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「遡ればもう三十年は数える程の前に、大爆発が起きました。それこそ宇宙の始まりビッグバンのような、と豪語しても差し支えないと思います。おかげでこの時ばかりは一般の人にも異変が起きているとなんとなくでも勘づき、一部で大騒ぎとなりました。勿論、当時はまだ小学生になろうかという私の耳にも風の噂で入ってきましたし、妙な胸騒ぎだけは常にうずいてました」

 大爆発、ビッグバン。

 なんだか大変な事が起きたようだが、今日こんにちまで日本は世界に誇れる平穏を維持しているぞ。どこでそんな大変事が起きたんだ。俺は身構えるように黙って耳を傾けた。

「そして、あれ何かが変わった、そんなこれまでにない強い変調を受信したと同時にどっとニューウェーブが押し寄せてきました。その変化は物理的に、目に見える形でも表れたほどです。日本ではまれな千人規模のストライキが決行された、国や企業の中心的なポジションにいる大物が不審死をとげた。これの意味することがわかります? 内側では不満が渦巻いていても、なす術なく無抵抗だった力なき市民が結束して反抗し始めたのです。この世の中はおかしい、理不尽だと。なぜいきなり? それは武器を手に入れたからです。刃物や拳銃ではない、第三の武器。それをとりあえず当時の人々は手っ取り早く理解したくてと呼んでました。超能力者が牙を剥いていると」

「超能力のような力を持った人が権力者にはむかったって事ですか! しかし、どうしてまたそんな行動に出た人がいきなり三十年前に出現したのですか? 人類の歴史もなんやかんや長いです。もっと前に現れてもおかしくない気が」

「もしかしたら記録に残っていないだけで、もっと前から何かしらのアクションを起こしていた人はいたかもしれません。長いヒストリーの中で世界各地で起きた革命の数々、そこに超能力者がこっそり噛んでいた方がしっくりくるとさえ思います。他にも大昔からある特別な力を持った者の伝承など。でも、あれほどまでにそんな人達が結集して力を合わせるまでにこぎ着けたのは目覚ましい科学技術の発展もあることでしょう。今ならインターネットのおかげで、きっかけがあればこうして昨日まで交流もなかった人と連絡を取り合い、簡単に出会えてしまうわけですから。それにプラスして、あらゆる事象を大勢と共有できるようにもなった。これは超能力ですと吹聴する手助けもしたのです。昔だったら誰にも相談できず違和感だけで済ませていたものにかいを出した。そんな環境になったからこそ大爆発、ビッグバンが起こったんですよ」

 同じ志を持つ者、同類がどれだけ全国にいるのか可視化された、共有できる範囲が劇的に広がったからというのは一定の説得力がある。が、そんな歴史的な事があったならなぜ世の中はガラリと変わっていない。

「そこから三十年が経ったんですよね。いまその超能力者達はどこにいるのですか? そんな凄い力を持っているなら制圧するまで侵攻して実権を掴めばいいじゃないですか」

「そこなんですよ。僅かな期間、急速に力を轟かせたが、それが嘘のようにまた急に失速してしまった。もしかしたら調子に乗るのは禁物と頭を冷やしたがゆえのことなのかもしれませんが、それでも三十年です。なぜそこまで時間をかける必要が? とは私も思っています」

「後先、考えず暴れ回るのは適切ではないと一度、立ち止まったのはあり得そうですが……ちなみにその情報はどこから手に入れたのですか? 小学生の葉山さんでは行動できる範囲もかなり限られていますよね」

「お恥ずかしながら主にインターネットですが、正確な情報だったと思います。まるでみたいに。なぜかこの人が超能力者ですって写真まで出回ったんですよ。その人に接触したって人まで出てきて、そうだと認めたそうです。その写真の人、驚くべきことにあの集合写真にも写っていたのです。これはいくらメルマガ登録者様でもホイホイ教えるわけにはいかない極秘のことです。石田さんだから教えました。あの歳をとっていない男性の隣に居たもう一人の男性がそうなんです。これで信憑性はグッと増しました。となるとあの人達は全員、超能力者って説もあるんじゃないかと。あの写真が撮られた場所が特定できれば、出会えるかもしれません。人気ひとけが少なそうな所ですし、訳あってそこに身を潜めているのでしょうかね。削除したとはいえいっときでもブログに載せていたのは矛盾していますが、それだけドタバタする不都合な事が起きて隠れざるを得なくなった……本当に何があったのでしょう」

 俺は腕を組む。沈黙を紛らわせる時間稼ぎの一言すら思い浮かばない。

「そこで石田さん。メールで教えてくださいました女性はどこでお見かけしたのですか? その周辺に隠れ家がある可能性は十分にあります」

 ふるさと村自然公園——字の如く自然が多い所。集合写真が撮られた場所と特徴は合致はしている。あそこに人が住める家なんかあるのか。

「隠れ家……ありますかね。駅前の商業施設のど真ん中でしたので。あの近辺には住んでいない気が。でも先ほど仰っていた通り彼女が繁華街をうろちょろしているってことは、計画が密かに進行している説はいい線をいっていると思います。なんとか捕まえて、仲間に入れてもらえたりできませんかね」

 ほとんど冗談のつもりではあったが、俺はこんなことをつい口滑らせてしまった。爆音響く派手な争いはしていないとはいえ、そんな支配を目指した戦争みたいな行為に加担したくはない。彼女もそんな野蛮なことに賛成しているのだろうか。

「そうですね。とりあえずその場所を教えてくれませんか。そこを起点にめぼしい所を探ってみようかと」

 おっと。葉山さんはやる気満々か。そうなると地図を広げれば、遅かれ早かれふるさと村自然公園にも目をつけることだろう。

「わかりました。のちほどメールでその駅名を送ります」

「はい。お願いします」

 ありがたい。なぜ口頭では駄目なのですか? と怪しまれなかった。

 俺はその気はなかった。

 いわゆるだ。それが働く。

 こいつとは関わらない方が身のためだと。

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