第72庫 ドロップ率100パーセント

 上級ダンジョンとは文字通り、上級者向けのダンジョンのことである。

 僕とナコも氷迷宮ホワイト・ホワイト、輝きの洞穴オーラ・ストーン、少なからず二つのダンジョンは攻略してきた。

 ナコと共に幾度となく潜り抜けた死線、それらはいずれも初級ダンジョンに分類されるのだ。


「初級ダンジョンでもめちゃくちゃ死にかけたのに、中級ダンジョンすっ飛ばして上級ダンジョンとか罰ゲームかな」

「クーラ、私たち生きて帰れるでしょうか」


 僕たちはウィンウィンの中心に座する『ガラスティナ王宮』に来ていた。

 大層な名前の通り国王や貴族が拠点とする場所、その王宮地下には白の宝物庫『イレシノンテ』というダンジョンがあった。

 内部は王宮と繋がっているだけあって似たような雰囲気、大理石中心の高貴な造りとなっている。

 地下最大30階までとなっており、難易度も上級に見合ってかなり高い。

 ゲーム時はすでに攻略され尽くして閑散としていたが、たまに秘密の扉なるものが発見されることもあったので、そういった隠し要素好きのマニアが探し回っていたりもした。


 王宮が探索という名目で開放しているダンジョンだが、出入り口には幾重にもかけられた封印が施されており、並の冒険者では立ち入り禁止となっている。

 突入条件は冒険所ランクが『A』以上であることだ。

 本来ならば僕とナコは入ることが不可能なダンジョン、ゴザルさんの一言により特例として許可が下りていた。


「私のサポーターってことで登録しておいたから」

「Sランク様の暴挙だぁ」

「ぶぅぶぅ言わないで、ソラにもメリットがあるように仕向けたんだから」


 今回の探索の成否により、僕たち"Kingly"もランクがアップする。

 その点は非常にありがたいことだが、いくらなんでも危険すぎる。だからといってゴザルさんのお願いを断るわけにもいかない。


 結局、メリットあるなしに関わらず僕が行くことは決定している。


 そうなると、ナコも間違いなく一緒について来る。

 今の状況は必然といってもいい。

 いずれは挑戦するかもしれない上級ダンジョン、どうせならゴザルさんという『安心』が付いている時に行くのも無難かといった次第だ。

 加えて、ゴザルさんはこんな提案をしてきた。


「天使の雫が手に入るまで、私が二人に稽古を付けてあげるわ」


 ありがたい話だった。

 僕とナコは前衛、後衛の分類は特にないものの――どちらかというと前衛よりな部分が大きい。ゴザルさんのジョブは武者、攻撃力に特化した前衛の中の前衛だ。

 さらに、全世界で少数しか存在しない超越者ともあらば――彼女以上の適任者はまずいないだろう。


「なにかあっても、私がソラとナコちゃんを守るから――ねっ?」

「頼りにしてるよ。問題は天使の雫かな」


 僕は言う。

 最下層30階にいるネームドを倒さないといけない。ドロップ率は他に比べて高かったはずだが、それでも10パーセントくらいだったはずだ。


「ふふん。それが意外と問題でもないのよ」


 名案があるようで、ゴザルさんが自信あり気に言う。


「ソラはさ、ドロップ率ってなんだと思ってる?」

「モンスターを倒した際、アイテムがでるかどうかっていう確率かな」

「それはあくまでゲーム時の話よね? 天使の雫に書いてあったアイテム説明欄は記憶に残ってる?」

「『白虎の零した涙』っていう記載だったような」

「それはつまり、白虎をボコボコに泣かして直で涙を頂戴したらいいわよね」

「えぇっ! そんなパワープレイありなのっ?!」

「ソラもここに来るまで素材狩ったりしなかった? 倒したモンスターってそのまま手に入っていたでしょ?」


 グリーンラム草原の旅路を思い出す。

 道中で採取した野草、狩った羊は羊肉が手に入っていた。あまり深く考えていなかったが、ゴザルさんの言う通りゲーム時ならば確率だった。採取をしても『手に入らない』時があったし、狩った羊が『羊肉』をドロップするとは限らなかった。


 ……今はどうだ? 


 採取した野草は手元に残る、狩った羊の羊肉は手に入る、ゲーム時とリアルが混同しすぎていて――当たり前のことが抜け落ちていた。


「ハイスパイダーはあくまでオマケ的要素で天使の雫をドロップするだけ。そういったものはゲーム時のドロップ率が適応されると思うんだけど、そのアイテムの媒体となっているものは違う。直接狩りに行けば入手率100パーセントってことなのよ」


 ゴザルさんは言う。


「だってもうここはリアル、現実の世界と変わりないんだから」


 その言葉は――なによりも説得力があった。

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