疑惑と暴露

 無事にお茶会を乗り切った俺は、寝る前の日課の魔力訓練をしている。

 見た目は可愛らしい教官に、以前に考えていたあることを質問をした。



「教官、空の魔石に魔力を注ぎ込んだら、その魔石って使いまわせるのか?」


『どういったことに利用する気なのか知りませんが、理論上は可能ですね。ただ、難易度は高いですよ? 魔力を注ぐという行為はあなたが思っているよりも繊細なのです』

「へえ、そうなんだ。魔力を注ぐのって難しいのか」


『ええ、試してみるといいですよ。今のあなたでも数回は魔石を割ってしまうでしょう。魔力の放出の訓練がてら、やってみるといいのです』

「そうなると、空の魔石の調達が必要になるな。明日、ナンシーにでも聞いてみるか。キリもいいし、今日はここまでっと。なあ? 教官、俺はちゃんと成長できているのか?」


『そうですね。私から見たらまだまだですが……、一般人よりは魔力出力、魔力濃度、循環速度は十分なレベルだと思いますよ?』

「そっかー、まだまだ人並み程度か。地道な努力だなー、この辺りは。」


『次は繊細な魔力コントロールを魔石を使って学ぶといいですよ』

「了解だ、教官。じゃあ、今日のとこはおやすみー」


『はい、おやすみなさい』



 翌日、着替えなどをしながらナンシーに空の魔石について尋ねる。

 今朝も自然と王宮メイドたちに女装させられる俺。

 女性の護衛二人がそんな俺に驚いていたよ。


「え! そんな!?」「ディーネ様って男の子だったの!?」とね。


 まあ、女装には慣れてくださいな。

 俺は一見洗脳されている状態なので、表に態度として出すわけにはいかないのだ。



「ナンシー、空の魔石って入手は難しいかしら?」


「お嬢様、空の魔石など何に利用するのですか?」

「新しい魔力訓練を思いついたの。あと、うまくいけば今後の事業にするつもりよ」


「新しい魔力訓練? 事業? どういうことですか?」

「魔石の再利用と孤児の救済にね。うまくいけば、スラムがなくなるかもしれないわ」


「そこまで壮大なお話になると、私では対応できませんね。奥様や旦那様に相談してくださいませ」

「ええ、そのつもり。まあ、なんにせよ空の魔石を用意してくれる? どれだけの難易度か確認しておきたいの」


「わかりました、朝食の後にお持ちしますね」


(季節はどんどん過ぎていくな。もうすぐ新年で、俺は三歳になるのか。俺なら大人のようにハッキリと受け答えする二歳児は不気味に思ってしまう。だが、みんな平気そうな顔をしてるよな。まったくもって不思議だ、ただ可愛いだけじゃ済まされないだろうに……)



 自分の存在を不安に思いながら、朝食に向かうことにする。

 いつか本当のことを話せる日が来ることを願いながら。

 だが、その日はすぐに訪れてしまった。

 朝食時の顔色から家族に心配されて、話をすると約束させられた。


 そして、すべてのきっかけは、護衛から疑いの目を向けられたことが始まりだ。



「今日は浮かない顔ね、ディーネ? 体調でも優れないの?」


「いえ、お母様。そんなことはないですよ?」

「隠してもダメよ? なんだか、雰囲気がどんよりしているもの。ねえ、アレク?」


「そうですね、母上。何かあったのかい、ディーネ? 兄さんは心配だよ」

「……今夜にでも話そうと思います。まだ話したいことがまとまっていないので」


「そう。ディーネ? あなたは私の子供だってことは忘れないでね?」

「兄さんのおとう、妹だってこともね!」



 アレクにジト目を向けて睨みつつ、朝食を終えた。

 アレク、お前ホントにいつか盛大に仕返ししてやるからな!!





 朝食後、ナンシーから空の魔石を受け取り、さあ訓練だ! ってところに、ヤンとシャフリが声をかけてくる。

 一体何事だろうか? なんかしたっけ? 眼差しは真剣なんだが……



「お嬢、ちょっといいか?」


「何かしら?」

「お嬢の知識はどこから来ているんだ?」


「ヤン、どういうことかしら?」

「あのお茶会の後、お嬢の言う魔力訓練をしてみたんだ。ホントに効果があるのか半信半疑でな。そうしたら、わずかにだが、本当に魔法の繊細な操作が出来るようになったんだ。お嬢は本で見かけたと言っていた」


「ええ、そうね」

「だが、お嬢が書庫に行っている姿なんて俺たち見たことねーぞ」


「ヤン、言葉が強すぎるぞ。お嬢様、我々はこう言いたいのです。お嬢様が知らないうちに我々から離れて、怪しい人物と接触しているのではないかと。その人物が危険な人物であるなら、我々はあなたをお止めしなければなりません」



 そうか、他人から見たらそう見えるのか。

 その怪しい人物が、国を左右できる私に何か吹き込んでいるのではないかと。



「大丈夫よ。安心して、そんな人はいないわ」


「お嬢! そんな言葉だけじゃ、俺たちは誤魔化されないぞ!」

「ヤン、落ち着け!」


「ふう、ホントは今夜にでも家族には打ち明けようと思っていたのだけど……前哨戦ってことであなたたちにも私の秘密を話すわね?」


「お嬢の秘密……?」

「聞きましょう、我々が安心して職務に集中できるように。今後のためにも……」


「さて、どこから話しましょうかね? 私がこの世界とは別の世界で暮らしていた話からかしら? 突拍子もない話だけど、あなた達は信じてくれるかしら?」



 俺は護衛の二人に話した。

 別の世界で暮らし、そこで命を落として、こちらの世界で生を受けたという話を。

 魔法がなく、争いもこちらの世界ほど多くはなかった世界。


 最後の別れに置いてきてしまった幼馴染の話もした。



「こちらの世界とは違って、娯楽も多くて、色々と楽しかったんだぜ? まあ、魔法なんていう不思議現象に今は夢中だがな」


「お嬢がたまに切なそうに遠くを見るのは、故郷を思ってのことだったのか。俺、俺は……」

「ヤン、気にしなくていいぞ。置いてきちまったもんは多いが、こちらで新しく構築した関係も多いからな」


「お嬢様、私からはなんと声をかけていいのかわかりません。ですが、お嬢様のご家族にもこの話をするのですよね?」

「うん、そのつもり」


「大丈夫です、きっと信じてくれます。そして、力になってくれると思います。守ってももらえると思います」

「そうだね、そうなるといいな」



 この二人が信じてくれたんだ。

 今の家族もきっと信じてくれるだろう。


 二人に話して、話したいこともまとまったし、決戦は今夜だな。



「さあて、しんみりしちまったな! よし、今できることをするために魔石の再利用を頑張りますかね!」


「頑張れ、お嬢。あ、でもあんまり勢いよく魔力注ぐなよ。思いっきり割れるからな、経験済みだ」

「ヤン、助言ありがとう。ゆっくり注ぐことにするよ」


「ヤン、お前。なんでそんなこと知っているんだ?」

「いや、シャフリさ、誰だって思うじゃん? これ、再利用出来たら、一儲けできるなって」


「はあ、お前はまったく……」



 そんな話を俺は魔力を空の魔石に注ぎながら聞いていた。

 今夜、家族に話すこともまとまったし、集中集中っと。

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