カシラとの戦い

「ハク、クロ! 今だ!」


「おー!」

「やってやりますわー!」


 二人はカシラに向かって、棍棒を振り下ろした。


 彼女たちが使っているのは、数百キロある大砲の砲身をそのまま棍棒としたものだ。たとえパワーアーマーといえど、単純な質量の暴力には抗えない。


 どんなにテクノロジーが進んだとしても、人は人。


 銀河におけるハイテク技術の頂点、最強の鎧であるパワーアーマーを着込んでいても、暴走トラックに轢かれちまえば、人間は死ぬのだ。


 暴力は全てを解決する!!!

 ヌハハハハハ!!!!!


 頭部を胴体にめり込ませて、血潮を吹き出すカシラを僕は想像した。

 しかし、そうはならなかった。


 二人が振り下ろした棍棒は、先を切り落とされ、ナナメに切ったちくわみたいになっている。――な、何が起きた!?


「あるぇー?」

「どういうことですの!?」


「やってくれるな……」


「……げぇっ、まさかそんなものまでっ!」


 30センチくらいの取り回しの良さそうな短い剣を宙族のカシラは持っていた。それが通常の剣と違うのは、刃が白く輝き、耳鳴りのような音を立てているという点だ。


「それは、単分子ブレード!!」


 僕が口走った『単分子ブレード』とは、刃がひとつの分子からなる刃物の事だ。それらは「単一の刃」を意味する「モノブレード」と言われ、ほとんどの物質を切断することができる。


「ほう、良く知っているな……君は本当にサラリーマンか?」


「暇なときは兵器解説の動画を良く見てたんですよね。『武器屋のアンちゃん』とか、『砲弾デスマーチ』とか」


「では『コレ』がどういうものか、しっているな? この単分子ブレードに切り裂けないものなど、ありはしない!」


 カシラが走り、低い唸りを上げる白刃をハクに振り下ろす。


<ブォン! バチバチ!>


 空気が爆ぜる音がして、ブレードがハクのもつ棍棒を断ち割った。もはや何の役にも立たなくなった残骸を捨て、彼女はサソリのハサミに得物を替える。


「それすげーなー!」

「ふふふ、そうだろう!」


「ふたりとも、その光る刀身には触れちゃだめだ!!」


「おー!」

「わかりましたわ!」


「だが、いつまで避けれるかな?」


<ブォン!ブォン!ブォン!>


 カシラはプロペラのようにブレードを回転させて二人に迫る。

 室内でそんなもん振り回すな!! 壁もズバズバ切ってるぞ!!


 しかしカシラはそんな事もお構いなしだ。

 クソ、このままだと二人が危ない……なんとかしないと。


 動画では、単分子ブレードの弱点も解説していたはず。

 そうだ、確か……!


「クロ、上だ、あのバルブを壊せ!!」

「解りましたわ!」


「!?」


 背中から翼を出して舞い上がったクロは、右手を獅子の腕に変化させ、天井にあったバルブをぶん殴って、単純な腕力だけで破壊した。


 すると、壊れたバルブから水が止めどなく吹き出し、カシラを濡らす。

 そう、天井にあったのは火災用のスプリンクラーだったのだ。


「これでどうだ!」


 単分子ブレードは熱や冷気、水蒸気といった環境の変化に弱いはずだ。

 水を浴びたらモノブレードが役立たずになるはず……――ッ!?

 

 しかし、僕の期待とはうらはらに輝く刃先は、降り注ぐ水滴にふれることはなかった。ブレードは、膜を作るようにして水を弾いている。


「ふん、これは最新式の軍用単分子ブレードだ。磁場で分子を保護しているため、これまでにあった弱点を克服しているのだ」


「解説ありがとうございます。ポチ!」

「プイッ!」


「えっ」


<バチバチ、バチンッ>


 ポチから発せられた電撃は水に覆われたカシラを流れ、単分子ブレードにも伝わる。そして、電気による干渉はブレードのデリケートな磁場を撹乱し、ただの短い棒にしてしまった。


「アババババババ!!!!」


 ついでにしっかりカシラも感電していた。


「よし、今だ!」

「おー!」



 数十秒後、そのにはボコボコにされたカシラが転がっていた。

 うーむ無惨。


「ふぅ、助かったよ二人とも」

「おう! 助けたぜ!」

「一時はどうなることかと思いましたの……」


「そっちも大変だった感じ?」


「戦いはそうでも無かったんですけど、とにかく迷いやすくって」

「あー、そういえばギリーさん見なかった?」


「わかんねー!」

「道すがらには会いませんでしたわね……」


 むむ、僕とは別の場所に送られたか。

 宙族にあんなことやこんなことをされている可能性があるな。


 しかし、ここで探しに行くのも難しい。

 探し回ってるとまた宙族に見つかるだろうしなぁ……。


「どこにいるか、場所がわからないことには探しようがないなぁ闇雲にベヒーモスの中を探し回っても、危険なだけだ……」


「プ~イ……」


「うーん……『キング・ベヒーモス』の中から、宙族だけを外に追い出す方法でもあれば良いんだけどなぁ」


「キュ、キュキュ!」


「うん……? なるほど、それは名案だ!」

「キュ~!」




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