第73庫 白の宝物庫イレシノンテ

 白の宝物庫イレシノンテ、地下10階。

 僕たちはダンジョンの最下層に向けて順調に進んでいた。

 パーティーのフォーメーションはゴザルさんが前列、ナコと僕が後列となっている。


 主に出現するモンスターは魔獣系、角の生えた狼や巨大なクマなど、上級ダンジョンなだけあって手強いモンスターばかりだ。

 ゲーム時なら僕とナコのレベルでは到底通用しないダンジョンだったが、今はスキルの創意工夫が主となっているため少なからず戦力にはなるだろう。


「風の刃――鎌鼬かまいたち


 ゴザルさんが次々にモンスターを斬り伏せていく。

 倒しそこねたモンスターを、僕とナコが仕留めるという手筈になっているが――ゴザルさんが強すぎて倒しそこねるということがない。

 まさに、一騎当千である。


「私の戦いぶり、よく見ていてね」


 見稽古。

 最初に自身の戦闘をしっかりと見てほしい、魔力の流れについてよく知るべきだとゴザルさんは言った。


「魔力操作によって――スキルの威力、身体能力、桁違いにアップするから」

「えっ、魔力って身体能力も変わるの?!」

「……ソラ、今の今までよく生きてこられたわね」

「ドン引きしたトーンで言わないで」


 魔力操作、か。

 もとの世界に比べて身体能力が遥かに向上していることは自覚していた。今まで無意識のうちに魔力操作して動いていたのかもしれない。


 ――鍛錬場の一件を思い出す。


 確か、ナコは魔力の放出量に応じて攻撃の威力が変わると言っていた。ナコの並々ならぬ強さ、すでに魔力操作を自然と身に付けつつあるのではなかろうか。

 ゴザルさんは襲って来るモンスターを斬り倒しながら、


「もしゲーム時と同じだと仮定したら、魔力総量はジョブ問わず共通だから、魔力操作次第で強さは天と地ほど差がでてくるわよ」


 ゲーム時の魔力総量は10万がベースとなっていた。

 魔力を枯渇させることなくスキル回し、魔法回し、上手に連携していくプレイヤーは上級者として認定されていた。

 リアルとなった今もその点は揺るがず、事細かに魔力を扱えるものは強いのだろう。

 ナコが真面目にメモを取りながら、


「……魔力操作、勉強になります。お侍さんは色々な属性が使えるんですか?」

「武者というジョブは光と闇を除いた6属性を扱うことができるの。扱うっていっても刀に属性付与するって感じなんだけどね。この属性について、オンリー・テイルの世界に来てわかったことが一つあるわ」


 ナコの質問にゴザルさんが答える。


「6属性の中でも得手不得手が存在する。得意属性は感覚的にしっくりくるというかなんというか、他の属性より明らかに威力が高くなってるの。私は『雷』と『無』に特化していたかしら」

「無っていうのはなんですか?」

「無属性のことよ。無属性はね――長所も短所もない代わりに、全ての敵に平均的なダメージがだせるの。これって微妙に聞こえて実はすごいんだ、耐性激高のボス戦でも無属性だけは普通にダメージ通っちゃうから」


 ひぃふぅみい、ナコが指を折々としながら、


「あれ? 無属性を入れると7属性になりませんか?」

「私は武者の超越者だから特別に無属性があるのよ。超越者には特別なスキルが与えられるのは知ってる? 私に開花したスキルは『無の刃』だったの」

「ふわぁ、すごいです」


 ナコが目をキラキラと輝かせる。

 その羨望の眼差しに大きなリアクション、ゴザルさんは喋っていて気持ちよくなってきたのか――これ見よがしに無属性をナコにお披露目する。


「無の刃――神威!」


 以前、僕をスカル・キラーから救ってくれたものだ。

 蒼き閃光がほとばしり、周辺のモンスターの気配が全て消失した。何度見ても凄まじいの一言に尽きる、ゴザルさんは完全に武者という己のジョブを使いこなしていた。

 ナコがピョンピョンと飛び跳ねながら、


「すごい、すごい、すごいですっ!」

「……ねえねえソラ、ナコちゃんってすっごく可愛いわね。あんなに純粋な瞳で私の話聞いてくれるなんて私自身も嬉しくなっちゃう」

「わかるー、素直なところも愛らしいよね」

「ナコちゃんの成分をニャンにわけてあげたいわ」

「同じ種族とは思えないよね」


 ニャニャンの陰口を叩きながら先に進む。

 大きな噴水のある広間、その奥に――11階に繋がる階段が見えて来た。ゴザルさんはきょろきょろと辺りを見回しながら、


「うんっ! 今日はここをキャンプ地にして休もっか」


 氷迷宮ホワイト・ホワイトと同じく、こうした広間にはモンスターが湧かない。

 ゲーム時にもあった運営の良心ともいえるセーフティゾーン、キャラクターを放置して休んでも問題ないエリアである。

 しかし、念のためにイレギュラーだけは警戒しておきたい。


「ゴザルさん、僕と交代で見張りでもしようか」

「うん、常にイレギュラーに備えておくのは大正解だわ。でもね、私がいる限りそこまでしなくて大丈夫よ」


 と、ゴザルさんがアイテムボックスからなにかを取り出した。


「じゃじゃーん、ポケットハウスっ!」

「嘘っ! そのアイテムってまさかっ?!」

「ふふーん。そのまさか――よっと!」


 突如、ダンジョンの広間に一軒家が出現するのであった。

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