第190庫 ジャンケン勝負

「ライカが先って言ってるでしょっ!」

「鈴華が先と言うとるっ!」

「自分のこと名前で呼ぶお子様の癖に生意気っ!」

「なっ! お主だって自分のこと名前呼びではないかっ?!」  

「ライカはライカだから別にいいんだもーん」

「どんな判断基準じゃっ! 意味がわからんわっ!!」


 話が平行線である。

 うーん、どうすればいいか? 譲り合う気もなく、半分個する気もない――ああ、昔ながらの平和的解決手段があった。


「ジャンケンで決めたらどうかな?」

「「ジャンケンっ?!」」


 勢いよく二人が僕に振り向く。


「ぅ、うん。ルールはわかるよね?」

「金髪傾奇女よ、中々に素晴らしい提案をするではないか」


 金髪、傾奇女?


「しかし、ライカと言ったか。残念じゃったのう、鈴華はジャンケンに関してはめっぽう強いぞ?」


 今、金髪傾奇女って言った?


「ふーん。弱い人ほど強気に言うよねぇ」


 確かに、水着だもんな。

 街中を歩いていても、僕やライカみたいな髪色の人もいない。そう思われても仕方がないかぁ。


「……煽ってくるのう。泣きっ面を拝んでやるわ」

「きゃはは、吠え面かくのはそっちだからぁっ!」

「ほう、威勢だけはよいのう」

「ところで、ライカがジャンケンで勝ったらいいんだよねぇ?」

「はぁ? なに当たり前のことを聞いておる?」

「今の言葉に責任持ってよねぇ――クーにぃ、合図してっ!」


 うーむ。

 もう少し、この国では目立たない装備にしようかな。


「「ボーっとしてないで早くっ!」」

「ごめんなさい」


 散々騒いでいたせいか、いつの間にか人が集まっていた。

 皆、ライカたちを見てやっちまえやっちまえと騒ぎ立てている。まさに江戸っ子、賑やかなことが大好きなのだろうか。

 僕は審判よろしく、手を頭上高く上げて、


「それじゃ、いくよ――ジャンケン」

「"分身"っ!」


 同時、ライカが叫ぶ。

 何故、このタイミングで忍術を発動する? ライカの分身が追加で2人――本体合わせて3人となる。

 鈴華と名乗る女の子も、突然のことに驚きを隠せずにいた。

 しかし、勢いのある空気感――始まった勝負を中断するわけにはいかない。

 分身したライカ1、ライカ2、ライカ本体もジャンケンの構えを取っている。


「「ポンっ!」」


 ライカ1がグー、ライカ2がチョキ、ライカ本体がパーをだした。

 鈴華はなにをだそうが、全てをだしているライカに勝てるわけがない。

 ライカが飛び跳ねながら勝利のポーズを決める。


「はいっ! ライカの勝ちぃっ!!」

「ちょ、待つのじゃっ! そんなの卑怯すぎるぞっ?!」

「え? ライカがジャンケンで勝ったらいいって最初に言ったよねぇ? これ全部ライカだから別にズルじゃないし。誰かが勝ったら勝ちは勝ちだもん」

「うわーんっ! こんなのあんまりじゃあっ!」


 パワープレイにもほどがある。

 屁理屈も屁理屈、僕もあんまりだという点に関しては――激しく同意なのであった。

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