第69庫 Gozaruでござる

 ナコと共に鍛錬場に向かう。

 入るや否やなんとも風情を感じる光景、風景に合っているというかなんというか、鍛錬場のど真ん中にて――威風堂々、重厚な鎧を着た武者が鎮座していた。

 気配で気付いたのか、ゴザルさんは振り向きもせず、


「……来たでござるか」


 な、なんて渋い空気感。

 この格好の付け方、シチュエーションを意識したかのような仕草――あまりの懐かしさに思わず笑みがこぼれてしまう。

 ゴザルさんは生粋のロールプレイング派、場所と状況を加味して楽しむのが大好きな御仁なのだ。


「お待たせ、ゴザルさん」

「ふむ。身体の方は?」

「天使の秘薬のおかげで全く問題ないよ。助けてくれてありがとう――早速本題に入ってもいいかな」

「よかろう、話せ」


 僕はゴザルさんに後ろから飛び付く。


「な、な、急になんでござるか?!」

「ゴザルさん。僕だよ、僕!」

「……本当に誰?」

「ソラだよ、ソラっ!!」

「はぁ、ソラ? はぁあああああ?! もう全然違う、キャラクターの性別自体違う、本気で言ってるでござるかっ?!」

「話せば長くなるんだ」


 僕はかくかくしかじか――キャラが変わった理由を伝える。


「へぇー、そんなこともあるんだ」

「ゴザルさん、素の状態になってるよ」

「クーラって、ソラって名前だったんですか?」

「ナコ殿、ソラは我らが"Nightmares"の土台を支える大事な一員だったのでござるよ」


 ナコの問いかけに、ゴザルさんが答える。

 僕が倒れている間に話でもしていたのだろう、お互いすでに普通に会話できる間柄のようだ。


「"Nightmares"ですか? クーラが会いたいって言っていた、オフ会で会う予定だと言っていた方って――お侍さんのことなんですか?」

「まさにその通りでござる」


 ゴザルさんは深々と頷きながら、


「あの日はワクワクと若干の緊張を含みながら、オフ会の待ち合わせ場所に向かったのでござるよ。せっかくなので拙者の大好物を皆にお土産でもと、とあるシュークリーム店に並び立ったが――購入と同時、シュークリームと共に昇天した。まさに詰められたクリームのような儚さよ、最後に中身だけ贅沢に吸っておけばといまだに後悔している」


 そ、壮大なエピソードだな。


「オフ会当日、あんなことになるとは想像もつかなかったでござるよ」

「ゴザルさん、プレイヤーサーチしてもずっと灰色だったから――転生していないのかと思って心配していたよ。僕以外、他のメンバーには会ったの?」

「会ってない」

「えぇっ?」

「というより、絶対に会いたくない」

「なんで?!」

「今の拙者の状況を見たら、馬鹿にされるからでござる」


 ゴザルさんが悲しげに理由を話し始める。

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