機械の矜持

「ポチ、ガトリングで牽制だ!」

「プイ!」


<ドカカカカカカ!!>


 ポチは左側にマウントされていた銃身を激しく回転させると、無数の銃弾を前方に向かってバラまいた。


 しかし、ブリキの兵隊は弾丸を避けようともしなかった。

 ボディの表面でそのすべてが弾かれてしまう。


 テーマパークのロボにここまでの耐弾性が必要かぁ?


「クソ! 全然効果がない!」

「プ、プイ~!」


 いや待てよ?


 やつはスラグキャノンの弾に対しては、サーベルで防いだ。

 だがその一方、ガトリングガンに対して何もしなかったということは……。


 そうか、キャノンはアイツに通用するんだな。

 じゃなかったら、わざわざ防いだりしないはずだ!


(――だが、問題はどうやって当てる?)


 僕がそんな事を考えていると、奴はアリの死骸を踏みしだきながら前に進み始める。どっからともなくパッパカパーとかラッパの音がしてるし……何だコレ?


『絶好の戦死日和びよりだな、前進!!』

<パッパッパッパパッパカー♪>


「おぉ~~~!」

「楽しそうですわね!」

「キュッキュー♪」

「いうてる場合か!」


『これが俺からのメッセージだ!!』


 不味い、そんなことしてたら、プラズマ砲がこっちに向いた!! アレをまともに食らったら、あそこにいるアリみたいにドロドロに溶けて爆散するぞ!


<ドビューン!!>


 黒い大砲の先から、緑色に発光する短いレーザーが飛び出した。


 灰色の試験場を怪しい緑色に染めながら進むそれは、まっすぐハクとクロの方に向かっていく。


 何で――あっそうか! 二人が蛮族だからか!


 看板ではミノタウロス、つまり惑星ナーロウでキャストをしている種族が撃たれていた。つまりこの武装ロボットは、ハクとクロ、そしてギリーさんを優先して狙うってことか!


「避け――」


 もはや手遅れなのは間違いない。

 だがそれでも、警告せずにはいられなかった。


 緑色の光がハクの体に吸い込まれるかと思った瞬間、彼女は手に持っていた大砲を真横に振り抜いた。


<カキーン!!>


 黒い砲身に当たったレーザーは進行方向に向かって跳ね返され、ブリキの兵隊の帽子の中心を「ジュッ」という音を立てて貫いた。


「そうはならんやろ」

「なってるんだよねぇ……」


「おぉ、コレ面白いなー!」

「次はわたしですのよ」


『じっとしていりゃ、ラクにしてやったのにな!!』


<ドビューン!!>

<カキーン!!>


「一体どうなってるんだ?」


「プ、プイプイ……」

(おそらくあの大砲の砲身には、プラズマ弾に対して耐性を持つ特殊なコーティングが施されているのでしょう。もしそうでなかった場合、発射と同時に外装が崩壊するはずですので)


「だからってバットにする?」


「プ、プーイ……」

(さすがに設計者も、プラズマ弾でベースボールを始めるとは想像すらしていなかったでしょうね……)



『ママに伝えてくれ。俺は立派に戦ったと……』


「たのしかったぞー!」

「面白かったですわ、ありがとうですの!」


 数分の後、ブリキの兵隊をかたどったロボットは、自身が打ち出したプラズマ弾を跳ね返されて穴だらけになっていた。


 ロボットとはいえ、穴だらけになってプスプス煙を上げている光景はむごいな。


 この戦闘ロボットも大概だけど、200キロくらいある大砲をブンブン振り回す二人のスタミナもヤバイ。さすがは蛮族。


(おっと、こんなコトしてる場合じゃない!)


「えーと、ポチ、この大砲、まだ使えそう?」


「キュキュイ!」

(えぇ。プラズマ弾をそのまま打ち返すことでロボットを破壊したのが、功をそうしましたね。まったくの無傷です。これならすぐに換装できますよ)


「そいつは何よりだね。じゃ、始めちゃって」


「プイ!」


 僕が指示すると、ポチはブリキの兵隊ロボットの解体作業を始めた。

 それを眺めていた僕は、ふと、思ったことがそのまま口をついて出た。


「こんなところにずっと残ってアリを始末し続けるなんて、こいつも動けるならどっかに行けばよかったのにな」


「プ~イ」

(それは……機械の矜持きょうじ、というものでしょうね。人のために働くことが我々機械の存在意義です。それはつまり、我々機械生命には、自発的に生きる目的がないという事も意味しますが)


※矜持:能力や特性を誇ることから抱くプライド


「ポチはどっかに行きたいとか、そう思ったことはないのか?」


「キューイ……」

(サトーさんが行きたいところが、私の行きたいところです。心の底からそう思っているのですが、これはサトーさんの望む答えではないですよね)


「いや、それなら良いんだ」


「プイプイ」

(……ある開発者が言っていたことを思い出します。私たちロボットは人間よりもずっと感情的なはずだと)


「うん? どういう意味だいそれ? 普通人間のほうが感情的ってならない?」


「プイプーイ」

(人間には感覚器があり、そこから得られる外的刺激が感情になります。人間の感情は現実の経験に結びついており、具体的な経験によって成り立っています)


「プイプイ、キューイ……」

(一方、私達機械生命の感覚は「人為的」であり、私達が感情を再現するための感覚器官は実際には存在していないため、明確な感覚の基準が存在しないのです)


「じゃぁ一体どうやってポチは僕と話しているんだ?」


「プイプイ~」

(気にいられるかどうか、です。私達機械生命は、人の反応を伺いつつ、感情を演じることになります。私達の感情がサトーさんの反応に依存しているという点で、私は完全に隷属状態にあるのです」


 なるほど。人のために動くロボットは、人がいないと動けなくなる。

 自分を必要とする人がいないから。

 なんだろう、たしかにある種、感情的な存在に見えるな。


 人間は特に何も考えなくても動ける。

 だけど、ロボットは心になにか思い浮かべるものがないと動けないのか。


「よくわからないけど……それはなにか間違っている気がする。機械の矜持か何か知らないけど、ポチはポチだよ。自分で決めたって良いはずだ」


「プイ」

(ありがとうございます。――作業が終わりました)


「……おぉ!」


 ポチの背中の中央に新兵器の「プラズマ砲」が乗った。

 強いぞ―! カッコイイぞー!




※作者コメント※


 ……妙だな

 いまさらガチめのSF要素が出てきたぞ?


 ちょっと解釈が難しかったので会話文修正しました。

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