第74庫 衝撃の事実

 ポケットハウス。

 どこにでも一軒家がだせるというキャンプ用のレアアイテムだ。ゲーム時は必須というアイテムではなく、完全に趣味用のアイテムであった。


 使用頻度は少ない割に入手難易度はかなり高く、僕のアクアニアスのホームにもポケットハウスはなかった。何回か皆で取りに行った時、使うことないやってパスしていた記憶がある。


「ソラも取っておいたらよかったのに」

「いやぁ、今となっては後悔してるよ」


 リビングに寝室が2部屋と、十分な広さのオシャレなハウスだ。

 移動用なのでホームほどの大きさはないものの、旅の道中この快適空間が得られると考えたら筆舌に尽くしがたい。

 ゴザルさんが青い小石を取り出し、


「まずは手洗いうがい、リペアストーン、全身清潔にしましょうか」

「やっぱり、ゴザルさんもリペアストーン持ってたんだ」


 リペアストーンとは装備を初期状態まで修復してくれるという優れものだ。

 初期状態ということは――修復=清潔さも兼ね備えているため、今となっては旅の必需品となっている。


「んんぅー、リペアストーン最高! 心身ともに洗われていくようだわ!! この神アイテムがなかったら私は死んでいたかもしれない、もう鎧の中が蒸れに蒸れまくって大変だったのよね」

「えぇっ」

「そんなドン引いた顔しないでくれる」

「なんかそう言われると酸っぱい香りがするような」

「……」

「冗談だから刀を納めて」


 僕たちはリビングで身体を休める。

 改めてハウス内を見渡してみると――内装はゴザルさんが色々と変更しているのか、ハウスの至るところにお人形が飾り付けられていた。


「なんか、ゴザルさんのイメージ変わったなぁ」

「わ、私だって女の子なんだから、こういうの好きだっていいでしょ」

「悪い意味で言ったんじゃないんだ。僕にとってはどっちもゴザルさんだし、今は今で可愛らしいよ」

「そ、そんな面と向かって言われると逆に恥ずかしいわよ」

「……クーラ、お侍さんのことが好きなんですか?」

「普通に好きだよ」


 長年を共にした仲間、当たり前である。

 僕の今の言葉を聞いてか、一瞬ゴザルさんの身体がビクッとする。表情は兜にて見えないが指をもじもじとさせていた。

 ナコがじっと僕の方を見つめながら、


「私のことは好きですか?」

「もちろん。好きだよ」

「私とお侍さん、どっちが好きですか?」


 お、おぉん?

 なにこの究極の質問、僕は思わず真顔になる。


「私も聞いてみたいわ。今までの仲間か、それとも今を旅した仲間か――ソラはどっちなのかしら」


 ゴザルさんが意地悪気に言う。

 それはまるで、今の僕はソラなのかクーラなのか――そう問われている気がした。僕は立ち上がり台所の方に向かおうとする。


「紅茶でも入れようか」

「あとでいいです」「あとでいいわよ」


 同時に両隣から腕を掴まれる――に、逃げられない。

 ふと懐かしい記憶がよみがえる。

 昔、妹が小さいころにこの手の質問をよくしてきていた。

 

 ――ママと私どっちが好き? 

 

 どっちも同じくらい好きって言うと不機嫌になっていたんだよな。


「二人共大好きじゃ駄目かな?」


 僕はあえて言う。

 委ねるようなズルい言い方ではあるが、こういった質問に正解なんてものはない。相手がどんな気持ちで受け取るかなんて千差万別だからだ。

 僕の答えにゴザルさんとナコが笑い合いながら、


「少し意地悪しすぎたわね、今日はこれくらいで許してあげる」

「許します」


 不正解ではなかったようで安心する。


「でも、ソラの顔で言われたらドキッとしちゃった。整った容姿しているけど誰かをモデルにでもしたの?」

「自分の好みど直球で作ったつもり――だったんだけど、この姿で日々過ごすことになってみてわかる。少しだけ妹のような雰囲気を感じるんだ。無意識のうちに似せて作成したのかもしれないね」

「ソラはシスコンなのね」

「ハッキリ言うなぁ」

「その妹さんはオンリー・テイルをしていなかったの?」

「ゲームに全く興味なかったからね」

「……転生は望めない可能性が高いのかしら?」

「僕も何度も考えた、状況的には難しいと思う」

「本当に、そうなの?」


 ゴザルさんは熟考するよう兜の顎付近に手を置きながら、


「ソラと私、フレンド登録しているわよね」

「もちろん。メインキャラクターの方は初期からしているよ。現状僕のメインはずっとオフライン、灰色になっているんじゃないかな」

「なっていないのよ」


 即答。

 次いで、ゴザルさんが衝撃的な一言を告げる。


「あなたのキャラクター、ずっとオンラインになっているわよ」

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