第3話 引っかかり

 あの手の仕草は、〝好き〟っていうサインではなかった。


 それよりももっと赤く、黒い欲望を現しているような……。


 ――独占欲……とか?


 まあ、私もそこそこ強い方ではあるけれど、美紅先輩は桁外れなような感じがした。


 なんか、こう深海に落ちてしまっているような……。


 自分ではどうにもできないぐらい堕ちてしまっていたら。


 自分は、今までの告白をどう話せばいいのか。


 独占欲が強いのは構わない、けれど、強すぎて度が過ぎる束縛そくばくは苦手だし、そこまでいってたらちょっと見る目が変わってきてしまう。


 ……だけれど。


 あのキスされた感覚は、いまだ残っていて。


 ……もう一度、したい。


 あれだけ拒否ってしまったのに、なぜかまた求める。


 あの表情を思い出すだけでも顔が熱くなってしまうのはどうしてだろう。


 シャープペンでノートをぐちゃぐちゃに落書きされてしまったみたいに、モヤモヤしてしまって、感情が読み取れない。


 そしてさらに、引っかかってることがあって。


 あの帰り際の表情はなぜか悲しそうで、声音はなぜか辛そうで。


 なにかを抑えているかのようだった。


 私には見当がつかない。


 ……けれど。


「美紅先輩、なにか抱え込んでそうな感じがする」


 なにか抱え込んでいて、ほかの人に迷惑をかけないように……。


 だとしたら? 自分に何ができるの?


 んー。わからん。


 張りがない声で、部屋の机でうなだれる。


 多分、正解は無いんだ。正解は無いけれど、答えは無いわけじゃない。


 必死に頭をこねくり回す。ある最善の一手は……。



 これしかない。



 ひらめいた私は、美紅みく先輩にLINEでメッセージを送った。


『了解よ』


 無機質むきしつな黒い文字で、感嘆符かんたんふも一切ないこの一文では、今どんな気持ちでいるのか、どうかはわからない。


 でもひょっとしたら、ここから道は開けるかもしれない。


 この先に、光はあるかもしれない。


 そう思いながら、机横の身長より大きな窓ガラスを見て煌々こうこうと輝く、一等星を右手で覆って掴む素振りをした。


 

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