つまらないモノですが

「そういえば、事務所みたいな所でカギを見つけたんです。もしかしたらこの機械を動かせるかも。使って見ましょう」


「おっ、面白くなってきたね!!」


 僕は機械の近くにあった据え置き型コンピューターに、メモリーモジュールをセットしてみる。どうだ……?


「……お、通った!」


 コンピューターがロックから開放されると、自動的に僕のMRと接続し、僕の視界上に工場のステータスと操作用のインターフェースが表示された。


 よし! これなら、僕にもこの工場が使えるぞ。


 MRの指示に従って操作して、工場の再稼働を選択する。

 すると、どこからともなく女性の声を模した電子音声が流れてきた。


<Confirm Security Token>


<おはようございます。前回の操業より438,324時間経過しています。規定により、施設の保安状態のチェックを行います。>


<施設の空気汚染レベル、保険基準を超過。――特例措置により許可>

<施設の保守期間が、安全基準を大幅に超過。――特例措置により許可>

<生産ライン上に違法な生産物を検知。――特例措置により許可>


<全て問題ありません。オールグリーンです>


<前回の事故から438,324時間、職員に重大事故は発生しておりません。>

<引き続き安全管理に努め、無事故を継続しましょう。>


<なお、事故に類する状況が発生した場合、担当職員は自動的に退職の手続きが行われます。申し立てを行った場合、保安部隊が強制的に退させる可能性があることをお伝えいたします>


 ……工場の管理AIの論理判断が完全にハッキングされてるじゃね―か!!

 何してくれてんの?!!

 安全管理とかそういうレベルじゃねーよ!!! 


「なんか色々くっちゃべってるけど、どういうことだい?」


「えーと……一応動いてますが、色んなところがボロボロって感じですね」


 主に倫理観が。


「ってことは、動くのかい?」


「はい。」


「あとは……遠隔で工場のロックを外せるみたいですね。最初に諦めたドアも開きそうです。よし、エントランスを開放しました。あとは倉庫ですね。これもよし」


「倉庫、いい響きだね。お宝部屋だよ」

「……ちょっと何が入ってるか怖くなってきますけどね」


 製品倉庫の目録は……管理されてないな。クソ怪しい。


 違法な遺伝子狩りと、生物創造。

 そして化学弾頭の生産か……もう何が見つかっても驚かないぞ。


「この工場はまだ他にも作れるものがありそうですが……」


 ちょっと怖いが、工場が登録している生産レシピを一応確認してみる。


 ふむふむ……ちゃんと家具や家電といった、消費財も作れるじゃないか。

 だが、宙に浮かんでるUIの情報によると、使える材料がほとんどないな。


 オーダーしても作れるものはせいぜい3つと言ったところか。

 うーむ……。


 倉庫の入庫資材の履歴を見ると、常に結構な量の資材があったんだが、一時いっときから化学砲弾を作るのにそのほとんどを費やしたみたいだ。

 一体何と戦争してたんだか。


「サトー、アンタさっきからずっと空中を見たまま指をさして、こっちから見るとメチャクチャ不気味だね」


「まぁ、そういう操作方法なので……ところでギリーさん、この工場を使って、何か作れそうですよ。資材の残りからすると、3つまでですが」


「まちな、倉庫の中身を見てから作るんでも遅くないだろ? まぁ、この砲弾しか無いかも知れないけど、一応確認したほうが良いよ」


「それもそうですね」


 僕たちは工場の作業機械から離れて、倉庫に向かった。


 コンベアーの終点にある一時的な倉庫とは違う、工場が作った製品の在庫を保管する場所だ。もしかしたら、砲弾以外のものも有るかも知れない。


 ギリーさんと二人がかりで分厚い鋼鉄で出来た倉庫の扉に手をかける。

 引き戸タイプか、ん……なかなか重いぞ!


「扉が重いですね」

「よし、加勢するよ」

「墜落者ギルドのお土産に出来るものが、あるといいですね」

「だね、気張りな!」


「「いっせーの、せっ!!」」


<ドコォォン!>


 思いっきり力をかけて引くと、少しづつ扉が滑り出しはじめる。

 そのまま力をかけ続けると、ガクンと抵抗がなくなり、滑り出した扉は勢いよく壁のサッシにぶち当たった。


 激しい衝撃を受けた扉は、表面の緑色の塗料をポロポロと床に落とす。

 力をかけたことで、扉を留めていたサビか何かが取れたんだろう。


「さて、お宝とご対面といこうか!」

「ですね!」


 だが、倉庫の中を見た僕は拍子抜けした。


 そこにあったの物は、思っていたのと全然違ったからだ。

 キャラクターの描かれたお皿やマグカップ、それに子供用のオモチャ。

 

 砲弾を作る前は、ここではテーマパークの土産物を作ってたのか。


「この工場は、お土産を作ってたんですね」

「待ちなサトー。これを見なよ、銃じゃないか?」


 ギリーさんがそういって僕に見せたのは、紙の箱に入ったレトロなデザインの光線銃だ。オモチャにしては銀色の外装はよく出来てる。本物みたいだ。


 ……見た目は「機動紳士ガンドム」のレーザー銃そっくりだな。

 ってか、パクリじゃね―か!!!


 箱をよく見ると、「コスモコースター用備品」と書いてある。

 射的をするアトラクションか何かの備品だなこりゃ。


「それは射的アトラクション用のオモチャですよ。光が出て、音が鳴るやつです」

「なーんだ、つまらないね。」


「テーマパークのオモチャなんですから、本物なわけ無いですよ。電子部品を使っているのは確かですし『つまらないモノですが』って渡す感じですかね?」


<ガサゴソ、バサッ>


「だね。こういうオモチャはトレーダーが喜びそうだよ」


 ギリーさんは中身を取り出すと、光線銃を握る。

 質感はまるで本物みたいだな。よく出来てるなぁ


「それ、人に向かって撃たないでくださいよ? オモチャのレーザーとはいえ、目に当たるとケガをすることだって有るんですから」


「はいはいっと」<カチッ>


<ドゥキュゥーーン!!>


 彼女が引き金を引くと、ピンク色のビームが僕の頬をかすめて倉庫の扉に穴を開けた。ビームが通り過ぎた穴のフチは、どろどろに溶けてなお、赤熱してオレンジ色に光っている。


「えーっと……」

「ほ、本物……?」


 化学砲弾といい、遺伝子組み換えされた生物といい、そしてこのレーザー銃。

 このテーマパーク、一体どういう客を相手にしてたんだよ?!

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