第189庫 突発的なバトル
翌日のお昼前。
局長との情報共有は夕刻に決定、それまではサンサンの街中をライカと見て回ることになった。
風花さんと共に、初めて来た時にも思ったが――とにかく活気がある。
日本でいうところの――江戸時代、情緒ある街並み、立ち並ぶ店の数は大規模なお祭りかと思わせるくらいに盛況だった。
せっかくなので、今日のお昼は街中で食べる予定である。
「クーにぃ、見てみてっ!」
その一角、ライカが指を差す。
なんと、そこには――『辰寿司』と書かれた、名前からして紛れもないお寿司屋さんが存在していた。
本当になにからなにまで――日本と遜色ない。
いくらなんでも、ここまで類似するものだろうか? もしかして、いや、そんな憶測より、今は寿司――寿司のことで頭が埋め尽くされる。
僕は店に飛び込みたい衝動を――生唾を飲んで抑え込む。
「……ライカ、まずは商店に行こう」
「えぇー、ライカ、お腹空いたよぅ」
「同じく、僕もだよ。だけど、まずはある程度の――資金を確保できる状態を作っておきたいんだ」
街中を見るに当たって、局長が資金をくれている。
局長曰く、情報共有のお給金との話ではあるが、それが建前ということくらいは理解している。
即座に散財するのは違うだろう。
あくまで、最終手段として置いておきたいのだ。
風花さんにオススメの商店は聞いてきた。ここで手持ちのアイテムを売り、あわよくば情報も手に入ればという算段だ。
僕は風花さんの手書きの地図を手に、
「えっと、この通りを真っ直ぐ――川沿いの橋を渡ったところか」
「クーにぃ、見てみてぇっ! 魚がいっぱいいるよっ!」
「本当だ。鯉かな?」
澄んでいて綺麗な川だ。
鯉も色とりどりで、景観に見合っている。川が透き通っているだけに、煌めいているようにも見えた。
ライカがじーっと川を眺めながら、
「美味しそうだねぇ」
「……ライカ、露店でなにか買おうか」
「いいのっ?!」
「商店での商談も時間がかかるかもしれないからね。少しくらいお腹に入れておいても問題ないよ」
局長、ありがたくお金を使います。
最終手段と思った矢先に忍びないが――局長もライカがお腹を空かすくらいなら、使ってくれと言うだろう。
放っておくと、川に飛び込んで鯉を捕獲しそうで怖い。
「ライカ、なにか食べたいものある?」
「んんー、そこら中から美味しそうな匂いがして――ライカ、アレにするっ!」
唐揚げ屋さんだった。
バーベキューのように、串に刺した唐揚げが立ってある。めちゃくちゃ美味しそう、僕も食べたい。
「「この唐揚げ串、5本ちょうだいっ!」」
声が重なる。
ライカと同時に、注文をしてきたお客さんがいた。店主が困ったように今日はこれでラストなんだよと言う。
ライカは譲る気が全くないようで、
「ライカの方が注文するの速かったぁ」
「待つのじゃ、どう考えても
負けじと、もう片方のお客さん――女の子も対抗する。
年齢はライカと同じくらい、花柄の着物を上から羽織った着こなし、活発そうな雰囲気を感じさせる。
その反面――大きな瞳、腰まである艷やかな漆黒の髪、大和撫子を彷彿とさせるような可憐な容姿であった。
僕は火花の散る真ん中に割って入り、
「半分個は駄目なの?」
「「奇数だからできないでしょっ?!」」
こういうところだけは気が合うらしい。
唐揚げ串を巡ったバトル、穏便に済まそうとした僕の意見は――即座に却下されるのであった。
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