4日目の裏世界のドロップ品も一緒に精算をお願いするので、薬草13枚、ワイルドドッグの牙25本になる。


「え!ゼロさん、なんでワイルドドッグの牙が25本もあるんですか!」


受付嬢さんは、ものすごくびっくりした顔をしてカウンターから身を乗り出して聞いてくる。


「いや~、実はベテラン冒険者の方がペア狩りをしていただけまして運よく手に入ったんですよ。お前は駆け出しの冒険者だからドロップ品は全部譲ってやるって。良い人ですよね、あははは」


じー。

なんで受付嬢さんまで、その目を!

今回はレイナへの言い訳をした時のセリフだから、自然に言えたと思ったのに!

なにも言わず精算してください。お願いします。


「もう、ゼロさんはしょうがないですね。今回は薬草で銅貨39枚とワイルドドッグの牙で銅貨125枚となり、銅貨164枚になりますが、仮登録の支払い3枚とダンさんへの支払い40枚を差し引いて銅貨121枚をお渡しいたします」


「ありがとうございます」


受付嬢さんは呆れたような笑顔をしつつ、銅貨を渡してくれた。

うーん、ワイルドドッグの牙25本は異常だったのか?

よく考えると、3日分の精算を1日でしてるわけだから異常に思われるか。

とりあえずベテラン冒険者さんが助けてくれたで押し切るんだ。


本日の稼ぎは、3日分のドロップした銅貨34枚とドロップ品の精算で手に入れた銅貨121枚で計155枚。

所持金は銅貨229枚となった。


裏世界のドロップ品について、別の言い訳を考えたほうがいいかなと腕を組みながら宿舎へ帰ってきた。


「お疲れ様~」


「お疲れ様」


今日も早く寝て狩りにいかねば!と思っていると、レイナが話しかけてきた。


「ゼロ、私転職したのよ」


「なにっ!転職だって!何LVになったら転職できるんだ!」


「最初に聞くことが転職LVなの?私が転職したことを祝ってくれるんじゃないの!」


しまった、この世界の転職システムが知りたすぎて失敗してしまった。


「あ、確かに。転職おめでとうございます」


「もう。私、やっと剣士に転職できたのよ」


「おめでとうございます!レイナさん、めちゃめちゃ頑張ってましたもんね。毎日朝早くから出かけて夜まで狩る姿は、本当にカッコイイです!」


「ん、いきなり真剣に褒めなくても」


俯いて照れている、可愛い。


「レイナさんは転職したことで、なにか変わったことはありましたか?」


「うん、新しいスキルを覚えたわ。カッコイイスキルだからゼロにも今度見せてあげる。あ、転職は10LVで転職可能よ。ただし、各職業の転職試験を受けて合格だったらだけどね」


「教えていただき、ありがとうございます!」


「ゼロもがんばりなさい」


激励もいただいて転職情報も手に入ったし、めちゃくちゃテンション上がった。

寝よう!



----5日目裏世界----

チュンチュン。


いつもの場所で狩りをした。

転職が目の前に迫ってきていると思ったらテンションがあがりすぎて、でてこいやー!などと叫びながら狩りをした。危ない人代表だったがしょうがないよな!転職だぞ!盛り上がるところだよ!


ばっちりLV10になった。

今日の成果はワイルドドッグの牙13本、ボロ切れ6枚、銅貨10枚。薬草は転職したすぎて目に入らなかった。

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