再び墜落者ギルドへ

「もうすぐ着きますね」

「あぁ、そろそろ見えてくるはずだね」


 僕たちはキャラバン、というにはあまりにも小さな隊列を組み、灼熱のサバンナを歩いている。


 キャラバンのメンバーは今回もニートピアの全員が参加している。

 4人と1機での旅だ。


 このキャラバンの目的は、ただひとつ。

 それは、墜落者ギルドのランドさんに、この星の地図を提供することだ。

 列の後ろを行くクロとハクは人の姿を取って、重ねた粘土板を背負っている。


 彼女たちが背負っている、赤茶けた粘土の板。

 あの粘土板が、この星の地図だ。


 何でこんなものを作ったのか? これにはある理由がある。


 久美子の降下船でこの星のジオマップ、詳細な地図を僕は手に入れた。

 しかしMRにはある欠点があった。


 それは誰にも見れるものではないという欠点だ。

 うん、わりと致命的だね。


 MRは同じくMRデバイスを持つ者でないと、何をしているかわからない。

 なので、MRデバイスに保存した地図を現実世界に持ち出す必要があった。


 そこで使ったのが原始的な粘土板だ。


 ニートピアではまだ製紙ができない。

 なので土を掘り起こして、それに枯れ草やクズなんかを混ぜて、板状にする。

 その後に絵図を書き込んで、カマドの中で焼いたのだ。


 ぶっちゃけ、書き写しの精度は悪い。

 枝で書いた線はガタガタで、焼成でさらに歪んだ。


 だがそれでも、この地図からは最も重要な情報を判読できる。

 宙族の基地、そしてそれをつなぐ鉄道路線と工業地帯の詳細だ。


 この地図を提供する目的はただひとつ。

 ランドさんが宙族に対して優位に立ち回れるようにすること。


 宙族と墜落者ギルドが衝突するのは、ほぼ決まったようなものだ。

 なら少しでも勝利する、被害を減らす手助けをしなくてはならない。


 この辺境惑星ナーロウで一番マシな勢力。

 それはおそらく、墜落者ギルドだけだからだ。


「おっ、見えてきたよ。前見た時よりも、もっとデカくなってるねぇ」

「あれが墜落者ギルドの本部『キャベツ集落』ですか」


 相変わらずのネーミングセンスよ。

 本部に付ける名前か?


 印象に残りすぎてマジで忘れる気がしない。


「まさかギリーさんが、ギルド本部の場所を知ってるとは思いませんでした」


「そうかい? 墜落者ギルドはアタシら砂エルフが拾ってきたものを売るのに、良いお客さんだったからね、エルフなら、大抵のヤツは知ってるよ」


「そうだったんですか」


 キャベツ集落に近づくと、ものものしい雰囲気を僕は感じた。

 コロニーの周囲には土嚢どのうが積まれ、小さな穴が開けられた石の壁が各所にある。


 あの穴は銃眼だろう。

 小さな穴は、外に向かって広がるような切り込みがある。ああすることで、穴を最小限の大きさにしたうえで、中から外を狙う角度を広く取れるのだ。


 さすがギルドの本部。

 びっくりするぐらい、ガチガチの防衛施設で囲まれているな。


 僕がギルドの建物に近づくと、土嚢の中から銃を持った住民が姿を表した。

 彼は遮蔽物から上半身だけをのぞかせ、こっちの様子を見ている。


 きっと見張り役かな? 壮年の男は鉄製のヘルメットを被り、オーバーコートの下には鉄板がむき出しの防弾チョッキを身に着けているのが見える。


 手に持っているのは……粗野な見た目だが、サブマシンガンか?

 さすが本部。オークたちより良い武装をしているな。


「おい! そこの連中、何しに来た!」

「僕たちは墜落者ギルドのキャラバンです! 地図を提供しに来ました!」


「そんな話は聞いてないぞ! あやしい奴め!」


 男は僕たちに警戒心をあらわにして、カチャリと銃を向けた。


 荷物を運ぶクロとハクを人間形態にしたのは不味マズったか?

 いや、それはそれで襲撃と間違われると思ってそうしたんだった。


「お、やるかー?」

「おっとハク、ステイステイ」


 ここで流血沙汰は不味い。

 なんとか取りなして中に入らないと……!


「街の中に入って床を汚しまくったり、持ち込んだメシで勝手に食中毒を起こしてそこら中でゲロを吐いたり、仲間といきなり喧嘩けんかを始めては家の中を血だらけにする気だな!!!」


 何この人?! ちょっと被害妄想ひどすぎない?


 っていうか、他のキャラバンの振る舞いってそんな感じなの?

 マナーがなってないとか、そういう次元じゃないぞ。


「待ちなさい、彼らは友人だ。」

「ギルドマスター!」

「ランドさん!」


「――サトー君、久しぶりじゃないか」


 見張りの後ろから現れた人影に、僕は見覚えがあった。

 墜落者ギルドのギルドマスターのランドさんだ。


 マスターは最初にあった時と同じような格好をしているが、少し様子が違う。

 

 墜落者ギルドの地面に激突するポッドのバッジはそのままだが、カウイボーイハットは近代的なヘルメットになり、ダスターコートは装甲板が追加されたライオットギアになっている。警察が暴動に対処する時に使うやつだ。


 見張りの異様な警戒心の高さといい、ここで一体何が起きているんだ?


「ランドさんもお元気そうで何よりです」

「君も変わりないようで何よりだ。要件は何だね?」


「あるルートからこの星の地図を手に入れました」

「ほう? そこの砂エルフからか?」


「いえ、彼らではないです。軌道上から撮影した地図です。ただ、紙がなかったので粘土版に書き写しました。それによるズレはあります」


「それをギルドに提供する理由は何だ? きみに何の利がある」

「宙族に対抗できる手段になるかと思ったからです」


「そこまでのものか」

「はい。ぜひとも共有するべきかと」


 のどの奥からうなるような声を出し、ランドさんは考え込む。

 しばしの沈黙の後、彼は意を決した。


 ぱっと手を振り上げると、見張りの銃を下げさせたのだ。


「よし、中へ入りなさい。」

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