工場地帯再び
「荷物はコレで全部ですね」
「せっかく色々作ったのに、ニートピアは空っぽになっちまうね」
ギリーさんが言う通り、ニートピアにはもう何も残っていない。
建物だけ残して、中にあった発電機、冷蔵庫、食料や持てるだけの武器やスクラップをトレーラーハウスに積み込んだのだ。
「仕方ないですよ。勝手に始まった戦争に巻き込まれちゃたまりませんから」
「ま、そりゃそうだ」
「これもぜんぶ持ってくのか―?」
「うーん……食料加工機は置いていって良いかな。」
ニートピアに最初からあった食料加工機や家具はそのまま残し、後から僕たちが持ち込んだり、作ったものはベッドを除いて全て持っていく。
そうだ、スクラップの中にあった「久美子」の
ポチの忠誠に対する義理立てじゃないが、彼女(?)を持ち帰って蘇生させれば、保険会社や本人から法律に基づいた支払いを受けれるはずだ。
せっかく宇宙船で銀河の中央に戻っても、そこで無一文じゃ困るからね。
このビブリオは、文明世界に帰ったときの、僕の命綱でもある。
忘れずに持ち帰ろう。
「よし、行きますか」
「だけどサトー、本当に墜落者ギルドと合流しなくて良いのかい?」
「はい。墜落者ギルドの指揮で戦うのは不安がありますので」
「以前の戦いを見てるから、それはわかるけどね。脱走兵扱いされないかねぇ?」
「軍隊というほどの規律があれば、そうなるでしょうね」
「……なるほどね」
実際のところ、宙族の方がまだ規律はちゃんとしていると思う。
戦闘の指揮ができているからね。
だが、一方の墜落者ギルドは、文明の名残と言ったような、下手な平等主義が蔓延している。上下の区別がふんわりとしているギルドは、戦争できない。
戦争とは上下関係にクッソ厳しい、体育会系の社会のぶつかり合いなのだ。
ホイップクリームよりふわふわした甘ったれた社会がこういった「戦争」に参加すればどうなるか?
それはシ◯バニアファミリーとシチリアマフィアが戦うようなものだ。
一方的な虐殺になることは間違いない。
ゲスにはゲスを。理不尽には理不尽を返す覚悟が必要なのだ。
世界にもともと、悪という概念はない。
そう、悪と正義は、生き残った者が決めるのだ! ヌハハ!
「――それで、これからどうするんだい?」
「まずは北へ。」
「きたー?」
「北って、何がありますの」
「ははぁ、あの工場地帯とやらにまた行くんだね?」
「宙族の防備が整う前に、痛烈な一撃を加えなくてはいけません。宙族に比べると、墜落者ギルドの戦力は小さいですからね」
「バカ正直に宣戦布告しちまったからね。」
「ええ、連中もバカじゃない。列車の突撃に備えて、壁やバリケードを作る対策を始めていても、なにもおかしいことはないです」
「手詰まりじゃないか」
「なので、その時は『アレ』の出番がきます」
僕が指さしたのは、長い砲身を天に向け、空を睨んでいる榴弾砲だ。
アレを工場地帯に放置されている列車に乗せ『列車砲』とすれば、足らない射程と移動速度を補える。
化学弾頭を満載した列車を突撃させる計画がプランAとすれば、こちらはプランBだ。
「なるほど、あの大砲をブチかますのか。楽しみだね」
「どかーんってするやつだな!」
「ポチには苦労をかけますけどね……」
「プイ!」
大砲を前に、トレーラーを後にして、ポチはサバンナを疾走する。
地面を掴んで回転する6つの車輪はモウモウと砂煙を立て、短くない時間を過ごしたニートピアを、僕らの視界から覆い隠した。
きっと、あのコロニーともお別れだな。
僕はちょっとしんみりしながら、今後の世界情勢について、思いを馳せる。
(…………。)
墜落者ギルドと宙族が戦うのは、彼らの勝手だ。
しかし、ここで宙族が一方的に勝利してしまうと少し困る。
宙族が完全勝利した場合、宙族と対抗できる勢力は、この惑星ナーロウに存在しなくなってしまう。当然、惑星は完全な無法状態に陥ってしまうだろう。
そうなってしまえば、ニートピアから逃げた僕らの生存が脅かされる。
なので、最終的に勝利するのは、墜落者ギルドでなければならない。
墜落者ギルドがつかめる勝利条件は、おそらくひとつだけ。
それは、宙族の拠点、この星の中心部の完全な破壊だ。
彼らが今まで生きていられたのは、文明の残りカスの上でふんぞり返って、時たま空から落ちてくるゴミで食いつないだからだ。
宙族は文明の品を利用しているだけで、イチから作ったわけじゃない。
それを失ったら、二度と立ち上がれなくなるだろう。
この混乱を利用して、僕らの取り分をいただく。
これがニートピアとしてのプランだ。
(お、もう見えてきたな……)
早朝からポチが全速力で走り続け、空の最も高い位置に太陽が上がった頃。
地平線の底に、工場地帯の煙突が見えてきた。
さすがはポチだ。一日もせずに、もう目的の場所に着いた。
「そろそろ汚染地帯に入ります。防護服を着込んでください」
「おー!」
「またこのゴワゴワを着るんですのね……」
「そういいなさんな。今回は屋根付きだから楽できるよ」
トレーラーハウスの中で防護服に着替えた僕は、外を監視するため、屋根から身を乗り出して機銃座についた。
大口径の機関銃の蓋を開け、弾丸のベルトを差し込んで、また蓋を閉めて横にある丸いレバーを引くと、ガチャコンという作動音がして弾が送られる。
(ん……?)
トレーラーの天井から外を見渡すと、むかって左側に移動する砂煙が見えた。
サバンナの大地を疾走する、何かがいるのだ。
「ポチ、10時の方向を確認して、視覚情報をこっちに送ってくれ!」
「プイ!」
MRを通して空中に表示される、ポチの視界。
そこに写し出されたのは――
「宙族だ!! 連中、もう動き始めたのか……!」
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