第3話
「あ、奏多さん」
休みの日。
奏多ははじめのお誘いを受けて、カフェで待ち合わせにした。
カフェに入るとはじめがパァァと嬉しそうな笑顔で手を振ってきて、奏多も笑顔で手を振りながら近寄り、向かいの席に座った。
「すみません、休みの日にお願いをしてしまい…」
「いいよ、大丈夫…それでどうしたの?」
「あ、その前に何か頼みませんか?ここのパンケーキ美味しいんですよ」
メニュー表を出してくるはじめにお礼を言って受け取ると、メニューを見た。
美味しそうなパンケーキに頼もうか悩んだが…コスプレをしてから体型を気になり出して、うーん…と唸り出した。
「か、奏多さん?大丈夫ですか?」
「へ?あ、いや…パンケーキ食べたいけど…太ったらレオン似合わなくなるよなーと思ったら食えなくて…」
「そんな奏多さん太ってませんし、これぐらいなら大丈夫ですよ」
優しい言葉に奏多は嬉しそうに笑うが、ふと頭に琉斗が浮かんで…スラっとしている琉斗のやるマルスの隣に少しだらしない体型の自分のレオンが立つのを考えてしまうと…メニュー表を閉じてアイスコーヒーだけを頼んだ。
「…凄いですね、レイヤーさんって…かっこいいですね。俺なら我慢出来ずに頼んでしまいますよ」
「い、いや…」
(完璧すぎるマルスの隣にだらしないレオンなんて似合わないから!!)
心の中で叫ぶ奏多なのであった。
頼んだのが届くまで他愛ない話で待って、届けられると…奏多は問いかけた。
「そういや…どうして今回は2人っきりでお会いしたかったんですか?」
するとはじめの動きがピタリと止まり顔を俯かせてしまい、聞いちゃまずかったか!?と思うとすぐに謝ろうとしたが…その前にはじめが口を開いた。
「あ、あの、実は…コスプレをちゃんとしたいと思いまして…この間は女の子達に引っ張られて決めた様なものなので…」
「ああ、なるほど、それで?」
「それで…ウィッグやメイク道具をちゃんと揃えようと思いまして、奏多さんに是非、色々教えて貰いたいと思いまして!」
まさかのお願いに奏多は「俺に!?」と目を見開き大声で驚いてしまい、周りから視線が来てすぐに頭を下げた。
何とか落ち着くと小声ではじめに声をかけた。
「い、いや、俺もそんなだし…それならゆいさんや妹の愛佳の方がちゃんと教えてくれるよ?」
「で、ですが…女性よりも男性である奏多さんの方が相談しやすいというのもありまして…」
「それなら、琉斗さんは?綺麗な顔しているしメイク上手いし色々優しく教えてくれるよ?」
“琉斗”と名前を出した時、はじめの顔が陰ったのが分かりそれ以上は聞かない事にした。
「どうしても、奏多さんがいいんです!お願いします!」
頭を思いっきり下げてお願いしてくる相手に断る事は出来ず、奏多は引き受ける事にした。
カフェを後にした2人はそのままウィッグを取り扱っている店に向かった。
色んなウィッグが並んでいて、はじめはあんぐりとしていて奏多はうんうんと頷いていた。
「す、凄いですね…これとこれ、色同じじゃないですか?」
「いや、光に当てると違ったりするし、こっちだったら今人気のアイドルアニメに出てくる双子ちゃんの髪色っぽいけど、こっちは狂恋のラッキー君とかじゃない?」
「ああ、なるほど…凄いですね、ウィッグだけでもこんなに違うなんて…」
目をキラキラ輝かせながら楽しそうに上から下まで見ているはじめに、奏多も楽しさが伝わり、とりあえず狂恋のハイトのウィッグを探す事にした。
ハイトは金髪ではあるが、白色に近い色だったので2人は隅から隅まで探して納得するのを探した。
「……これでどうかな?」
「はい、奏多さん、これにします。あとカラコンもありがとうございます!買ってきますね」
ウィッグとカラコンを持ってレジに向かうはじめを見送ってから、奏多もカラコンを眺めていた。
レオンのカラコンはいつも同じのを使っているが…たまには違うのを…と考えると綺麗な緑色のカラコンを選んで、レジに向かった。
「本当に色々とありがとうございました!」
あれからメイク道具も色々見て確認をし、2人は休憩の為にお店に入り席に着いた途端頭を下げられてしまい、奏多は慌てながら頭を上げさせた。
「そんな、俺はちょっと手助けしただけだから…」
「それでも凄く助かりました。今から次のコスイベが楽しみです、奏多さんは参加しますか?」
「うん、一応…」
そう答えると先程買ったカラコンを見て、早く琉斗に見せたいな…と思ってしまい、ハッと我に帰るとすぐに奏多は首をブンブン横に振って琉斗を頭の中から消した。
そんな奏多をはじめは不思議そうに見ていて、奏多はどうしようと悩んで、捻り出したのは…
「そ、そういや!はじめさんはハイト王子推しなんですか?」
「え?あ、いや、俺は……」
質問をするとはじめはもじもじと恥ずかしそうにしだして、奏多は首を傾げながら待っていると、ゆっくり口が開いた。
「奏多さんの前で言うのはお恥ずかしいのですが…実は、レオン王子推しでして…」
「え!?そうなの!?ごめん、俺みたいな奴が推しをやっていて…」
「いえいえ!めちゃくちゃレオン王子なんで自信持ってください!それに…俺が推しをやるのは違うなと思って…身長はあるし、肌綺麗とか言われたからハイトをやろうと思いまして…」
自分と同じ状況に奏多はガシッとはじめの手を掴んでしまった。
「同じだよ、はじめさん!俺もマルス推しだけど…自分が推しをやるのは違うって…恐れ多いって思ったんだ!」
「そうなんですか?」
「うん、俺ら仲間だね」
ニコッと笑顔で言うとはじめも笑顔で「はい」と言ってきて、その笑顔が素敵だな…と思った奏多だった。
「なぁ、あれ…奏多さんじゃないか?」
「んー?あ、本当だな」
コスプレ衣装の材料を買いに来ていた琉斗とゆいは外から、カフェで楽しそうに話す奏多を見つけてしまい眉間に皺を寄せて奏多と話す相手を睨んだ。
「今すぐ、あの場に行って…「こらこら、邪魔したらいけないだろ、ほら次はあっちの店に行くよ!」
ゆいに背中を無理矢理押されてしまい、琉斗は渋々その場を離れたのであった…。
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