第188庫 悪夢

「やめ、て、やめてぇ」


 就寝時、夜更け過ぎのこと。

 客間に並べた布団、ライカの方から――泣き声が聞こえてくる。

 いやな夢でも見ているのか、ポロポロと涙を流していた。


「もう、叩かないで――痛いの、いやだぁっ!」


 僕はそっとライカを抱き寄せる。

 ライカの呼吸は荒く、目を真っ赤に見開いていた。夢と現実の狭間にて、混乱しているように思えた。

 これは――過去のトラウマがそうさせるのか。


「……ライカ、大丈夫だよ」

「本当、本当に? 怖い、怖いよ。ライカ、ライカはね――なにも、なにも悪いこと、してない、してないのに」

「ここに悪い大人はいない。安心して眠っていいんだ」

「……クー、にぃ、クーにぃ」


 僕の体温に安心したのか、ライカが目を閉じる。

 改めて、ミミモケ族に対する非人道さに怒りが湧く。今こうしている間にも、ライカと同じような目にあっている子は――たくさんいるだろう。

 僕はライカの頭を優しくなでる。


「……この世界は変えることができる。いつか、常識すらも変えることだって」


 ただ、今はその時ではない。

 世界の根本を脅かす強敵を――倒さなくてはいけないのだ。

 魔力の粒子となり、リボルやフレイムドルフたちはどこに転移したのか。

 もし、この大陸にいたとしたら――大変なことになる。

 転移した経緯だけは話すべきか? 

 隠していても仕方ない、サンサンに災いが降りかかる前に警戒網は張った方がいい。

 僕は情報共有の内容を、頭の中で整理していく。


「……どう動くべきか」


 まずは、街中で情報を手に入れよう。

 どんな小さなことでも、必ずゼロ以上にはなる。願わくば、ナコとゴザルに繋がるなにかを得ることができれば最高だ。

 二人は必ず生きている――信じている。


「……クーにぃ」


 ライカの手を両手で包み込む。

 問題は山積みだが、一つずつ乗り越えて行こう。

 僕は押し寄せる睡魔に身を任せ――静かに目を瞑った。

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