番外編

「ただいまー」

定時に帰れた奏多は、いつもより早く家に着くと玄関に見慣れない靴がある事に気づいた。

お客様がいるのかな、と思いながらリビングに行くとそこにいたのは愛佳と…愛佳と同じ高校の制服を着た可愛らしい女の子がいた。

「お兄ちゃん!お帰りなさい!」

「お邪魔しています。あ、愛佳ちゃん、もしかして…この人が例の?」

“例の”という単語に奏多は首を傾げていると、女の子が奏多の前に立ってペコリと頭を下げてから笑顔で言ってきた。

「僕、愛佳ちゃんと同じクラスの如月凪咲きさらぎなぎさって言います」

「ああ、愛佳の兄の柊奏多です」

奏多もぺこりと頭を下げると愛佳が凪咲の肩を掴み後ろから密着しながら言ってきた。

「凪咲ちゃんね、2年から同じクラスになったんだけど…狂恋ユーザーなんだー!!だからすぐに仲良くなっちゃって!!」

「そうなんだ、あ、じゃあまさか例のって…」

「はい、愛佳ちゃんから見せて貰いました、お兄さんのレオン王子…めちゃくちゃかっこよかったです!!凄いほわほわしていて優しい雰囲気なのに、気怠げな我儘王子のレオンをちゃんとやりきっていて!!」

目をキラキラ輝かせながら興奮気味に言ってくる凪咲の圧力に恥ずかしさもあったが、それ以上に嬉しさもあった。

照れながら笑ってお礼を言うと、凪咲がコソッと言ってきた。

「あの、良かったら…今度でいいんで…レオン王子の格好しているの見せてくれませんか?」

「え、あ、いいよ?少し恥ずかしいけど…」

「大丈夫ですよ!凄いかっこよかったんで!!あ、今日の夜、狂恋のお話しましょうよ!今日泊まるんで!」

凪咲の勢いに押されて、奏多は断る事は出来ず了承をすると凪咲は嬉しそうに笑って愛佳ときゃっきゃと戯れ出した。

可愛らしい外見、愛佳よりも少し高い身長に、すらっとしている体を見て奏多はコスプレしたら似合いそうだな…と凪咲に対して思うのであった。


そしてその日の夜は奏多と愛佳と凪咲で盛り上がったのであった。


凪咲が先にスヤァ…と寝てしまい、奏多はコソッと愛佳に小声で伝えた。

「なぁなぁ、愛佳…凪咲ちゃん、コスプレ似合いそうなイメージがあるんだけど…誘ってみないのか?」

「あー…誘ってみたいんだけど…凪咲ちゃん…イベントとかは難しいかも…お兄ちゃんがずっと一緒にいてくれるか、凪咲ちゃんの彼氏さんに頼むしかないかな…」

「難しいってどういう意味だ?しかもなんで俺が一緒に?」

愛佳の言葉の意味が分からず首を傾げていると、愛佳がスマホを操作しだして画像を見せてきた。

その画像は、凪咲がミニスカスタイルのウエディングドレスを着てイケメンと一緒にステージの上に立っているのだった。

それでも意味が分からず、ますます不思議そうにしていると愛佳が口を開いた。

「お兄ちゃんだから言うけど、凪咲ちゃんは男の子だよ」

「へー、男……ええっ!!??」

まさかの衝撃的な事実に大声で驚いてしまい、すぐに愛佳が奏多の口を手で塞いでチラリと凪咲を見たがすやすや眠っていた。

ゆっくり愛佳が手を離すと奏多は小声で問い掛けた。

「イベントが難しいって、この外見で男子更衣室に入らないといけないからか…」

「そうそう、凪咲ちゃんは男の子だけど、女の子みたいに可愛くなりたいって思っていて…制服も女の子のなんだよ。それのせいで周りからの目酷くて1年生の頃はあんまり教室に行ってなかったんだって…でも…この七条律しちじょうりつ先輩と付き合い出して変わったんだ。2年から同じクラスになって仲良くなれたしね」

ブイっとピースして笑顔を見せてきた愛佳に奏多も笑顔を向けた。

「でも何か勿体無い気がするな…」

「そうだよね、スタジオとか借りてだったら出来るかな…」

“スタジオ”という単語に、奏多は1つあることに思いつくと「それだ!!」と大声で言ってしまい、また愛佳に口を塞がれたのであった。


そして次の日の休み。

奏多、愛佳、凪咲はとあるマンションの前にいた。

そしてそのマンションから出てきたのは、ゆいと琉斗の2人だった。

「ゆいさん、ありがとうございます!俺の我儘を聞いてくれて!」

「いいえ!あ、貴方が凪咲ちゃんだね。私は夏川ゆい。狂恋ではリリィをよくやっているよ、そして彼が…」

「…橘琉斗です。マルスやっています…」

軽く頭を下げてくる琉斗に凪咲も頭を下げて自己紹介をした。


奏多の提案は、ゆいが持っているスタジオを借りるという事だった。


ゆいに相談したらすぐに了承してくれて、こうして準備をしてお邪魔する事に。

それぞれ着替えやメイク等をしだして、奏多達はいつも通りのメンバーの姿になり凪咲を待っていた。

そしてやってきた凪咲の姿は主人公の姿だった。

「凪咲ちゃんは主人公として、私達と夢撮影をして貰おうかと!」

「いいんですか!?レオンもマルスもラッキーもリリィも目の前にいるー、やばーい!!」

凄く興奮気味な凪咲に対して、ゆいはニコニコ笑っていて琉斗も優しげに微笑んでいた。そんな皆を見て奏多も嬉しそうに笑ったのであった。

こうして撮影が始まり、まずは友達である愛佳と撮影を始めた。

初心者だから緊張しているかと思いきや、堂々としていて表情やポーズもちゃんと決めていて、奏多は見惚れてしまった。

「凪咲ちゃん凄いね、初心者とは思えないよ」

ゆいの言葉に凪咲はパァっと表情を明るくすると答えた。

「本当ですか?1年の頃に撮影されたんで、それの影響かなーと思ってます」

そのまま愛佳との撮影が終わると、今度はゆいとの撮影が始まり、スムーズに終わると琉斗とになった。

琉斗がコスプレしているマルスは距離が近い為、奏多は少しモヤモヤしていたが…目の前で大好きなイベントのスチルが再現されていると、その気持ちがどっかに飛んで、ゆいの後ろでスマホで撮り出した。

そんな事している内に、奏多の番になり凪咲に近寄るとぺこりと頭を下げられて奏多も慌てて頭を下げた。

「奏多さんのおかげで、愛佳ちゃんや皆さんとコスプレ出来て楽しいです、ありがとうございます」

「え!?いや、こちらこそ…喜んで貰えて何よりだよ」

2人は顔を見合わせるとニッコリ笑って、ゆいからの提案を聞いてポーズと表情を決めると何枚も撮られ出した。

こうして全員との撮影が終わり、この後はどうしようかと奏多は聞こうとしたが…いつのまにか愛佳と琉斗の姿が無く、奏多はすぐにゆいに問い掛けた。

「あれ?ゆいさん、愛佳と琉斗さんは?」

「ああ、そろそろ…来るんじゃないかな?」

ゆいの意味深な言葉に奏多はきょとんとしていると、扉が開いて愛佳が入ってきた。しかも少し嬉しそうにニヤニヤ笑いながら…。

「凪咲ちゃんはさ、最推しはジェイくんなんだよね?」

「え、あ、そうだけど…それがどうしたの?」


「ふふ、ジェイくん呼んじゃったんだ!」


その言葉に驚いていると、扉が開き入ってきたのは…


身長が高く、吊り目でイケメンで人気が高いと言われている従者のジェイのコスプレした人だった。


一瞬奏多は琉斗かと思ったが、後ろを見るとマルスがいたから違うとすぐに分かり、この人は誰だとジロジロ見ていた。

すると凪咲から「律…?」と名前が聞こえた瞬間、ジェイの口角が上がった。

「愛佳さんからお誘いを受けてね、琉斗さんにお願いしてコスプレさせて貰ったんだ。どうも、愛佳さん達の先輩で凪咲の恋人の七条律と申します」

丁寧に挨拶をして頭を下げてくる律の姿はジェイがそのまま画面から出てきた錯覚に感じ、すぐさま奏多はスマホで納めてしまった。

「ちょっと、お兄ちゃん!?」

「あ、ご、ごめん…ついジェイ過ぎて…」

「凪咲、僕とも一緒に撮影してくれるかい?」

手を伸ばして問い掛けてくる律に凪咲は目線を彷徨わせてから、ちゃんと相手を見るとすぐに手を掴んで相手に抱き付いた。

「当たり前だよ!僕も…律と一緒に撮りたい…!」

「うん、じゃあお願いします」

律がゆいに向かって頭を下げると、ゆいはオッケーとサインをしてきて2人はカメラの前に立った。

初心者だとは思えないくらい表情もポーズもちゃんと決まっていて、そして恋人同士というのもあり、凄く自然な撮影も出来ていた。

奏多と愛佳もスマホで撮影をしていた。

「よし、これでいいかな?」

「ありがとうございました!愛佳ちゃんもありがとう!凄く楽しい時間だったよ、律も…最推しをしてくれてありがとう…」

「いいえ、ああ、でも…忘れていたよ…ゆいさん、もう1枚撮影いいですか?」

律のお願いにゆいは首を傾げたがすぐに「いいよー」と返事をするとカメラを構えると、凪咲は目をきょとんとしていて何を撮影するのか分かっていなかった…そんな凪咲に律はニッと笑うと、顔を近づけてそのままキスを…ディープキスをしてしまい、全員が「あ…」と呟いた。

「ちょ、りっ…!んぅ、んっ…!」

すぐに離そうとした凪咲だったが、しっかり抱き締められて後頭部も押さえられてしまい離れそうになかった。

そしてようやく離れた時には凪咲は顔を真っ赤にしてその場に崩れてしまった。

「さ、最低…律の馬鹿ぁ…」

「ふふ、大好きなジェイくんにキスされて嬉しくなかったかい?」

「ジェ、ジェイとか関係なく…律からのキスが嬉しいんだから…」

ボソッと呟いた凪咲の言葉に律はピシッと固まってしまい、全員がじっと見ていると…また律が凪咲にキスしだした。

「んん~~~っ!!!」

そんな2人を見ていると後ろから抱き締められて奏多はすぐに振り返ると、琉斗の顔が近くになり一気に顔を真っ赤にして慌て出した。

「え、あ、りゅ、琉斗さん!?」

「奏多さん…俺らもあんな深いのしましょうか」

「し、しません!!大体俺らは恋人じゃないでしょう!!!」


こうして、撮影は無事に終わったのであった…?

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