最強の武者Gozaru編
第67庫 ファーストキス
目を覚ますと、ホームの自室――ベッドの上にいた。
自身の状況から察するに、僕はゴザルさんの手を握った瞬間気を失ったに違いない。
第二層に繋がる通路は完全に塞がっていたはず、一体全体どうやってここまで運んで来てくれたのだろうか。
その時、部屋の扉が開く。
振り向くと、ナコが僕の方を見て固まること数秒――僕が目覚めたことに気付き、泣きじゃくりながら飛び付いて来た。
「クーラ、クーラ、クーラぁああああぁぁあああっ!」
「ナコ、心配かけてごめんね」
「うぅ、う、ぁああああああんっ!」
ホーム全体に響くような泣き声である。
ここまで喜んでくれるとは嬉しい限りであるが――僕はナコを落ち着かせるため、ゆっくり優しく頭をなでる。
「ナコのおかげで戻って来ることができたんだよ」
「……私、なにも、していません」
「ううん」
僕はナコの手を包み込むよう両手で握りながら、
「僕が取り残された時、ナコが手を伸ばしてくれただろう。この暖かい手を思い出していなかったら――僕はここにいなかった。差し出した手は届いていたんだ」
「……クーラ」
「ナコも怪我をしていたはずだけど、大丈夫だった?」
「はい。レイナさんが治癒魔法をかけてくれました」
「あらー、まさにそのレイナが参上です。猫ちゃんの泣き声に誘われて来てみればお邪魔だったかしら?」
開いた扉の向こう側、レイナさんとサマロ顔を覗かせる。
「俺たちも飛び付いて喜びたいところだったが、二人の間に入ったら黒猫が怒りそうだから遠慮しといたぜ」
「サマロ、ナイス判断です」
ざわりと、ナコが全身から黒い波動を噴出させながら言う。
「クーラとの大切な時間、乱入されていたらサマロだけは無意識に斬っていたかもしれません」
「ぉ、おう。ナイス判断をした自分を褒めてやりたいぜ」
「……猫ちゃんの目が本気だわ」
そんなやり取りに僕は思わず笑いながら、
「あはは。皆無事でよかったよ」
「……クーラさん、あんたは本当に危なかったんだ。鎧武者に運ばれて来た時、全身傷だらけのズタボロでな。三日の間、ずっと意識を取り戻さなかった。効果の高い回復薬とはいっても失った血液まで完全に戻りはしないからな」
「そうそう。天使の秘薬だっけ? 鎧武者さんが一緒に渡してくれたおかげよ。あんなレアアイテム初めて見たわ」
サマロ、レイナさんが言う。
さすがゴザルさん、僕が落とした天使の秘薬を拾ってくれていたのか。
抜かりのない人だなという納得感――加えて、疑問が一つあった。
「僕、気を失っていたと思うんだけど。どうやって天使の秘薬飲んだの?」
「口移しよ」
「えっ? 口? もう一回お願い」
「猫ちゃんが口移しで飲ませたのよ」
レイナさんが即答する。
その言葉に誘われて、僕は無意識にナコの方を見てしまう。
僕の視線に気付いたのか、ナコが茹でダコの勢いで顔を真っ赤に染めて、
「うあぁあ、レイナさん! 内緒でって言ったじゃないですかっ?!」
「あ、そうだったわ」
「……すまねえ、黒猫。こいつ結構抜けてるところあるんだわ」
「うっかりだったわ、ごめんなさい。まあでも緊急だったし、女の子同士だからノーカウントよ」
「ち、違います! クーラはっ!」
「ナコ」
「うぅ~っ」
言葉の続きを制止するよう――僕はナコの名前を呼ぶ。
僕の中身が男だという話は伏せた方がいいだろう。リーナの時と状況は違って二人は間違いなくこの世界の現地人だからだ。
現段階でプレイヤーだとは伝えない方がいい。
もしかすると、異分子として敵認識されてしまう可能性もある。プレイヤーの立ち位置が不明だからこそ慎重になるに越したことはない。
……しかし、口移しかぁ。
レイナさんの言う通り緊急性の高い状況である。これをキスにカウントするのはお門違いだろうが、ナコの反応から察するに完全に意識している。
そりゃそうだ、小学生の子が大人のよう意識的に境界線を引くことは難しい。
真実を知ってしまったからには、なにかしら反応する方がいいだろう。
「ファーストキス」
――「「「?!」」」
唐突な僕の一言に、三人がハッとした顔付きをするのであった。
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