サトーの誠意

「良い時にきた、いや、君にとっては悪い時かもしれんが」

「様子を見れば何となく察せますけど、大変そうですね」


 ランドさんは僕たちをキャベツ集落の建物のひとつに連れていった。

 どうやらここは研究用の部屋らしく、なにかの設計図やメモが散らばっている。


 ランドさんは座りもせず、部屋の中に立ったまま話し始める。

 いつかに比べると、追い詰められて余裕のない雰囲気をしていた。


「すまないが、あまり君に時間をとってあげられないのだ。手短に頼む」


「わかりました、ハクとクロ、背中のものをこっちに」

「おー!」

「ハク、ゆっくりおろすんですわよ」


 僕は二人の持った粘土板を荷ほどきして、そのうちの一つを取ってみせた。


「この地図には、宙族の本拠点がかかれています。そして、彼らの防備を打ち崩せるかもしれない情報も」


「それは一体……?」


「鉄道です。」


「かつてこの星がテーマパークとして運営されていた時の中心部、宇宙港やホテルが、宙族の拠点です。運営当時は当然、これを支えるインフラがありました」


「我々が何年ここに住んでいると思っている?!」

「そんなこと、鉄道については我々も気づいているッ!」


「では、鉄道の車両基地については? 見つけられていない、ですよね」


「――ッ!! 何故それを……ハッ!」


「工業地帯は宇宙から見てもわかるくらい、汚染されていました」

「だからきっと、墜落者ギルドもこの場所の探索は諦めていると思いました」


「……君の洞察には恐ろしさすら感じるな」


「この地図は工業地帯、宙族の拠点、鉄道路線を詳細に書き写しました」

「もしランドさんが宙族と戦うつもりなら、きっと役に立つとおもいます」


「これに見合うものを君に返せそうにないな」


「いえ、ありますよ」

「何?」


「墜落者ギルドが宙族に勝利すること。それ以上の見返りがありますか?」


「は、ははッ! 確かにその通りだッ!!」


 これほど痛快なことはない、と言った様子でランドさんは喜びをあらわにした。

 気に入ってもらえたようで何よりだ。


「粘土板は全てここに置いていきますね」


「ありがとう。君の情報は実に貴重で、手に入れにくいものだ」


「運が良かっただけです」

「この星に墜落して、運が良かったと思う日が来るなんて思いませんでしたが」


「ハッ、違いない」


「……話は変わりますが、集落の様子からして宙族の襲撃が近いんですか?」


「周囲をパトロールしている者が、野営の痕跡を見つけた」

「こちらの様子を偵察して、集落の弱点を見定めているのだろう」


「引き止めはしないが、できれば同じギルドの者として戦ってくれると助かる」


(……まあ、当然そう来ると思った。返事は用意してある)


「引き受けかねます。こちらも人員不足でコロニーを空っぽにしています」


「何? 正気か?」


「ええ。この地図は必ず届けるべきだと思い、人員を分けなかったんです」


「む……中途半端な戦力で運んで、地図を危険にさらすよりは、コロニーを危険にさらす方を選んだというのか?!」


「えぇ。」


「サトー君、きみはなんという……」


「コロニーを空にしたまま、いつ来るかわからない襲撃を待てません。僕たちは急いで自分たちのコロニーに戻ります」


「そういうことならば……残念だが仕方がない」


(流石にドンパチまで付き合ってられない。僕らは逃げるぞ!!)


「そういうわけだから、みんな急いでニートピアに戻ろう」

「おー!」

「ギルドには悪いけど、アタシらは戦争しに来たわけじゃないからね」


 建物を出ようとしたその時だった。

 どこからともなく「ひゅるるるる」という、気の抜けた音がする。


 直後、耳をつんざくような爆発音と共に、足元の地面が揺れた。

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