キャベツ集落の戦い②



「いけいけぇぇぇぃッ!!」

「手足を失ったクズのお前らが、星王様に恩を返せるときがきたのだー!」


 列をなして進む人機の後ろには、醜い顔を喜びにゆがませたイゴールがいた。 


「1人殺すたびに<ピーー>を1パック!

ギルドマスターの首を取ったものにはドラッグ1年分をくれてやるぞぉぉ!」


 そう。


 この「カスケット」に宙族はただの宙族ではない。


 その正体は、戦いで手足を失い、戦えなくなって乞食となった者たちだ。


 暴力で飯を食う宙族にとって、戦いで腕や足を失って戦えなくなった者はゴミ。

 カス以下の存在だ。


 金があるものなら義肢を手術で取り付けて復帰する。

 そうでないものは乞食になり、宴会の残り物、喰いカスを漁るしかない。


 野蛮で血も涙もない宙族たち。

 そんな彼らでも戦友を荒野に放り出し、サソリのエサにするのは気が引けるのだろう。宙族の拠点には、こうした乞食が増え続けていた。


 そこでイゴールは彼ら乞食を集めると、こんな甘言をささやいた。


(お前たちをバカにした連中を……見返したくはないか?)


 五体満足なものはこの「カスケット」に入りたがらない。

 だが、手足を失い、絶望したものならどうだ?


 彼らにとってコレは救いの道。希望の道なのだ!


 「カスケット」は文明社会では非倫理的なもの、邪悪な存在とされていた。


 しかし……この惑星ナーロウにおいては違う。

 極めて倫理的で道徳的、苦しんだ人を救う存在なのだ。


 「カスケット」は本来、こういう使い方をするものだ。


 カスケットの設計者が想定していた本来の使用者は、手足を失った軍人だ。

 実際に開発段階でも彼らの意見を聞き、これを創り出した。


 開発に関わった者らは、カスケットに新しい未来を見た。


 しかし、文明社会では圧倒的多数の民間人――

 五体満足で、戦いとは無関係の者たち。

 彼らの御大層な「倫理観」は、それを許さなかった。


 カスケットは文明社会では忘れ去られた。

 もしかしたらこれは……復讐なのかも知れない。



<ガガガガガガガガガガッ!>


(クソッ!!

 こんな豆鉄砲じゃ装甲の表面で弾けるだけかッ!)


 僕のマシンガンから吐き出された弾はピシパシと宙族に当たる。

 だが、当たるだけだ。


 いくら弾を食らわしても、白や黄色の火花が出るだけ。

 カスケットの装甲を貫くことは出来ない。


(このままじゃ先にマシンガンがダメになる!!)


 100発以上の弾を撃ったマシンガン。

 その銃身から出る煙は、天に向かって登る滝のようだ。

 そのうちオーバーヒートで壊れてしまうだろう。


「なんて硬さだい!」


 ギリーさんの狙撃でもダメなようだ。


 ライフル弾はマシンガンの弾よりずっと大きいはずだ。

 それでも軽い打撃にしかなっていない。


 撃たれた宙族は少しよろめくが、それだけだ。


(このままじゃ――)


「よっしゃ! まずは景気づけにいっぱーつ!!」

「いきますわよー!」


<ガシャコンッ……バシュン!!!!>


 ハクとクロが打ち出したボウガンの矢は、宙族の胸にドスンと突き立った。


 なにあれスゴイ。


「おっしゃー! 当たったぜ!」

「それじゃ、次、行きますわよ―!!」


(でも、ただ矢が刺さるだけじゃ……ん?!)


◆◆◆


「ガハハ! 連中怯えてるぞ。壁の後ろから出てこようともしないな」

「ヌハハ! このまま一気に踏み潰すぞ」

「ウハハ! 俺たち笑う三連星に勝てるものかよ!」

「ゲハハ! 何故か4人いるのは気にするな!!」


 俺たちはイゴールとかいう星王様についている金魚のフン、

 道化の言う事を真に受けるのはどうかと思っていた。

 ……たまにはヤツも良いことをする。


 俺たちの装甲は、機関銃の弾でもびくともしない。

 この「カスケット」とかいうアーマーがあれば、俺たちは無敵だ!


 以前の戦いで手足を失い、乞食にまで堕ちた俺たち。


 だが、こうして戦う事ができれば、

 もう酔っ払いにバカにされることもない。


 見てろよ、俺たちに小便をひっかけたクズどもめ!

 このいくさからもどったら、頭を引っこ抜いてヘルメットに飾ってやる。


 ――む?


 「ブン」と風を切る音がして、胸に衝撃を感じた。


 視線を下げ、胴体の複合装甲のプレートをみる。

 するとなにやら太い矢がプレートに刺さっている。


 矢ァ?


 ガハハ!! 連中にはこんなものしか無いらしい。


「ガハハ! 見ろよ兄弟! この悲惨な武器を!!」

「ヌハハ! 全く笑っちまうな」

「ウハハ! まるで原始人だぜ!」

「ゲハハ! ん……あれ、矢の先の方に何かついて――)


<チュドーーーーンッッッ!!!!>


「ガ、ガハルトォォォーーーー!!!!」


◆◆◆


「お、ブッとんだなー!!」

「景気よく飛びましたわね!!!」


「何アレ?!」


 宙族に刺さった矢が爆発して、人間が空高く打ち上がった。

 完全にギャグみたいな飛び方していったぞ?!


「おーサトー! いいだろー?」

「宙族の方が使ってる、バクダンって物を付けてみましたの」


 バクダンを? わー……。


 大型ボウガンに乗っている長大な太矢を見る。

 先端には手榴弾やダイナマイト、プラスチック爆弾に爆竹。

 大量の爆発物がついていた。


 赤着青緑、色とりどりのカラフルな爆発物がついた様子は、まるで南国の果物をまとめたフルーツバスケットのようだ。


「一体どこにこんなのが?!」

「矢を探してたら、箱の底にあったぜ―!」

「ありましたのよ」


「えぇ……?」


「色々取っ突っ込みたい所はあるけど……今のところアイツらを倒せる手段はこれだけか。」


「よし、もっとやっちゃって!」

「「おーー!」」

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