第14話 千世と師走から始まる世界地ZOO

 千世はカメラドローンをリュックに詰めた。

 それから一旦駅へと向かい、親友の師走が来るのを待つ。


 予定だと朝十時集合になっていた。

 

 千世はお母さんから受け継いだ剣を竹刀袋に入れ、新しく買った薄いオレンジ色に白いラインの入ったカジュアルなカーディガンを着ていた。

 

 首からはクリスタルをペンダントとして付けている。大体胸の下辺りに来る高さに調節していて、千世のお世辞にも大きいとは言えない小さい胸がより一層際立つ。


「こんな格好で良いのかな?」


 千世は少し不安だった。

 ROADで師走からメッセージが届いた時、駅前集合って言われたから、何処に行くのか知らない。


 とりあえず配信の用意と万が一に備えて準備はしてきた。

 それ以外はいつもと変わらずで、まだ現場に来てもいないのに身震いする。とっても不安だ。


「うーん、上手く配信できるのかな?」


 不安を吐露してしまう。

 すると遠くの方から声が聞こえた。黒いTシャツに赤と黒のコントラストが素敵なパーカーを着ている。


「おーい、千世ー!」


 手を振りながら師走が走ってくる。

 あっという間に目の前までやってくると、息を荒くするわけもなく、「ごめんごめん、ちょっと遅れた?」と不安そうにする。


「ううん、私も今来た所だよ。それより師走、その格好似合ってるね」


 千世よりも師走の方が背が高い。

 千世が百六十センチくらいなのに、師走は何と百七十センチ、しかも体重は同じくらいと、何だか自分が太っているような感じがする。

 だけどそれは間違いで、師走は鍛えているからそうなのだ。


「千世も似合ってるね。今回からは、ほぼリアルアバターは使わないでよねー」

「ん? 何言ってるの?」


 千世は首を捻ってしまった。

 しかし説明は後のようで、師走は千世の手を引き駅のホームへ向かう。これから電車に乗って、ダンジョンに向かうことにした。


 ※


「ねぇ、師走」

「ん、なに?」

「師走、今からどんなダンジョンに行くの?」


 千世は未だに知らないダンジョンの在処を聞いた。

 すると師走はニヤニヤしながらスマホで何か調べ始める。画像を検索して、千世にドンと見せつけた。


「今から向かうのはねここだよ!」

「ど、洞窟?」


 明らかにそれは洞穴とかそんなレベルではなく、洞窟だった。

 洞窟の中の写真は何故かは分からないけれど写りが極端に悪くてボヤけているけれど、これもダンジョン特有の電磁波的作用のせい。とは言えあまりにも道が広く、暗くて不気味だった。


「この洞窟は、蛇足だそくの穴って呼ばれてるんだよねー。比較的安全って言われている場所で、市役所のダンジョン調査課で聞いた限りだと、初心者にもおすすめらしいよ……稀に危険なこともあるけど、多分大丈夫だって」

「た、多分なんだ……」

「まあそんなこともあるよ。ダンジョンは謎だらけなんだから」


 師走の説明がアバウトすぎて怖い。

 だけど今更引き返すこともできず、電車は進んでいく。途中で降りても良いけれど、流石に師走を一人で行かせるのも怖いので、千世は友達のためにも勇気を出してその場に残った。


「そう言えばさ、千世は新しいチャンネル作った?」

「えっ、チャンネル?」

「そうそう。私達は二人でやるんだよ? それなら共有のチャンネルを持っておいた方がいいでしょ?」


 確かにそれもそうだ。

 千世個人アカウントはあくまでもコメント用なので、配信用に持っておいても損はない。


 とは言え今から作るとなると、どんな名前がいいのかな?

 千世は「うーん」と唸るものの、師走はスマホをもう一度操作して千世に見せびらかす。


「じゃじゃーん!」

「ど、如何したの? ……えっ!?」


 師走のスマホにはμtubeのチャンネル欄が表示されていた。

 しかし師走のアカウントじゃない。アイコンはまだないけれど、名前だけは決まっていた。


「世界地ZOO? な、何これ」

「何って私達のチャンネルだよ。如何、ちょっと可愛くない?」


 師走は食い気味に千世に聞いた。

 可愛いか可愛くないかで言えば微妙なラインを低空飛行している気がしたけど、千世は「うーんと、い、いいんじゃないかな?」と更に微妙な反応で返した。


「あー、何その微妙な顔。いいじゃんかー」

「良いけど、なんで世界地ZOOなの? 世界地図とZOOを掛けてるんだよね?」


 千世は試しに師走に尋ねると、完全にその通り。的を射過ぎているくらいドストライクだった。


「うん、そうだよー。さっすが千世だね」

「う、嬉しくないよ」


 千世は素直に答える。

 とは言え掛け合わせるだけなら分かるけど、なんでその二つを掛け合わせたのかはいまいちピンと来ていない。

 その顔色を窺ったのか、師走は自分から答えを言う。


「だって千世って逆さにすると千鳥になるでしょ? それなら動物で合わせた方がキャラがあって良くない?」

「そ、それだけ?」

「それだけ。ってことで私はシュヴァルでよろしく、そう言うわけで千鳥。これから頑張ろっか!」


 師走は言いたいことをズバリ言った。

 もっと壮大な世界観が広がっているのかと思いきや、意外にも単純明快すぎてクスッと笑ってしまう。


「確かに師走は足速いもんね。よろしく、シュヴァル! ……って、なに?」

「任せておいてよ。あー、能力ガチャも速く動ける系がいいなぁー」


 師走は自分の個性をガチャと表現する。

 そう言えば私の能力ってなんだろ? と、未だにあの最強能力が理解できていない千世だった。

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