移動拠点

「バンさん、スクラップを集めていただいた場所を借りて、このままここで作業しても良いですか? そんなに時間は取らないと思うので」

「ウム、かまわないゾ」

「よし、早速取り掛かろうかポチ」

「キュイ!」


 ブーブーボゥイに医薬品を届けた僕は、手すきのオークたちが集めてくれたスクラップを前に、その場で作業に取り掛かることにした。


 戦いの後始末で大変だろうに、気を利かせてここまでしてくれるなんて……。

 ほんと惑星ナーロウのオークたちは聖人だなぁ。


 ぶっちゃけ、文明世界の人間よりも人間的なのでは。

 宙族のほうが、バンバン蛮族♫ してるもんなー。


「ポチ、トレーラーハウスは設計図通り作れそうかい?」

「プ~イ?」


「うん、多少のアレンジはかまわないよ。ここにある部品は、どれもバラバラになった車から集めたものだし……正規の部品があるわけじゃないからね」


「プイ!」


 ポチはバラバラになった宙族の車両の残骸を戦車の前面に着いたマニュピレーターで持ちあげると、バチバチ火花を散らしてつなぎ合わせていく。


 おお……さすがの新装備だ。グシャグシャになった鉄板を引きのばして、新品の板にしていく。いや、スゴすぎない?


 ポチは黙々と作業を続けていき、作業場所にはいくつものパーツが並んでいった。小さいものでは水用のタンクやシート。大きいものではトレーラーの背骨となるシャーシからフレームやドアまで。


 自動車整備の知識はさっぱりだが、みているだけでも何となく、何に使うものかわかるのが楽しい。


 これとこれが組み合わさるのかな~って考えると、ちょっとワクワクする。

 まるで、1/1スケールのプラモデルを作ってるみたいだ。


「プイ!」

「お、パーツを作るのが終わったから、これから組み立て?」

「キュ~イ!」


「何か手伝えるかい?」

「プイ!」

「オッケー、わかった」


 今回の僕は、ポチのアシスタントだ。


 シャーシを保持するためのブロックを地面に重ねると、ポチはその灰色のコンクリート塊の上に、黒鉄のシャーシをひっくり返した状態でそっと乗せた。


 そして車軸、サスペンションといったパーツを固定していき、タイヤをはめる。

 おお、何かそれっぽくなってきたぞ!


「いいね~! こうして組み上がっていくのを見るのは楽しいな!」

「キューイ♪」


 シャーシの上に鉄板で床が作られ、次第に内装が組み上がっていく。

 さぁ、ドンドンいこう!



「これで完成かい?」

「プイ!」


「そっかぁ……これで完成、かぁ……」


 ポチの作業が終わり、僕の前には念願の移動拠点「トレーラーハウス」がある。

 しかし……。


「設計図からアレンジして良いとは言ったよ? うん。」

「プーイ?」

「でもまさか、こうなるとはなぁ……」


 完成したトレーラーハウスは、ポチのアレンジがバチバチに効いていた。

 

 まずは足回りだ。


 設計では4つだったタイヤは6つに増強され、それぞれのタイヤは地形に応じて異なる動きをするようになっている。これにより不整地に置ける安定性と快適性が格段に上がっている。


 そしてタイヤから視線を上に上げると、トレーラーの側面に装備された、分厚い装甲板が目に入る。


 そして、防御面も格段に改善されていた。

 あきらかに僕の設計にはなかったものが追加されている。


 ポチはトレーラーの側面に20ミリの装甲板を追加して、その上に窓に降ろすブラインドのオバケのような、金属製のカーテンを溶接していた。


 ポチによると、これはスラットアーマーと呼び、ロケットランチャーで撃たれた時、信管をショートさせる仕組みらしい。


 いや、なんでそんなモンの作り方知ってるのさ!?


 改造されている部分はまだまだある。

 宙族が車体にマウントしていた機関銃を流用して、それをトレーラの各所に置いて、中から撃てるようにしているのだ。


 前に一丁、後ろに一丁、そして対空用なのか、天井には2丁の機関銃を水平に並べてひとつにした機関銃座が設けられていた。


 うん。うん……?


 4台分のパーツを豪勢につかったから、ちょっとしたトラックみたいになるかもな―とは思ったけど、こうはならんやろ!!!


「移動拠点にしては中々物騒な作りだなぁ……でも惑星ナーロウなら、コレくらいの武装は必要……かぁ~?」


「ブ……プイ!」

「いやいや、そうじゃなくって、ちょっと驚いただけだけど……」


 実際ここまで重武装に仕上げるとは思わなかった。

 戦車とまでは言わないが、装甲車くらいはあるよなぁコレ。


「このトレーラー、結構な重装甲だけどポチに引っ張れるのかい?」

「プイ!」


 ポチは多脚戦車のお尻にトレーラーの接続部分をつなげると、ブーブーボゥイの拠点の中で引いて見せる。特に重量の問題は無さそうだ。


「さすがの馬力だね」

「キューイ♪」


 トレーラーハウスを手に入れたことは大きい。

 これで僕たちは、サバンナで長期にわたって活動することが可能になった。


 のちのち、墜落者ギルドと宙族との戦いが始まってときのことを考えると、このトレーラーの価値は非常に高い。


 ギルドの敗色が濃厚になり、ニートピアが脱出する必要にさらされたとしても、荒野に逃げ出して態勢を整えることが出来る。


 もしこちらが優勢になった場合も、遠征のときに使えるからな。


「サトー、お前ハそれを作りたかったのカ?」

「あ、バンさん! もうよかったんですか?」


「ウム。お前が持ってきた医薬品のおかげデ、治療も一段落付いタ。これは……車で引っ張る家カ?」


「はい。トレーラーハウスを作って、移動拠点にしたかったんです」

「……宙族と戦ウつもりなのカ?」


 おっと。


 ここでうちは関係ないでーすwwww

 なんて言おうものなら、クビをねじ切ってオモチャにされそうだな。


 そうだな……。


「今はまだその時じゃないですが、いずれは、と」


 THE先送りだ。

 結論を引き伸ばし、高度な柔軟性を保ちつつ、臨機応変に対応するぜ!


「そうか、ならこれを持っていってくレ」

「これは……?」


「ブーブーボゥイの武器庫のカギ、ダ。」


「武器庫のカギ、ですか?」



「ウム。あいつラが欲しがっていたものがそこにあル。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る