宙賊VSオーク
◆◆◆
荒野を爆走する4台の車両。それに乗り込んでいる連中は、コンバットドラッグを使用しているのだろうか? 異常に興奮していて、完全にお祭り騒ぎだ。
「ヒャッハー!」
「兄弟! エンジンに気合を入れてやれ!」
「おう!」
「気合を入れてやれ」と、兄貴分に指示された宙賊は、爆走しているトラックのボンネットの上に腹這いになって乗ると、イモリのように鉄の板の上を這い進む。
そして懐からスキットルを取り出すと、中の火酒を口に含んで頬張った。
一体何をしようというのか? その疑問は次の瞬間に解ける。
彼はボンネットから突き出ているエアインテーク、つまりエンジンに空気を取り込んでいる部品に向かって、アルコールの霧を吹き込んだ!
<ブゥゥッ!!>
<ババンパパン!!!>
「ヒャッホーッ!!!」
エンジンに敏感な可燃物、アルコールを吹き込まれた車両は爆発的に加速する。
空気に可燃物を混ぜたことで、エンジン出力が瞬間的に増大したのだ。
「オークどもをひきずってオモチャにしてやるぜー!」
「「ヒャッハー!!!」」
殺人的速度で突き進む4台の武装車両。スピードと爆音に酔いしれるジャンキーたちを載せた車は、ついに目的の場所が目に入った。
家具の残骸、石や泥。スクラップを用いて強化された、人間の身長ほどの高さで柵で囲われたコロニー。
これはオークの1派閥、ブーブーボゥイの砦だ。
柵の周囲には簡素な見張り台が4方向を監視できるように設けられている。見張り台につき、周囲を見張っていたオークは砂煙で4台の車両に気づいており、すでに警報を発していた。
<ダーン! バン! バン!>
ライフルやピストルといった、複数の種類の銃器による散発的な銃声がサバンナに響く。
オークたち……彼らブーブーボゥイの使用している武器は、西部劇のようなラインナップをしていた。
引き金を守る金属パーツを下に引き出して次弾を装填するレバーアクションライフルに、過大な銃身を持つリボルバーといった、どれも古めかしい。
武器不足に悩む墜落者ギルドでも、近頃は使われなくなっている代物だ。
しかい、それはこの武器の能力が低いことを意味しない。
これらの銃器はオークの体格に合わせて、サイズが調整されたいる。その威力といったら、もはや大砲と言っても良いほどの凄まじいものだ。
<ドン! ダーン!>
車両の近くに着弾したライフルの弾は、車の屋根よりも高い土煙をあげる。
そしてまぐれ弾のひとつが車両に当たり、増加装甲として取り付けられていた鉄板のひとつをもぎ取った。
オークの使う銃器の威力は大砲並だが、精度と射撃速度に難があった。
威力の高い銃器は当然のことながら、反動がとても大きい。ガタガタと震えるので、デリケートなスコープを載せることができないのだ。
十数発の弾を撃ったところで固定が緩み、照準がおかしくなるなら良い方。下手をすればスコープが破損して、貴重なレンズを台無しにしてしまう。
せっかくの高い威力も、当たらなければ意味がない。
宙賊はブーブーボゥイのコロニーの周囲を走り回り、彼らをあざ笑った。
「ボヒョヒョヒョ! ヘタクソめ!!」
「メキョキョキョ! そんなんでやられるかよぉー!」
なんとも奇っ怪な声で、宙賊たちが大笑いする。
爆走する自動車に箱乗りしているため、口を開けると中に大量の空気が入ってくる。そのために、彼らはこんな笑い方になっているのだ。
奇妙な笑い声を撒き散らしている宙賊たちは、オークの銃撃はさほど脅威ではないと見てとり、ハンドルをガッと右に切り返してブレーキを踏むと、ドリフトの格好で「ある場所」に滑り込んだ。
その場所とは他でもない。見張り台の足元だ。この場所はオークの射手にとっては完全な死角となる。
壁と見張り台で囲まれたブーブーボゥイのコロニーは、一見すると難攻不落に見えるが、壁にぴったり肉薄されてしまうと、中からは視界が通らない。
ここがオークたちの砦の防衛上の急所、アキレス腱となっていた。
自動車をぴったりと壁に寄り添わせた宙賊たちは、この時のために用意していたものを使うことにした。
「ほい、ブイハチ!こいつを喰らわせてやれ!」
「よしきたハチロク!! 奴らきっとたまげてウンコ漏らすぞ」
「ハッハー! 見ものだなぁ!!」
ハチロクと呼ばれたガスマスクを被った宙賊は、布製のカンバスバックを取り出して相棒に投げ渡した。
バックの中身は、大量のダイナマイトとプラスチック爆弾。これは壁を吹き飛ばすための梱包爆薬だ。
ブイハチと呼ばれた宙賊は、くわえていたタバコをダイナマイトの導火線に押し付ける。すると導火線はバチバチ燃え上がって煙が上がった。
「オークさん、お荷物ですよ―ッ! ヒーハー!!」
ブイハチは着火した梱包爆薬をブン回すと、そのまま砦に投げ入れると、アクセルを車の床にくっつくほど踏み込んで、その場から逃げ出す。数秒の後、天を突くほど巨大な火球が姿を現した。
<ズゴオオオオオオオンッ!!!!!!>
大爆発は衝撃波で地面を叩きのめし、舞い上がった砂埃が朝霧がたちこめた様に周囲を真っ白にしていた。頭痛を伴う耳鳴りがおさまると、目に入るあたりのものは片っ端からなぎ倒されている。
先程まで宙賊を見下ろしていた見張り台も、その例外ではない。
見張りとその前にあった壁は、爆薬で完全に粉砕されていた。
「よし、野郎ども! 仕上げにかかるぞ」
「おう!」
宙賊たちは車両の天井に銃座に、箱型弾倉を取り付けた銃座を取り付けた。
ぶっ飛んだ壁の隙間から、コロニーの様子をうかがうと、オークたちが墓場を歩く亡霊のようにさまよい歩いているのが見えた。
爆発で叩きのめされ、呆然自失になっているのだろう。
こうなればもう勝ったも同然だ。
「行くぞ野郎ども!!」
「おい待てよ、後ろから何か来てるぞ。車みたいだ」
「ん~? 援軍なんか頼んでないぞ?」
「さては、横からアガリを
「ブイハチ、どこのチームかみてみろ」
「おう」
ブイハチは自分たちの背後に迫ってくる土煙を見た。
煙の根本には、何本もの足をはやした白い車両が見える。
「なんだ、ありゃぁ……?」
じっと目を凝らしていると、白い車からカッと閃光が走った。
次の瞬間、彼は地面にひっくり返って転がっている、仲間の車を見ていた。
◆◆◆
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