注文した魔道具
その日、城の応接室では、ガッチガチに緊張した魔道具店のゾロがいた。
「ごめんね、おじちゃん。あれから何も連絡せずに、いきなり呼び出しちゃって」
「い、いや。嬢ちゃん。いや、違う。ひ、姫様にこうして、お、お呼び出し頂き誠にありがとうございます」
「緊張しなくてもいいよ? 手紙にも書いたけど、頼んでいたものは持ってきてくれた?」
「あ、ああ、こちらでごぜえます」
「そんなに固くならなくてもいいよ、おじちゃん。もっと肩の力抜いて」
「だけんどもよお……」
その視線の先にはキラキラとした目を向ける母上がいた。
この国の王妃が同席していたら、そらガチガチに緊張もするか。
「ゾロ、だったかしら? そんなに緊張しなくてもいいわ。私はあなたが作る魔道具に興味があって、今回同席しただけだから」
「ひ、ひぇ」
「おじちゃん、まずは前にお願いしていた温風を出す魔道具を見せて!」
「お、おう」
話が進まないと思って、俺は魔道具を見せてもらうことにした。
ゾロが取り出したのは、俺の手ではちょっと大きい魔道具だった。
けれど、大人なら片手で持てるような大きさで、完璧なドライヤーだった。
変な機能とかつけてないだろうな? とちょっとだけ疑う。
使い方はおっちゃんに説明を任せることにした。
このプレゼンは大事だよ! と視線を向けた。
作品の説明するおっちゃんは目を輝かせていて、不安だが任せることにした。
「じゃあ、おじちゃん。これの使い方や機能を教えて!」
「ああ、嬢ちゃんに言われた通りに、まず火を噴く機能はなくした。そして、代わりに温風が出るようにして、強弱もつくようにしたぞ。冷風も出る機能を付けてほしいって話だったんだが……、水の魔石も使うことになって、費用と魔道具自体の重量がかさむんだ。だから、今回は見送った」
「問題点はある?」
「使ってはみたんだが、一人で使うにはまんべんなく風を送れないのがな……。あとは火と風の中魔石を二つも使うから、魔石の消費は二つ分で重量も重い。これでも色々と抑えた方ではあるんだがな……」
「ナンシー、実際に持ってみての感想を聞かせて。実際に使うのはメイドたちだと思うからね」
「はい、お嬢様。たしかに少し重いですね。ですが、髪を乾かす時間を短縮できるのであれば問題ないと思います」
「使い方はどう使えばいいの、おじちゃん?」
「ここを押すと温風が出る。そして、こっちのつまみをずらすことで風の強弱をつけられるぞ」
「ナンシー、どお?」
「はい、これはいいですね。私どももぜひ個人で使ってみたいと思う出来です。重量はもう少し軽くしてほしいですけども」
「やはり重量か。中魔石を二つも使っているからなあ」
おっちゃんの発言に疑問を抱き、質問することにする。
母上はドライヤーにはそこまで興味はなさそうだ。
本命は美顔器の方かな?
「おじちゃん、中魔石ってなに?」
「ああ、嬢ちゃんは見たことないか。魔石の大きさにも大中小とあるんだ。今回はその中でも火と風の中魔石を二つ使っている。そのせいで重量がなあ」
「どうしても火と風の魔石を使わないとダメなの? 一つの魔石から火と風の魔力を作り出せないの?」
「は?」
変なこと言っただろうか?
まるで目から鱗が落ちたかのような反応を見せるおっちゃん。
別に一つでもいいじゃんね、別々の魔石を使うから重くなるんだから。
「いや、そんなことできるのか? 無属性の魔石を使って、魔術回路に別々の魔力紋を刻めばいけるか? だが、出力が落ちる気もする……」
「ナンシー、風の強さはどお? 出力が今より落ちても大丈夫?」
「そうですね、今より落ちても大丈夫だと思います。現状だと風が少し強すぎるので、もう少し優しい風でいいと思います」
「ありがとう、ナンシー。だって、おじちゃん! 風の出力は落ちていいから、無属性の魔石ひとつから温風を作ってみて!」
「わかった、嬢ちゃん。帰ったらさっそく試してみよう。こいつは見本として納品でいいのか?」
「うん、いいよ。じゃあ、もう一つの顔に潤いを与える魔道具はどうなった?」
ここで退屈そうにしていた母上の目が輝きだす。
ごめんね、技術関連の話で退屈だったよね……
「要望通りには作ったつもりだ……。だが、これのどこがいいのかは俺にはわからんかったぜ。それに、ちと熱かったの。まあ、これはさっき言った無属性の魔石で解決しそうだがの……」
「とりあえず、機能の説明と実際に動かして見せて?」
「じゃあ、動かしながら説明するぞ。ここを押すことによって、ここに入れた水が温められる。そして、温められた水が前方に細かく噴出されるようにした」
「ふんふん、ここまでは注文通りだね」
「嬢ちゃんは言っていたよな? 保水液や浄化の魔法液を入れて使うって。それも、こっちの小さな貯槽から徐々に流れ出る。一応、分解しての手入れもしやすいようにはしておいたぞ」
「機能自体は要望通りだね。お手入れは使ってみてからかな? ナンシー、使ってみてくれる? あ、化粧が落ちちゃうか。うーん、どうしよ」
「問題ありませんよ、私は濃い化粧をしていませんので」
「そお? じゃあ、お願いね」
「では……、これはいいですね。個人でなら、このまま顔のマッサージをしてもいいかもしれませんね。保水液と浄化の魔法液でしたか? そちらはどのような効果になるのでしょうか?」
「保水液と魔法液は魔法薬師とかの領分みたいだから、また今度だね。マッサージってのもいいね。女性からの意見はやっぱり大事だね。ほかには何か意見ある?」
「場所を取ってもいいので、大型化して頭をすっぽりと包めますか? 顔全体に蒸気が行きわたるようにしてほしいですね」
「ふむ、大型化。まあ、できんことはないの」
「まだ重量は軽い方ですし、これくらいなら持ち運びも許容範囲です。魔道具のお手入れの方も難しくはなさそうです」
「ありがとう、ナンシー。参考になった? おじちゃん」
「うむ、使用者からの意見が聞けるのは大変助かる。こちらも無属性の魔石を使うことで、魔石の費用を下げられるかもだな。そこまで蒸気を熱する必要もないし、このままだと火傷の危険性もあるからの」
「そうだね、そういう問題点も洗い出していかないとね」
「これも納品でいいのか? 火傷するようなものを納品したくないんじゃが……」
「持ち帰ってもらって、改良してから納品の方がいいかな?」
あ、母上が絶望的な雰囲気を醸し出してる、表情には出ていないけど。
ごめんね。
火傷するようなものを母上に使わせるわけにはいかないんだ。
改良するまで待っててね。
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