第19*

 俺は母さんが好きだった。

 俺を産んでくれたから。

 俺はこの世に生まれて、素敵なものを見たり、素敵な人と出会えたりする事が出来た。

 母さんが俺を産んでくれたおかげだ。

 父さんに会えた。

 俺は父さんが大好きだ。

 いつも俺の事を世界で一番かわいいと褒めてくれる。時には全力で怒ってくれる所も好きだ。

 みことに会えた。

 俺はみことを愛している。

 俺の事を一番に考えてくれていて、宇宙一かわいいと褒めてくれ、愛してくれる。そして全力で守ってくれる。

 みことが隣に居てくれるから、俺も俺で居られる。


 俺が幼い頃、母さんは毎日忙しそうにしていた。

「あそぼう」と言っても「忙しいから本を読んでて。あらたちゃんはお利口さんだから、出来るよね?」と言い、俺に本を渡した。

 俺は本が好きだったから、それを持って教会で一人でいつも静かに読んでいた。

 本を読んでいれば、自分の為にもなるし、母さんの為にもなると思うと、嬉しかった。

 俺がお利口でいれば、母さんはやらなければならない事を終わらせて、いずれは俺と遊んでくれるのだろうと思っていたから。

 でも、その日は来なかった。

 母さんはいなくなってしまった。


 数十年ぶりに母さんに会えて、俺はものすごく嬉しかった。

 また一緒に暮らせるものだと思っていた。

 だが、母さんは俺を拒んだ。

 そしてみことの母さんの名を読んだ。

 それから、母さんは真実を語り始めた。

 俺の事を、気持ち悪いと思い、愛してなどいなかったという。

 そんなのは、そんなのはきっと聞き間違いだと思った。

 母さんが取り乱すから、落ち着いて欲しくて駆け寄ると、頬を思いっきりはたかれた。

 痛い。痛い。

 心が、ただただ痛い。


 ぼんやりとしていると、母さんがナイフを取りだし、俺に向けた。

 俺はそれを他人事の様にただ眺めていた。

 そんな時、みことが後ろから駆け出してきて、俺を守ってくれた。

 はっとして我に返ると、みことはものすごい剣幕で怒っていた。

 俺の為に、怒ってくれている。

 俺も何とか、母さんをなだめる言葉をかけなければと思ったその時、教会のドアが開く。

 誰かが中に入ってきた。それは、みことの父親だった。

 さっき話していた事は真実なのだと、やっと理解した。


 俺は、母さんの事を初めて憎んだ。

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