僕らの切り札

「さて、表に出せない書類の次は……と」


 報告書をしまい込んだ僕は、引き続き事務所をゴソゴソあさる。


 いやしかし、とんでもないの見つけちゃったな。

 軽く呪いのアイテムだぞコレ……。


「ん……これは」


 机の奥底から、箱に入った小型のメモリーモジュールを見つけた。

 コンピューターに接続する、板ガムくらいの大きさのやつだ。


 んー、なんか普通のに比べると、雰囲気が違うな。

 通常、この手の消耗品に専用ケースなんか無い。

 考えられる可能性としては――「暗号鍵」。


「データを保存するやつじゃないな。きっと物理的なカギとして使用するやつだ」


 お高いハイテク機械は物理的なカギじゃなくて、こういったデータの入ったメモリを使用することが多い。


 うん、これはアタリっぽいな。


「さて、カギを見つけたなら、後はこれに合うものを探さなきゃだな」


 事務所を出て、工場の中に戻る。

 特に何も考えずに手近な建物に入ったけど……そもそもの話、ここって何を作っていたんだろうな。


 工場の中をなんとなく見回していた。

 すると、丁度どこかの部屋から出てきたギリーさんを見つけた。


 僕らが占拠した工場は、1階から2階にかけて吹き抜けになっていて、スチール製の階段で足場を上り下りして、2階から各所に行くようになっている。


 これは1階部分を広く取って、車両が通れるようにするための工夫だろう。

 一階の床がゴチャゴチャしないよう、人が通る場所は2階に設けてあるのだ。


 彼女は工場の2階部分の足場を歩いていたが、こちらに気づくと黄色い手すりに寄りかかって、喜びが混じった声色で話しかけてきた。


「お、サトー! 面白いもんがあったよ!」

「面白いものですか?」



 僕はギリーさんに連れられて、面白いものが有るという場所に来た。

 だが、これは……。


「見てみな。すごい数の武器だよ。こいつは高く売れるんじゃないか?」

「たしかにすごい数ですね……」


 僕の前にあるのは、ある製品の製造ラインだった。


 稼働は停止しているが、ギリギリまで操業を続けていたのだろう。

 当時作っていたものが、そのままの状態ラインに残っていた。


 ベルトコンベアの上に大量に並んでいるのは、ドングリみたいな流線型をした、金属の塊……「砲弾」だ。


 ベルトコンベアの終点には「製品」を詰めたコンテナが大量に並べてある。

 この工場は、兵器を作る工場だったのか?


「大砲の弾みたいですね。ものすごい数だ……」


「こいつを持ち帰ったら、墜落者ギルドの連中に恩を売れるんじゃないかい?」


「でも、肝心の大砲がないじゃないですか」


「そうでもないよ。砲弾だけでも使い道は有るもんさ。道ばたに仕掛けておいて、宙族が踏んづけたらドッカン! なんて風にね」


「即席の地雷、仕掛け爆弾として使うってことですか……それならまぁ」


「墜落者ギルドの連中は素人の集まりだろ? 良いオモチャを拾って渡したとしても、宙族相手じゃ死体の山をつくるだけさ。アタシとしちゃぁ、こっちのほうがオススメだね」


「実際、ギリーさんの言う通りなんですよね。キャベツ集落の襲撃の様子じゃぁ、強い武器があったとしても対抗できるかどうか……」


「暴力で飯を食ってる連中と真正面からやり合うのが、そもそもの間違いだね」


「それをいっちゃぁ……ただまぁ、持ち帰れるのはせいぜい、ここにあるコンテナ1個くらいですかね」


 僕は製造ラインの終端にある、コンテナの山に近寄った。

 中にどれだけ砲弾が入っているか、それを調ベるためだったのだが……。


 コンテナに表面に、かなり気になるマークのステッカーが貼られていた。


 ステッカーに描かれているのは、黄色の下地に黒色のドクロ。

 どうみても「僕は毒です」って叫んでいる。


「これは……化学弾頭じゃないか!!」


 このドクロマークは猛毒を現す、惑星共通のマークだ。

 まさかとは思うが、有毒発電機の廃棄物を砲弾にリサイクルしたのか?


 つまり……。

 有毒発電機で電力を作る→工場を動かす→大地に毒が貯まる→毒を掘り起こして砲弾に詰める→ハッピー!! こうですね。わかりたくねぇ……。


 そりゃ、その辺に漂ってるものを使えば、ローコストだろうけどさぁ……。

 やって良いことと、悪いことがあんだろ!! 


「カガク弾頭……? なんだいそりゃ」


「えーっと、たぶん、ここらに漂ってる猛毒を詰め込んだ砲弾です」


「ここらに漂ってる毒を? アホなのかい? そりゃとても自分のコロニーの近くで使えたもんじゃないね」


「まったくその通りです。絶対に防衛に使っちゃいけないものですね」


「戦いに勝っても、家を失ったら本末転倒。何の意味もないからね」

「はい」


「残念ですが、とても使い物には――」


 その時、僕の脳に電流が走った。


 汚染するので防衛では使えない。なので攻撃には使っても良い。

 Q.E.D(証明完了)


「――いや、待ってください……ちょっと面白いことが出来そうですね」

「ん? 何の話しだい?」


「自分達のコロニーの防衛には使えませんが、攻撃には使えます。宙族の本拠地にコレをお届けするのはどうでしょう?」


「でも、弾を打ち出す大砲が無いってサトー、アンタが――」


「いえ、別に撃つ必要はないです。届けるだけで良いんです」


「この工場地帯には、宙族の本拠地に直通している線路と列車があります。その列車に大量の砲弾を載せて、拠点のど真ん中でドンと破裂させれば……!」


「壊滅的な打撃を受ける、ってことだね。」


「えぇ。これは……僕たちの切り札になるかもしれません」


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