第4話 本
正社員として働いている本屋はカフェが隣にあって、繋がっているアーチがある。私はそこから出て行き、スタッフルームから裏口の扉を使って帰る。バイトの
まだ夕方前なのに、外は暗くなっていて、店内は明るくなっていた。今日も沢山のお客様が来るだろうなと思いながらレジに立った。
しばらくすると
「お疲れ様です」
と言って、先程スタッフルームにいた川菜くんが声をかけてきた。
「お疲れ様、大学慣れそう?」
「まぁ、どうなんでしょうかね。まだよく分からなくて」
「私は、大学行かないでそのまま就職しちゃったから、ちょっと学ぶものを学んでも良かったかなって思ってる。だから今を大事にね」
微笑んで、人生の先輩らしくそう言ってみる。
「日菜乃さんの学生時代ってどういう感じだったんですか?」
私は高校時代を思い出しながら
「うーん、勉強とか友達と遊ぶのが忙しくってあんまり青春ってなかったかな」
「へぇ、遊んでたイメージありますよ」
「ま、それは大人になってからだね」
「そうなんですか?」
「そうだよ。人生まだまだ長いぞ〜!若いうちにいっぱい経験しないと!」
と言い終わるか終わらないかのところで
「
男性スタッフに声をかけられた。
「川菜くん、レジお願いね」
「あ、はい」
川菜くんにレジを任せた。川菜くんはルックスもよく、勉強も出来る。努力をするべき時にしなかった私は愚か者だと神様から言われているようだった。でも、川菜くんは悪気があるわけではない。ただの八つ当たりをしてしまいそうで、自分が怖い。
宅配の荷物の整理を頼まれてたので、男性スタッフとレジを変えて整理をしていた。
本を好きになったのは、ただの気まぐれなのかもしれない。気まぐれが積み重なって、今の自分が形成されている。
本は人を変えると思う。読むだけで世界が広がり、色がつく。その色は鮮やかで、優しい。
この仕事をしている時が一番幸せを感じる。本の世界に溺れていられる。本が教えてくれているのは、きっと、私がまだ未熟で、半端者で、何もない存在だとしても大丈夫だということだ。私を必要としている場所があって、そこで誰かの力になれているのなら、それでいいのだと思うことが出来た。
「有井さん」
声のする方に顔を上げると川菜くんがいた。
「俺、もう帰りますけど」
「あ、うん。お疲れ様!」
彼は私がそう言ったことに対して、不屈なのか一瞬ムスッとした。
「あの、どうしたの?」
しばらくその場で立ち尽くしている川菜くんに、そう声をかけると
「それ、どのくらいで終わります?」
「え、っと……どうだろう、分かんないな」
「手伝います」
「え?」
私は聞き返したが
「手伝います」
と彼は繰り返した。
「いや、大丈夫だよ」
「何時間かかるんですか?そんなに?」
「あ……ごめん。ありがとう」
結局押し切られてしまった。二人で黙々と作業を進めると意外と早く終わった。
「じゃあ」
そう言って帰ろうとすると
「一緒に帰りませんか?」
平然とそう言うものだし、ただの思い付きだと思ってが
「急な展開で、びっくりだよ」
笑ってみると
「俺が送って行きます。着替えて下さい」
「あはは、なんで?大丈夫だって」
笑いながら歩き出すが彼は後ろをついてくる。少し歩くと
「有井さんさ、何かあるなら話してくれない?ずっと元気ないですよね?」
そう言われた。私は
「元気だけど、そのつもりなのかもね。でも、私はファンになれたの」
「ファン?」
「帰りに話すよ」
着替えるために、彼から離れた。
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