上にご注意ください

「命中! ポチ、次弾装填!」

「プイ!」


 本当にギリギリだったな。

 ポチを走らせていたら、いきなり小さなキノコ雲が上がるんだもの。


 あわてて最大射程ギリギリでスラグキャノンをぶっ放したが、うまいこと宙族の車のひとつにぶち当たって、くるっとひっくり返して炎上させた。


 相手が停車していて良かった。もし走り回っていたら、ポチの照準でも当たらなかっただろう。


 宙族たちは僕の奇襲を受けてアワアワと動きだし始めた。

 しかし、車両の速度は不十分。今がチャンスだ。


「もういっちょだ!」

「プイ!」


<パウンッ!!!>


 サーマルガン独特の、短く乾いた銃声が僕の鼓膜を震わせ、赤紫に発光するプラズマ化した弾体が、残像を残しながら飛んでいった。


<ズオンッ!>


「よし、ふたつ目!!」


 発射体は自動車の後部に命中し、前のめりにひっくり返す。車両は中の荷物と人間を振り撒きながら地面に激突すると、安物のお菓子の紙の箱みたいに車体がクシャっと裂けて、中身をぶちまけた。


 ポチにやらせておいて何だけど、なんちゅう恐ろしい結果だ。


 キャノンが想定しているのはパワーアーマーのような先進的な複合装甲を持った相手だ。ただの自動車がコレで撃たれると、ああなってしまうのか。

 これで撃たれたくはないな。


<バリバリバリ!><タタタタン!!>


 残った2台は左右に別れると、自動車の天井に乗っけた機関銃で射撃してくる。

 ほどんどの銃弾は地面を掘り返していたが、何発かは危険な風切り音を残して、僕の頭上を掠めていった。


(うぉぉぉ!!! 怖いッ!!!)


 ポチは両腕を腕を上げると、ボクサーが顔面をガードするような構えをとった。装甲のある腕で僕を守ろうとしているのだ。


<パパパパパン!!!>


 こちらに向かって走る車から銃撃が飛んでくる。だが、飛んできた銃弾は、ポップコーンが弾けるみたいな軽い音を立てるばかりだ。


 ポチの腕は、元は重装甲で知られるカスケットのモノだからな。

 機関銃の弾丸くらい、何とも無い。


 宙族の車両はこちらを取り囲むように、左右に分かれて迫ってきた。左と右に別れられては、スラグキャノンの射角が取れない。それなら――


「ポチ、右にまわったヤツにガトリングを食らわしてやれ!」

「キュイ!」


<ヴィィィィィンッ!!>


 僕の指図を受け、ポチの背中にマウントされたガトリングガンの銃身が、回って吠える。鋼鉄の嵐はいとも容易たやすく車の板バネを引き裂き、食いちぎっていった。


(――よし、これで3つ目!)


「あれが最後だ!」

「プイ!」


 僕は向かって左側を走る、最後の一両をポチに狙わせる。

 しかし、そいつは急ブレーキしてドリフトをかけると、キャノンをかわした!


(宙族のくせに、やるじゃない!)


「ポチ、装填!」

「キュイ! ……プイ~?」


 僕はキャノンの装填を指示する。


 が、最後の一台はこちらに攻撃するのを止め、ハンドルを切って爆走すると、そのままブーブーボゥイのコロニーを囲む壁を利用して隠れた。


(クソッ! あいつ、このまま逃げるつもりだな!)


 追いかけたいが、爆発の余波で黒煙が上がり続け、燃え上がっているコロニーをそのままにも出来ない。ここはそうだな……!


「ポチ! 空に向かってあれを頼む」

「キュイ!」


 ポチは後ろ足をしまって、前脚を伸ばすと、胴体ごとヘッドライトを空に向け、空に向かってライトを点滅させる。点滅する光の向こうにあったのは、空に浮かぶ白と黒のふたつのシルエットだ。


 対照的なふたつの影は、ポチの送り出した光の意図を汲んだようで、大きく羽ばたいたかと思うと、地上に向かって急降下していった。


「暴走族の退治はこれで完了、かな?」

「プイ!」


◆◆◆


「うまく逃げられたな!」

「クソが、横槍さえなけりゃ勝てたってのによ!」

「だな。マジ萎える」


 エンジンの排熱のせいで蒸し暑い車内を、生き延びたという興奮と怒りがさらに暑くする。勝ったにせよ負けたにせよ、戦いの後の宙族は、いつもこうだった。


「あんなのが相手じゃしかたねーよ。3台もやられちまった」


「オークがキャノンを持ってるとか聞いてねぇからな……どっから来たんアレ」


「何だって良い。適当な集落を襲って土産を用意するぞ。ツレをぶっ殺された上、手ぶらで帰ったら仲間にナメられるからな」


「ちげぇねぇ。適当なエルフのキャンプでも焼くか」


「エルフの家は焼くもんだからな。よし、エンジンにもう一度活を入れてやれ」


「おい、また俺かよ? たまにはハチロクがやれよ」

「俺には運転とドリフトっていう大事な仕事があるんだ。ブイハチがやれよ」

「しゃーねーなぁ……」


 ブイハチと呼ばれた宙族は、とうの昔に失われたフロントガラス代わりの鉄板を跳ね上げると、腹這いになってボンネットの上を進む。


 また空気取り入れ口にアルコールを吹きかけるつもりなのだ。


 この作業は、巻き上げられた石やチリが当たって、不快な事この上ない。

 あんだかんだと押し付ける相棒に舌打ちして、ブイハチはスキットルを懐から取り出すが、中身が心もとない。


「おい、酒が足らない。お前のをよこせよ」

「クソッ! ほれ、もってけ……おい?」


 ボンネットの上で体をひねり、こちらに振り返っているブイハチ。だが、彼の目はこちらを見ていない。空を見ながら、あっけにとられたような様子だ。


(いったい何ごとだ?)


 ハチロクが異変に勘づいたその時、車の周りがワッと暗くなった。いや、何かの影が自分たちを覆ったのだ。激しい衝撃が続き、座席に押し付けられる。


 あまりの衝撃で、目も開けられない。

 ようやく振動が収まって前を見ると、車のフロントを通して見える前方の景色に大地がなかった。一面の真っ青だ。


 「なっ?!」


 ボンネットにいたはずのハチロクの姿がない。直後、車内から重力が消えた。

 そして宙族たちは鉄の箱の中でグシャグシャになるまでかき回された。


「「ウワァァァァ!!!!」」


 最期を迎える束の間、ようやく彼らは自分達がはるか上空に持ち上げられ、そして落とされたことを悟った。


 宙族たちの意識は、ぐんぐんと迫ってくる大地を見たのを最期に途切れた。


◆◆◆


「わー……すこしは使えるパーツが残っていると良いなぁ」

「キューイ」


 ハクとクロが自動車を掴んでもてあそび、地面に落っことしてバラバラにしたのを見た僕は、そんな事を思っていた。


 ま、バラす手間が省けた。そう思うことにするか。

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