第7話
「あ、じゃあ私達、友達に会いに行くから。また後でー」
ゆいの言葉に奏多と愛佳は反応して手を振ったが、琉斗はじーっと奏多を見ていて離れそうになく、すぐに気づいたゆいが捕まえて無理矢理連れて行った。
2人を見送ってから奏多は「どうする?」と愛佳に問い掛けると返ってきた言葉は「もうちょっと撮影がしたい!」だった為、2人は撮影をしたり他のレイヤーさんに声をかけたりしてイベントを楽しんだ。
「やっぱりこのイベントの雰囲気が好きだなー!」
「愛佳が楽しそうで良かったよ」
「あれ?お兄ちゃんは楽しくないの?」
ズイッと顔を近付けて問いかけてきた愛佳に、奏多は一瞬ビクッと体が跳ね上がったが何とか落ち着かせるとニッコリ笑って答えた。
「俺も楽しいよ」
「本当!?ならよかった!!」
「でも、流石に…疲れたかな…」
「あ、そうだね、じゃあ休憩しよっか。カフェ行こう!」
愛佳の提案に奏多は頷くと、荷物を持ってその場から離れた。
近くのカフェはレイヤーさんでごった返していて待ち列も出来ていたが待って2人は外の通りが見える大きな窓の近くの席に座って、休む事にした。
奏多は苦いのが苦手な為、ストロベリーソースを使ったフラッペを飲んでいると向かいに座った愛佳がニヤニヤ笑っていた。
「え、ど、どうした?」
「いーや?レオン様がそんな甘いの飲んでるのってギャップがいいなーって思って」
「………キャラの解釈違いを起こして悪かったな」
プイッと外を見ながら勢いよく飲んでいると愛佳が必死に謝ってきたが、無視をしていると…そこに一際目立つ集団を見つけて、その中心には琉斗がいるのが分かった。
女の子達のバッグには狂恋のキャラの缶バッジやぬいぐるみがあり、所謂痛バというのを見て同じ狂恋のファンだと分かった。
「あ、琉斗さんだ」
愛佳も気づいたらしく2人で見ていると、女の子達は琉斗の腕に抱き着いてキャッキャと騒ぎながら撮影をしており、それを見た瞬間、ズキっと胸が痛み奏多は首を傾げた。
特に気にせずに眺めていると撮影が終わっても女の子達は琉斗の腕に抱きついたままでだんだんモヤモヤしてきて、奏多は外から目を逸らして顔を下げた。
「お兄ちゃん…嫉妬しているんでしょう?」
愛佳に指摘されてバッと顔を上げると、不安そうに見つめる愛佳と目が合ってしまい奏多はすぐに否定をした。
「嫉妬だなんて…俺も琉斗さんも男だから…そんな事ないよ」
「でもあれ、いやでしょ?」
指を差した方向を見ると女の子に笑っている琉斗の顔が目に入って、またズキっと痛んだ。
「大丈夫だよ、琉斗さんはお兄ちゃんのこと特別だって思っているもん」
まさかの発言に奏多は目を見開いて驚いた。
確かに、琉斗の言動は全てドキドキする様なことばっかりで…でもそれは自分に対してでは無いと奏多は思っていた。
「お兄ちゃん?」
「違うよ…琉斗さんはマルスが主人公に対してやっている様な事をしているから…俺に対してじゃないよ」
「でも、マルスやっているからってあんな事する?」
「俺は男だよ、マルスになりきって…「どうしました?」
奏多が言い終わる前に声を掛けられて、2人が同時に声のした方を見るとそこには琉斗がいて奏多の顔面は真っ青になった。
何処から聞かれたのか、不安になったが…奏多の顔を見ていた琉斗が突然頬に触れて顔を近付けてきて、一気に真っ赤になった。
「ちょ、琉斗さん!?」
「大丈夫ですか?奏多さん、凄く顔色が悪いですよ」
「だ、大丈夫だから、離れて離れて」
無理矢理押して離したが琉斗は心配そうに見つめてきていて、奏多は困った表情をした。
とりあえず一緒に座ると、琉斗は奏多に凄く世話を焼いてきて、その振る舞いは狂恋の主人公に色々するマルスとそのままだった。
「大丈夫だよ」と言っても琉斗の言動は変わらず、奏多はずっとドキドキしていた。
「そろそろ、戻りましょうか」
「あ、うん…」
琉斗がトレイを持って率先して片付けだして、そんな背中を眺めていると…隣に立った愛佳がツンツンと肘で突っついてきて、コソッと小声で囁いた。
「ね?これはお兄ちゃんだけだって…マルスとか関係なく」
「そ、そうかな…」
「?奏多さん、愛佳さんどうしました?」
首を傾げながら問いかけてくる琉斗に2人は「何でもないです(ですよ)」と答えると、カフェを出て友達と撮影をしていたゆいと再会して、また撮影を再開した。
こうして今回のコスイベも終わり、奏多は着替え終わると愛佳を待ち続けた。
今日たくさん撮った琉斗のマルス写真を眺めていると「あの…」と可愛らしい声が聞こえて顔を上げると、そこにはキャリーバッグを持った可愛らしい2人組の女の子がいた。
最初は自分以外の誰かかと思ったが、明らかに自分に向かって言っているんだと分かるとスマホをしまって口を開けた。
「あ、え、どうしました?」
「あの…今日、レオンやっていましたよね?狂恋の…マルスやリリィ、ラッキーと一緒にいた…」
そう言って出されたスマホに映っていたのは自分達でゆっくり頷くと、女の子達は顔を見合わせて同時に頷き口を開けた。
「こんな事言うのもアレですが…正直、マルスと距離が近すぎて不快でした。確かにそういうのが好きな方もいますが…そういうのが苦手な人もいるんです…そういう撮影がしたいのなら、コスイベに参加しないでください」
そう言うと女の子達は頭を下げてさっさと去っていってしまい、奏多は何も返せなかった…。
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