宇宙港へ


 よし、ポチが完全にコントロールを奪ったぞ!


 僕の視界には、キング・ベヒーモスの主砲塔についているメインカメラからの映像が送られてきている。MRはこんな事もできるんだな。


「プイ!」


 ポチが吠えると、砲塔がゆっくりと右にまわりだす。

 すると、ここから遠く離れた場所に、大きな白いホテルが見えてきた。

 あれが宙賊が拠点にしている建物か。


「情け無用、ファイアーー!!」

「キューイ!」


 ベヒーモスが鋼の巨体を揺らし、咆哮する。

 そして、放たれた光弾はまっすぐホテルに向かっていく。


<ズゴォォォッ……!!>


 巨獣の王から放たれた砲弾は、宙賊が拠点にしていたホテルに着弾すると、完全に建物とその周辺部を吹き飛ばして、地面をたいらにしてしまった。


「よし、終わったな!」

「プイ!」


 圧倒的勝利だ。

 ん、なにか忘れてるような……あ、ギリーさん!



「あのまま置いてかれるかと思ったよ」

「イヤー、ソンナコトナイヨー」


 宙賊の拠点を完全に破壊した後、ちょっとご立腹なギリーさんを乗せ、僕らはハウストレーラーで宇宙港へ向かった。


 キング・ベヒーモスは放ったらかしだ。

 だが、もちろんそのままにはしていない。

 僕はポチにベヒーモスが持っている本物の自爆装置を起動してもらった。


 だからそろそろ――来た!


<カッ……ズオォォン…………ッ!!>


 僕らの背後に閃光が生まれた。

 それは暗くなって闇に包まれかけた廃墟を、昼間のように照らす。


 爆発は暗くなっていた道を明らかにし、直後、爆風は前へ前へと急いで襲ってくる。それは僕らの背中をぐんと押し上げていくようだった。


 爆発はとても危険なもの。

 だけど今の僕には、それが心を奮い立たせる物のように感じ取れた。


 もうすぐ帰れる。

 きっと、その期待感があるからだろう。


「今日は、一生分の爆発を見てるなぁー」

「サトーは呑気だねぇ」


 そのまま僕たちは宇宙港に到着する。

 だが、拍子抜けしたことに宙賊は武器を放り出して、皆逃げてしまっていた。


「人っ子ひとりいませんね」

「好都合だね。お客様、どの便にいたしますか?」


「そうだなぁ……できるだけ新しそうなやつがいいな」


 僕は宇宙港に停まっている宇宙船を見る。


 宇宙港にある宇宙船は、僕がナーロウまで乗ってきたポンコツ宇宙船に比べれば、どれもハイソでセレブリティーなものに見える。


 でもせっかくなら、一番良いやつに乗りたいよな。タダだし。


 「……うん、アレにしよう!」


 流線型のシルエットをしている白い宇宙船を、僕は選んだ。その表面は継ぎ目一つなく、滑らかに仕上げられている。見るからにお高そうだ。


「へぇ、アンタにしちゃ、品が良いのを選んだね」

「でしょー?」


 おっと、野ざらしにされていたのは間違いないんだ。

 一応、ポチに気体の状態が問題ないか、チェックしてもらおう。


「ポチ、この宇宙船の状態をチェックしてくれ」

「プイ!」


 ポチは宇宙船の下に回ると、主脚が突き出しているあたりにあるメンテナンス用ハッチを開き、そこに多脚戦車のマニピュレーターを突っ込んだ。


 きっと、機体の情報にアクセスするためだろう。


「プイプイ、プ~イ!」

(オンボードコンピューターにアクセス、システム再起動。生命維持装置、通信システムコールグリーン。油圧、電気系は正常値にあります)


 さすがポチ。

 ポチにとって、機械と対話するのはお手の物だ。


「プ……キュイキュイ?」


「ん、どうしたんだポチ?」


「プ、プイ~!」

(AIモードが見つかりません。制御系コンピューターは無事ですが、宇宙船のナビや生命維持、総合的な自己判断を行う『AIコア』が外されています!!)


「な『AIコア』が外されてる……だって?」


「なんだい、その『えーあいコア』って」


「えっと、『AIコア』は宇宙船に欠かせない部品で、宇宙船がクッソ広い宇宙を漂っている間仕事をしてくれるパーツです。いってみれば機械の船長ですね」


「じゃあ、他の宇宙船を選ぶしか無いねー」


「そ、そうですね。ちょっと嫌な予感もするんですが……」



 まずは結論から。

 この宇宙港にある全ての宇宙船から、『AIコア』が外されていた。


「まさか、全ての宇宙船が飛行不能にされてるなんて……」


「考えてみりゃ、それもそうだね」


「どういうことです、ギリーさん?」


「手下が勝手に逃げ出したりしないよう、宙族のカシラだけが、そのAIコアってやつを持ってたんじゃないかね?」


 なるほど、それはあり得るな。


 これはカシラが手下を支配するためにやったことに違いない。

 宇宙船からAIコアを取り去って、その秘密をカシラは自分だけで持っておく。


 そうしておけば、どうなるだろう?


 もしカシラが死ねば、誰もこの星から出ることができなくなる。


 AIコアを取り去ったのは、反逆を防ぐためのカシラが仕掛けた事だったんだ。

 おそらく、AIコアの所在は、カシラしか知らないだろう。


「ん?! ってことは……」


「サトー、あんたはカシラをベヒーモスの中に置いてきただろ?」


「アチャー……ベヒーモスごと吹っ飛んじゃったかぁ」


「ま、これも運命だと思って諦めな」

「トホホ……」


 しまったな。

 最期にカシラが僕の前に立ちはだかった。


 最後の最後で大ポカをしてしまった。


 僕は失意に飲まれ、幽霊のようにフラフラと歩く。

 そして、この星を出るために選んだ、宇宙船のコクピットの座席に体を預けた。


(宙賊との戦いが、こんな終わりを迎えるなんてなぁ……)


 僕はAIコアが収められるスロットを見た。

 コクピットの中央にあるその場所はとても小さい。


 だが、このほんな小さな隙間を埋めるものを、僕は持っていない。


(はぁ……)


 この規格、どこかで見たような……、

 ――ッ!!!




「いや……あるぞ! ――AIコアの代わりになるものが!」


 僕はコクピットの座席から立ち上がり、ポチのもとに向かった。




※作者コメント※

まて、ポチを分解することは許さんぞ!

やめろサトー! うおぉー!

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