チキンレース
「ギリーさん、前方に宙族です!」
「わかった、銃座につくよ!」
砂煙の下にいたのは、装甲化された3台の自動車だ。ブーブーボゥイのコロニーを襲った宙族の車に似ているが、少し違う部分もある。
遠出するためか、赤色のドラム缶を車体の外にむき出しで固定していて、天井には荷物を載せる大型のラックがあるのだ。
遠征用にカスタマイズされている……ということは、工場地帯を目指していると思って間違いなさそうだ。
砂煙を上げて、僕らの前を横切る3台の自動車は、矢じりのように一台が先行し、あとの2台が後に続くという戦闘陣形を取っている。
幸いなことに、宙族がこちらに気づいている様子はまだ無い。
先制攻撃をかけるなら今のうちだ。僕は重機関銃の狙いを砂煙のもとへ向けた。
(――ダメだ……榴弾砲が邪魔になって、射撃の視界が悪い。)
ここは一度、榴弾砲を切り離したほうが良さそうだ。
もし、戦闘の余波で破損したら、プランBどころじゃなくなるし。
「ポチ、榴弾砲を切り離して『アレ』を展開しておいてくれ」
「キュイ!」
<ガキンッ!>
ポチは加速を止め、重さに任せて停止すると、トレーラーごと前のめりになって榴弾砲を外すと、次に『アレ』を展開した。
<ブンッ……!>
白く光る泡が榴弾砲を包み込んだ。
これは宙族から奪った『キネティック・シールド』だ。
本来、シールドは人間大のサイズだが、ポチによってニコイチ、サンコイチ修理され、大幅に保護範囲を強化されている。
ちょっとくらい流れ弾が飛んできても大丈夫だろう。
「トレーラーにも使えればよかったんだけどね」
「プイ!」
「まぁうん。そんなにうまい話はないよね」
さて、この光の泡をトレーラーに展開できなくもないのだが、それをすると、今度はこちらから銃撃できなくなってしまう。
それはこのシールドが空中を飛ぶものを全て跳ね返すからだ。
例えそれが、内側から味方の放ったモノでも。
そんなわけで、一見便利そうなこのシールドだが、使い勝手はすこぶる悪い。
次世代型のシールドは異方性を持ち、シールドの内側から射撃できるようになっているが、旧型のキネティック・シールドはそれが出来ない。
そのため、新型が導入された後、これら旧型のシールドはゴミとして各地に大量投棄された。そのおかげで、今僕たちが使えているというわけだ。
全く、税金の無駄使いバンザイだね。
「ポチ、宙族たちには砂煙の方向、背後から仕掛けよう」
「キュイ!」
6つのタイヤで砂地を激しく切りつけて前進を始めたポチは、僕らが乗ったトレーラーの尻を振りながら爆走する。
なるほど。ポチは風下から宙族の後へ回り込むつもりか。
「賢いぞポチ!」
「プイ!」
「サトー、いつ撃ち始める!?」
僕の足元、前方銃についていたギリーさんが、指示を求めてがなり立てた。
サバンナを爆走しているトレーラーハウスの中は、巻き上げられた小石が外板にぶつかったり、家具が踊り狂う音で目茶苦茶騒々しい。だから、大声を挙げないと、まるで意思の疎通が出来ないのだ。
「距離200メートルから撃ち始めてください!!」
「わかったよ! どっちを撃つ!!?」
「右をやります! そっちは左を!」
「わかった!」
宙族たちはまだ僕らの存在に気づいていない。
このまま後から蜂の巣にしてやる!
僕は右を狙い、ギリーさんは左を狙う。
照準器の上の自動車の大きさが、ちょうど親指の爪くらいになった時、僕は重機関銃のトリガーを、親指で押し込んだ。
<ドンドンドン!!>
少し間延びした重低音が連続する。空気と腕から伝わる振動は、僕の体だけではなく、内臓まで揺らしている気がした。
重機関銃から発射された弾丸はオレンジ色の光を発し、光で糸を引く用に飛んでいった。この光は
この重機関銃には、僕の人差し指とちょうど同じくらいの大きさの弾丸が装填されている。僕の目でも追えるのは、この弾丸の大きさが関係しているのだろう。
すこし山なりに飛んでいった弾丸が装甲車に届くと、リアドアに黒い穴をいくつも作って、最後には引っ
すると、奇襲を受けた車はハチャメチャにハンドルを切って、蛇行を始める。
どうやらすっかりパニックに陥っているようだ。
そしてギリーさんの射撃を受けた左の車は、もっと悲惨なことになっていた。
むき出しで外に配置されていたドラム缶、それに曳光弾の火が付いて、激しく燃え上がり、地面を走る火の玉になったのだ。
激しい炎が運転席まで届いたかと思うと、車はコントロールを失って列を離れ、横倒しになって爆散した。あの様子では、乗っていた宙族は全滅だろう。
無事なのは中央の一両だけ、しかしそれもほんの僅かな間のことだった。
ポチがスラグキャノンを発砲し、プラズマ化した青白い弾体が自動車の下部を貫いた。彼は自動車の急所、ドライブシャフトを狙ったようだ。
ドライブシャフトは自動車の「背骨」に当たるパーツだ。
それが折れて垂れ下がり、地面に突き刺さると? 時速100キロ近いスピードをタイヤに与えていたパワーの全てが、一瞬で車本体に伝わる。
するとどうなるか?
車体が「
自動車から飛行機にクラスチェンジしたそれは、冗談みたいな高さまで上がるとそのまま真っ逆さまに地面に落ち、ぺしゃんこになって地面に張り付いた。
「わーぉ。こりゃひどい」
「キューイ……」
あれでは全滅だろうな。
リアドアを引っ剥がされ、フラフラと蛇行している最後の一台は、同僚たちの最後を見てやる気を失ったのだろう。白旗を振って、車を停止した。
(よし、ここまで何をしに来たのか、インタビューと行くか)
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