準備万端

「何だい、今の音は?」

「画面には襲撃……と書かれてますね。」


 この「襲撃」という文字の表示は、無線機の周波数チャンネルの名称のようだ。 

 これはきっと、墜落者ギルドが設定したものだろう。とういうことは――


「襲撃の情報を知らせるチャンネルからの通信が、無線機に入ったみたいです」

「なんて言ってるんだい?」

「ちょっと聞いてみましょう」


 僕はボタンを押し、周波数を合わせて通信を開始した。

 むむ……無線通信の状態が悪いな。


<ザ……ザザ……ら・だ……>


「通信状況が悪くて聞き取れないな。もっと感度を……そうだ、ポチ!」

「キュイ!」


 ポチが無線機のアンテナを握り、腕を空に向かって伸ばす。

 すると、無線機から聞こえる音声がずっとクリアになった


<こちら・墜落者ギル・だ……ニ・トピアそちらに――>

<宙族・攻撃部隊が向か・ている>


 無線機から途切れ途切れの声が聞こえてきた。無線で繰り返されている内容は、ニートピアに宙族の攻撃部隊が向かっているというものだった。


「ゲッ! うちに宙族の襲撃が来てるみたいですね」

「全く忙しいね……ハクとクロに知らせて、迎え撃つよ」


「そうだ。クロに上空から偵察してもらいましょう。敵の攻めてくる方向がわかれば、バリケードやタレットを有効的に使えます」


「なるほど。そいつは良い考えだね。」

「二人にニートピアのまわりを飛んでもらって、敵を探ってもらおうか」


「はい! さっそくタレットが役に立ちそうですね」



 作物の収穫を終え、母屋の日陰で昼寝していた二人をギリーさんが起こし、空に向かわせた。白と黒がニートピアの空で螺旋を描き、北の方で旋回する。


 どうやら宙族たちは北の方から攻撃を仕掛けてくるつもりのようだ。


 割とバカ正直に、宙族の拠点の方角から来たな……。


 作戦とか……お立てになってない?


 あれか。大声を上げて突っ込めば勝てると思ってるタイプの指揮官か?

 それはそれで、こっちが助かるんだけど。

 

 攻めてくる方向がわかれば、やることはシンプルだ。

 今のうちに防御施設を作ろう。


「ポチ、ニートピアの北に防衛ラインを敷くよ!」

「プイ!」


 僕はポチの背中に資材を乗せ、ニートピアの北側、畑に面した方へ向かった。


 さて、ここで再度うちの事を確認しよう。

 僕らのコロニー、ニートピアはそんな複雑な構造をしていない。


 まず、ニートピアの中央には井戸があり、その井戸を挟み込むように、左右に建物がある。つまり、西にあるのが元倉庫で、現宿舎となっている建物。そして、東にあるのが母屋で、僕が住んでいて、作業場や貴重品の倉庫となっている建物だ。


 ニートピアの目立った建物は、現状、この2つしか無い。


 井戸の近くにはコンロと輪状の広場があり、北側に榴弾砲が鎮座している。砲口が向いている方向はぴったり北で、その先にはハクとクロが耕した畑がある。


 うーん、バリケードを作るなら、畑の先だな。


 畑の土を、戦いで踏み荒らしたくないし、爆弾や手榴弾の流れ弾でも落ちてきて、畑の作物が吹き飛んでしまったら最悪だ。


 本当なら建物の間にバリケードを作って、側面を守るのが戦術的には正しいんだろうけど、建物を壊されるとすべてを失うからな。


 ここは建物は利用せず、野戦築城といこう。


「ポチ、バリケードを畑の先に作ろう。戦いの余波がニートピアに及ばないよう、しっかりと離すんだ」


「プイ!」


 ポチも僕の意見には賛成らしい。


 ポチはスクラップの山を地面につくると、バチバチと火花を立てる。

 火花が収まると、そこには銃眼つきの鉄製バリケードが出来上がっていた。


「これなら銃撃から身を守りつつ、有効に戦えるね」

「キューイ!」

「ん、まだ終わりじゃないって?」


「プイ!」


 ポチは板状のスクラップを手に取ると、地面に突き立てて掘り起こす。


「穴、そうか……塹壕ざんごうだね?」

「キュイ!」


<ザックザック!>


 塹壕とは、戦場で弾雨から身を守るために使う「穴」だ。

 たしかに、いま出来る範囲では、一番手っ取り早い防御設備だね。


「プ~イプイ!」

「入ってみろって? わかった」


 ポチが作った穴に入ってみた。

 わ、胸くらいまであって、結構深いな。


 塹壕の深さは、自然にしていると肩、両手が外に出せるぐらいの高さだ。

 これなら楽に銃を構えられるな。


 ただまぁ、完全に身を隠そうとすると、ビミョーにヒザに来る態勢で屈まないといけない。こりゃちょっと厳しい。本職の兵隊さんは大変だな。


「ん~?」


 僕はふと、塹壕の違和感に気づいた。塹壕の地面は、背中側に向かって落ちていくスロープがあって、それのせいで歩きづらいのだ。

 はて、ポチが作業をミスるとは思えないが……?


「塹壕の底が傾いてるけど、これってワザと?」

「プイ!」

「設計図のままやってみた? うーん。設計図通りなら、このままで良いか」

「キュ~イ」


 塹壕にバリケードを引き寄せて、何時も使っている機関銃を構えてみる。

 うん、いい具合だ。


 最後にポチは、ジグザグに掘られた塹壕の中央部分に、浅い穴をほった。

 これは「タレット」を置くための場所だ。


 穴の深さはちょうど三脚部分が隠れるくらいだろうか。地面ギリギリに鉄砲の部分が顔を出しているが、銃眼付きのバリケードが保護されている。


 これと撃ち合って破壊するのは、至難のわざだろう。

 準備はこんなものかな。――おや?


 僕とギリーさんが使う穴を掘ったポチは、今度は自分用の穴を掘り始めた。

 ポチの体大きいからなぁ……間に合うかな?


「お、塹壕を掘ったんだね」

「はい、ポチがやってくれました」

「相変わらず、すごい早業だね……」


<ペポッ>


 僕の持っている無線機がなんとも気の抜けた音を出した。

 周波数を合わせると、宙族に動きがあったことを無線は伝えている。

 ――来るか。

 

「ギリーさん、始まりますよ」

「腹いっぱい弾を食らわして、満足しておかえり頂こうかね」

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