帰還


「何事もなく帰ってこれましたね」

「良いことじゃないか」


 工場地帯を探索した僕らは、その足で墜落者ギルドの本拠点「キャベツ集落」に寄って荷物を下ろし、ニートピアに戻った。


「大量のレーザー銃を見たランドさん、目を丸くしてましたね」

「痛快だったね、あんなモンを持ってくるとは思わなかったんだろうねぇ」


◆◆◆


 [――数時間前。キャベツ集落にて]



「……君は一体何を持ち帰ってきたんだ?」


 僕らの帰還をよほど待ち望んでいたのだろう。

 ランドさんは僕たちに歓喜の混じった視線をおくっていた。


 だが、僕らが荷下ろしを始め、光線銃の入った紙の箱を積み上げると、その瞳の色はさっと冷たいものに変わった。


 その理由はわかる。

 どう見てもガラクタにしか見えないからだろう。

 

「お望みのハイテク機器、レーザー銃です。」


「見ればわかる、だがこれは……オモチャではないか!」


「それは使えばわかります。ギリーさん」

「あいよ」

「何……?」


「あれがいいね」


 ギリーさんは光線銃を手に取ると、キャベツ集落の近くにあった、家くらいの高さの木に狙いを定め、引き金を引いた。


<ドキュゥゥゥンッ!!!>


 ピンク色のレーザーが空間を灼きながら進み、バシッと弾けるような音を立てて木を弾けさせた。レーザーの光熱を瞬時に受けたことで、樹木の中にあった水分が沸騰して爆発を起こしたんだろう


「な……ッ!」


 光線銃の凄まじい威力を見たランドさんは、絶句していた。


 オモチャにしか見えないこれが、まさかこんな力をふるうとは思っても見なかったんだろう。その気持ちはよく分かる。


 普通に考えて、こんなチープなデザインの光線銃のオモチャが、軍用レーザーと同じかそれ以上の出力で焼き払うとか、思わないだろう。


「これは全部で30丁あります。ただ、スコープといった光学照準器の類がついていないので、狙うことが出来る距離が短いです。」


「せいぜい200メートルくらいじゃないでしょうか。レーザーが届く最大射程はもっと長いと思いますが……その実験まではしていません」


「サトーくん、君はこれを私達に……?」


「はい。宙族との戦いに、どうぞ役立ててください。それとこれも――」


「これは……!!!」


「化学弾頭です。工場地帯で発見しました。持って帰ってきたのは一発ですが、これはサンプルとしてもってかえってきました」


「サンプル? まさか、もっとあるのか?」


「はい、それも無数に」


「なんということだ……」


「工場地帯には、まだ稼働する機関車があります。列車にこの化学弾頭を満載して、宙族の本拠点で起爆すれば……」


「それは連邦法に違反する! そもそも人道上、許されない行為だ!」


「向こうはそうは思わないでしょう。もし連中がこれを手に入れたら、ためらいなく使ってくるのは、前回の戦いを見れば明らかだと思いますが」


「む……私一人では結論を出せない。これは皆と意見を持ち寄って」


「その者たちははたして信用できるのでしょうか?」

「何だと?」


「墜落者ギルドの中には、宙族のスパイがいるかも知れません。この情報が漏れれば、向こうは先手を打ってくるか、もしくは先に手に入れようとするでしょう」


「スパイがいるとは信じたくないが……」


「前回の戦い、敵は迫撃砲をかなり正確に打ち込んできていましたからね。

――研究室以外に」


「ふむ……可能性はあるな」


「こちらは技術も人数も負けています。ならば多少の無茶は必要でしょう。宙族の拠点に列車を突入させ、大量の化学弾頭を起爆。これで大半を無力化出来ます」


「宙族が無力化できれば、あとの話は簡単だ。宇宙港にある宇宙船を我々で確保して、この星から脱出できる……か?」


「はい、その通りです。」


「これには入念な準備が必要だな。突入チームが使用するための防護服が必要だ。それに……墜落者ギルドにはすでに、この星で生まれた子どもたちもいる。彼らの安全も確保しなければ」


「それはそちらにお任せします」


「もしランドさんが宙族に最後の戦いを挑むつもりなら、できるだけ早くそれをした方が良いかと」


「うむ」


「どんなに守ったとしても、情報はいずれ漏れるし、宙族もバカじゃありません。勘の良いやつがいれば、防護服を集めだしたことに気づく奴だっているでしょう」


「そうだな。もしそうなれば、もう何度か攻めてくるだろうな」


「もし彼らがこの事に気づいたら、放っておくとは思えませんからね」


「よし、わかった。キミの無線機の周波数は?」


「あ、実は無線機、持ってないんです。予備があったらもらえませんか?」


「む……そうだったのか。わかった、これを持っていくといい」


「どうも」


「なにか動きがあったら連絡する。それまでは自由に行動していてくれ」


「了解です」


◆◆◆


「――事態が大きく動きましたからね~」

大戦おおいくさになるね」


「えぇ、墜落者ギルドの悲願。この星の脱出が叶うかどうかの戦いですから……宇宙船を巡った争いは激しいものになりそうですね」


「アンタはどうするんだい?」


「うーん、それなんですが……ひとまず準備ですかね?」

「準備?」


「えぇ、墜落者ギルドとも宙族とも違う……ニートピアとしての準備です」

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