サトーの交渉術
「これはまた……手ひどくやられたなぁ」
戦いが一段落ついたので、僕はポチをブーブーボゥイの拠点の入り口につけた。ここから見える景色だけでも、コロニーが壊滅的な打撃を受けたのがわかる。
壁の一角は吹き飛び、その余波を受けてプールサイドの監視台を大きくしたような建物がひしゃげて傾いていた。
この様子からして、爆発はあそこで起きたんだろう。
監視台近くの地面は、黒く焼け焦げた土が放射状に広がっている。爆発の痕は、トゲトゲのウニを地面に押し付け、ぺしゃんこにしたみたいだった。
「サトー! 助けに来てくれたのカ!」
僕の姿を見つけたバンさんが駆け寄ってきた。彼の包帯を巻いた頭からは赤い血を滲み出していて痛々しい。
「負傷者はいませんか!」
「いル。爆発で、10人ばかし大怪我しタ。医薬品があれば助かるんだガ」
「でしたら、持ってきたこれを使ってください」
僕はポチの背中のハッチを拳で叩いて開くと、その中から医薬品のつまったケースを取り出す。こんな事もあろうかと、ニートピアの医薬品在庫の一部を持ってきていたのだ。
「どうぞ」
「――ありがとウ、助かるゾ!」
ポチの上に居た僕は、下にいるバンさん医薬品を投げ渡す。草のヒモでまとめられた箱の束をキャッチした彼はコクリとうなずくと、そのまま負傷者が詰め込まれているであろう建物に向かって走っていった。
「あの医薬品で、少しでも救える命があると良いけど……」
負傷者の救護という人道的理由はもちろんだが、理由は別にある。
薬を売るには実績があるのが望ましい。僕はこの実績が欲しいのだ。
スペックの上でいくら優れていても、ニートピアで作られた医薬品が一度も使用された事がないと、販売するのは難しい。
キャラバンに売る時、「いやー実は使ったこと無いんですけど、たぶん効くと思いますよ」では困るのだ。
だが、僕の提供した医薬品が、この戦いで発生した10名の負傷者を全て救ったとなれば、医薬品のセールス文句としては申し分ない。
使用実績が欲しかったところで、この大量の負傷者!
まさに天の助けだ。
オークさんは見た目頑丈そうだし、医薬品があれば大丈夫だろう。救命率が高ければ、自信を持ってキャラバンに売れる。
そうなれば、ニートピアの価値はうなぎのぼり。
宙族との戦いでは後方地として扱われ、ニートピアの安全は墜落者ギルドによって確保されるというわけだ。
フフフ……ハーッハッッハ!
カンペキなプランだ!
おっと、こうしちゃ居られない!
一応、野戦病院の様子を見ておこう。医薬品が不足しているなら、ニートピアまで取りに戻ることも考えないとだからな。
「バンさん、医薬品は足りてますか……うっ!」
ブーブーボゥイの野戦病院の中は、負傷者の血で汚れ放題になっていた。
まるでお化け屋敷みたいになってるじゃないか。
負傷者が床で痛みを訴えてうめき、指の無い手で空中を掻いている光景は、実際ホラー映画めいている。気の小さい人だったら気絶してるぞ。
「サトー、良いところに来タ、こっちを手伝ってくレ」
「あっはい!」
「うぅゥ~!!」
「腕を抑えるんダ!」
「は、はい!」
僕は治療を受ける負傷者を抑えるのを手伝った。
といっても、僕の力で助けになってるのだろうかこれは。
見知らぬオークの腕を抑える僕の手が赤い血で染まる。
何か不思議だな。
オークの肌って緑色なのに、血は赤なのか……。
「鎮痛剤はこれが最後ダ。」
医薬品の中から注射器を取り出したバンさんは、患者の腕にぶっとい針をためらいなくブスっと突き刺した。
この注射器には、鎮痛剤と止血剤を混合した薬液が充填されている。あとは包帯で傷を縛っておけば良いだろう。
「薬が不足しているようですね」
「ウム……せっかくもらった医薬品も、全部使ってしまっタ」
まぁ、それは見ればわかる。バンさんは僕が持ってきた医薬品を重症者に優先して使い、軽傷者には薬も何も使わず。間に合せの治療ですませていた。
あれは後々、感染症とかになりそうだぞ。
オークたちの弱みにつけ込むようでアレだが……交渉してみるか。
「バンさん、ニートピアに戻れば、まだ少し医薬品の在庫がありますが、提供にはひとつ、条件があります」
「……それはもちろんダ。さっきの分も含め、タダでもらおうとは思っていなイ」
「――宙族たちの車両の残骸を引き取りたいです。確か、宙族が使っていた自動車は、全部で4両ありましたよね」
「あの車両の残骸……そんな物で良いのカ?」
「えぇ、それで十分です。」
車両のスクラップと引き換えに、医薬品を引き渡すことを僕は提案した。
このチャンスを逃したら、今度はいつ、新鮮な自動車のスクラップが手に入るかわからない。トレーラーハウスを作るために、多少強引でも回収したかった。
もっとも、宙族を倒したのは僕たちだ。荒野の掟よろしく、そのまま持って帰っても良いのだろうが……ここはブーブーボゥイの縄張りだ。
何も言わずに持って帰ると、バンさんのメンツが潰れる恐れがある。
なので一応、仁義は通しておこうと思ったのだ。
僕が要求を伝えると、バンさんは深く息を吐いた。
「わかった、スクラップは全部持っていってくレ。……ありがとウ。」
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