しばらく身を隠そう

「これで僕が出来ることは終わりましたね」


「そうですね。サトーさんの協力で、銀河に存在するメガコーポは少しばかりえりを正すことになるでしょう」


「あれだけやっても、襟を正すだけなんですね……」


「後はもう一つ、別の問題を解決せねばなりません」


「別の問題、ですか?」


 久美子とそう話していると、裁判所の中からどこかぎこちない様子で女性が走ってきた。まるでじぶんの体じゃないみたいに、手と足を一緒に前に出して走っているのは――


「あっポチ!」


「キューイ! あ、失礼。ついクセで……」


「問題は、今サトーさんとポチが、非常に危険な状態にあるということですね」


「あー。確かに」


「銀河中から凄腕の暗殺者が来るでしょうね」


「えー……証人保護プログラムとかどうなってるんですか?」


「まぁまぁ慌てない。そのプログラムの話よ。裁判が終了するまで、あなた達はお仲間と一緒に、連邦政府が管理する安全な惑星に移動してもらうわ」


「つまり、惑星ナーロウの仲間と一緒に、別の星にいくってことですね?」


「そういうことね」


「出発はいつですか?」

「今よ」



 僕とポチ、そしてニートピアの仲間は宇宙港に送られ、そのままノータイムで宇宙船の中に押し込められた。分かっちゃいるけど強引だなぁ、もう……。


『窮屈な扱いをさせると思うけど、連邦政府としてはサトーやポチ、あなた達を失うわけには行かないの。理解してもらえると助かるわ』


 コクピットにいる久美子から僕たちに向かって声がかけられた。

 理屈はわかるが、落ち着くヒマもないとはこの事だ。


「どれくらい姿を隠していればいいんですかね?」


『そうね……この手の裁判は大体半年くらいかかるから――』


「うへー」


『プイ! でも、その分の生活費は連邦が面倒を見てくれますよ!』


「このうえお金まで取るってなったら、誰も協力しませんよ」


『きゅー……』


 もはや口癖を直そうともしなくなったポチが、僕を励ました。

 彼女はあの作業機械の姿から、人型のアンドロイドに姿を変えていた。


 これにより、自然な言葉でコミュニケーションができるようになった。

 とはいえ、ちょっと寂しいな。


『目的地は惑星ナーロウに比べたら、かなり文明的な場所だからね。ま、これまで苦労した分、バカンスだと思えばいいんじゃないかな?』


「バカンスかー! なんだそれ!」

「……『バカッス』バカになれ、つまり遊び呆けろってことですわね!」

「なるほどー! さすがクロだぜー!」

「割とその解釈で間違ってないのが何ともだねぇ……」

「ハハ!」


 ま、ニートピアのみんなと一緒なら大丈夫だろう。

 さて、到着するまで映画でも見てるか……。


 今僕らが乗っている宇宙船は、宇宙に存在する空間の飛び地「ウェイポイント」を使用する「ハイパーレーン航法」という技術を使う。

 ようするに、ワープが使える超最新型の宇宙船だ。


 この宇宙船なら、普通の飛行機に乗っている感覚で銀河の彼方まで行ける。

 科学の勝利万歳だ。


 僕が文明を離れていた期間に、結構な数の新作の映画が出ただろう。

 そうだ、サメ映画でも見るかな。


 旅行の時に普段見ないクソ映画を見る。

 これが贅沢でなくて何だろう。


 僕が座席についているモニターを操作すると、映画が始まる。

 映画会社のロゴが出て、重厚な効果音が――


<ズガアアアアアアアァーンッ!!!!!!!!>


(うるさッ!!!! いや、これは……!)


『不味い、宇宙船が攻撃を受けたわ!』


「まさか、メガコーポに雇われたアサシンか!?」


『プイ! 間違いありません。あらゆる標識なし。完全なステルス状態です!』


「クソッ……こんなところで!」


『久美子さん、振り切るために航法装置をオーバーロードします!』


『……それしかないわね。ドコに漂着するかわからないけど、このまま撃墜されるよりずっとマシだわ』


 え、なんか不穏なこと言い出してない?


「キュイ!! FTL航法装置の安全装置を解除。マニュアルモードでハイパーレーンに突入します! 総員、衝撃に備えてください……来ます!!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



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