惑星横断列車


「これが列車、ってやつかい?」

「えぇ、大量の荷物を運べる機械です」


「すっげーでかいヘビだな! でも動いてないぞ―」

「このヘビさん、お口はどこにあるんでしょう」

「あ、口がないから死んでるのかー?」


「電車はそういうんじゃないけど……まぁいいか」


 僕らは工場を後にして、鉄道の車両基地へと移動を始めた。


 道中、アリの残党と出会ったが、所詮は残党。

 ハクとクロが相手をしたら、あっという間に撃退できた。


 いくつもの工場の谷を抜けてたどり着いたのは、カマボコみたいな湾曲した屋根をした巨大な建物だ。ゲートをこじ開けて中に入ると、驚くほど天井が高くて、まるで室内とは思えない開放感があった。


「惑星横断列車、か。」

「サトー、なんだって?」

「そこの壁のポスターに、そう書いてあるんですよ」


 僕が指さした壁には、古びて退色したポスターが貼られていた。


 立体的な文字で「惑星横断列車でナーロッパを旅しよう!」と書かれたキャッチコピーが踊っていて、その下には赤色の機関車が客車を引っ張っている様子が描かれている。客車には家族連れだろうか? 子供を連れた男女が列車の進行方向を指さしている。


 子供は倉庫にあった光線銃らしきものを手に握りしめ、光線を発射している。

 放たれた光弾は、ポスター手前のゴブリンの頭を貫いている。

 脳みそとかはみ出ててすっごいグロいけど、広告として良いのかこれ?!


 ポスターに描かれた青い空にはドラゴンやグリフォンが飛び、列車の横には馬に乗った騎士がオークやゴブリン、巨人といった怪物たちと戦っていた。


 なるほど、テーマパークのコンセプトがなんとなく見えてきたぞ。


 ナーロッパ物語の世界に、お客さんたちはレーザー銃を持って殴り込みをかけ、俺TUEEEEEを楽しむ。きっとそんなところだろう。



 ポスターの貼られた壁を後にした僕たちは、基地の中心に着いた。


 内部には10台以上の貨車をつないだままの列車が、きっちりと鼻先を並べた状態で遺されている。全部で……6両か。格納庫にまだ予備があるかも知れないが、ここにあるのはこれで全てのようだな。


 機関車の上に、電線やトロリー、パンタグラフみたいな接続点はなかった。

 きっと燃料を燃やして走るタイプの機関車に違いない。


 MRで確認してみると、「D551形ディーゼル機関車」と表示された。


 細かいスペックなんかのデータを見てみると、僕は自分の目を疑った。

 データの設計年は1980年とある。3000年以上前の機関車か……。


 ここにある車両は、かなり昔の機械を再生産したようだな。


 車両のデザインを見ると、犬の鼻のように長い機関室が前に突き出ている。

 僕は車両の一つによじ登って上から見てみた。ふむ、冷却器が一つだけか。

 電気を使うタイプならもっと多くのファンがあるはずだ。


 マジで当時のものをそのまま再現したんだな。


 この惑星ナーロウみたいな広大な未開惑星で電車を走らせるのは、なんぼなんでも維持費がかかりすぎる。だから古式ゆかしい機関車を導入したんだろう。

 鉄道マニアが涙を流して喜びそうだな。


 車両の上に上がった僕を、防護服のバイザー越しにギリーさんが見上げている。

 彼女は両手を腰に当てると、僕を見つめたまま頭をかしげた。


「で、結局使えそうかい」

「見た感じ、壊れてはなさそうです。燃料がこの基地にまだあるかですね」


「なるほど、探してみるかね。頭が痛くなるあの臭い油を探せばいいんだろ?」

「お、ギリーさんわかりますか? お願いします」

「あいよ」


 さすがギリーさん。

 廃墟探索の経験を積んでるだけあるな。

 燃料の探索は彼女に任せて、こっちは機関車の面倒をみるとしよう。


 運転席に回ってみるが、ロックが掛かっている。

 これはポチに頼むか。


「ポチ、ドアを開けてくれるか?」

「プ~イ」


<ガチャン!>


 背中の荷物を揺らしながら近づいてきたポチは、ドアの窓を手でブチ割ると、そのまま腕を突っ込んで内側から鍵を開けた。


「割と力づくで開けてくれた」

「キュー……」

「いやうん、壊さないよう、気遣ってくれたのはわかるよ?」


 運転席に立ち、計器やレバーを調べてみる。

 だが……


「MRが装置を見ても反応しないな。流石に古すぎってことかな?」


 僕が飲み込んだチップは、MR、現実世界にデジタル情報が入り混じり、そこにある物体の名前、使い方、注意事項や豆知識を教えてくれる。


 だがそれはチップの知っている情報に限る。

 チップの容量は人間の脳よりも膨大だが、無限じゃない。

 知らないことだって当然ある。


 うーん……まいったな。

 僕は機関車の使い方なんて知らないぞ。


「ポチ、この車両、使える?」

「プイ!」

「さすがポチ! でもなぁ……」

「キュ~イ?」


「宙族の拠点に突撃させるのに、この列車を使おうと思ってるんだ。ポチが使えるのはいいんだけど、それだとポチが突入することになっちゃうなと思って」


「キュキュ~!!」

「もちろんそんな事しないよ、何か手立てを考えないといけないね」


「自動操縦とか、そういう風に改造できるかい?」

「キュ……キュイキュイ!!」


 ワタワタと慌てた様子のポチは、ものすごい勢いでコクピットにとりつくと、両手からバチバチと火花を散らした。いつもの3割増しくらいだ


「うおっ眩しッ!」

「ププイ!」


 ポチの発する光が収まると、コクピットの操作機械は、えらくあっさりしたものに置き換わっていた。先っぽに丸い握りのついたレバーが2本。


「まさか……このレバーを前に倒すと、動くとか、そんな感じ?」

「キュイ!」


 メッチャシンプル。これなら誰にだって操縦できそうだな。

 そして、列車の改造が終わってすぐのことだ。

 基地の奥から戻ってきたギリーさんが、僕に声をかけてきた。

 彼女の足元には、赤いドラム缶がある。

 

「サトー、使えそうな燃料がいくらかあったよ。ちっと古いけどね」

「完璧ですね! 僕たちでこの列車を使えそうです。」


「ってことはあれだね?」

「えぇ、勝ち目が出てきましたよ」


 墜落者ギルドと宙族との戦いは天秤が宙族の方に傾いていた。


 だが、今は違う。

 天秤はひっくり返った。


 決戦が始まる。

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