ウサギをさばこう

※作者コメント※

 ⚠警告⚠ 動物の解体シーンがございます。

 お食事中の方はご注意ください


―――――――


「さて、持って帰りますか」

「「「はぁ??」」」


 ウサギを持って帰ろうと僕が言ったら、その場にいた全員が調子の外れた声を上げた。それどころか、信じられないモノを見た、という視線まで僕に向けられている。


 な、何か変なこと言った?


「えっと……僕、何かしちゃいました?」

「あー、あんた墜落者だったね。忘れてたよ」

「そうなのかー」

「なら仕方有りませんね。何を言い出すのかと思いましたわ」


 どうやら僕が言ったことはかなり変なことだったらしい。

 何がおかしいのかは、みんなが丁寧に説明してくれた。


「獲物を仕留めたら、すぐにでも血と内臓を抜かなきゃいけないんだよ」

「ですわね。私達は動物が狩った後の肉を拾うこともありますけど、そういう下処理のされてない肉は、アクがスゴイことになりますわ」

「そーそー。そういうこと」

「あー」


 わぁ、流石現地人だ。

 文化人である僕には想像もつかない知識がバンバン出てくる。


 こうなってしまっては僕には「あー」「うんうん」と、生返事しか出来ない。


 そう、僕にはこのウサギを「お肉」にする方法がわからない。

 もしかしたらと思って、MRで調べてみたが……うん、ダメだ。


 流石のMRでも、こんなハチャメチャに遺伝子操作された謎ウサギのさばき方はでてこない。っていうか出てきたら怖いわ。


 ここはこの星で生活している人達。

 ハクやクロ、ギリーさんの3人に任せるべきか。


 ああそうだとも! 僕には出来ないとも!!

 そもそも、僕は男女平等主義者でモラリストなのだ!


 女性の仕事、男性の仕事ォ? そんな区分けは差別的なのだ。

 荒っぽい仕事が全て男の仕事と決まってるわけじゃない。


 男性が可愛いぬいぐるみをつくったり、お花を育てたって良いじゃない!

 そんで女性がお肉を捌いたり、建物をトンテンカンつくっても良いはずだ。


 うん、出来る人がやれば良い。以上、証明完了。

 僕は肉も捌けない男らしくないヤツとか、そういう事は全然ないのだ。


 なのに何でだろう? ちょっと心がチクチクして悲しいのは。

 クスン。

 

「あの、このウサギ、お肉にさばけます?」

「そっか、アンタは墜落者だもんな。邪魔だからどいてな」

「はーい」

「まあ、適当にそこらへんで見張りでもしてな」

「了解です」


 僕は素直に男としてのプライドを明け渡す。

 く、悔しくも悲しくもないんだからね!!


「ほら、アンタ達は出来るだろ? 血抜き手伝いな」

「いいぞー!」


 近くにあった低木を利用して、ウサギは胴体を上に、頭を下に吊り上げられた。

 そして、女性陣の手によってその太い首を深く断ち割られる。

 するとまだこんなにも残っていたのかと言うほど、多量の血を吹き出した。


 血が抜けている時に気づいたが、ウサギはまだ少し動いている。

 あれ?


「まだ動いてますけど、生きてる?」

「いや、コイツは間違いなく死んでる。筋肉の反射的な反応ってやつだね。こうしてみると、生き物もなんだか機械っぽいね」

「へぇー…」


 数分すると、うさぎの死体はビクンと痙攣した。

 ギリーによると、これが血が抜けた合図らしい。


「あとは傷つけないようにハラワタを取り出すよ」

「まかせなー!」


 ヒョイッと飛び上がってハクはウサギに取びついた。

 そして、手に持った石のナイフをきらめかせたかと思うと、ウサギの股から胸にかけてを一文字に切り裂いた。

 わぉ、豪快!!


 そして割かれた場所からは、熱気とともにぶわっと赤い中身が飛び出す。

 

「尻の近くの腸を破らないように気をつけな」

「あいあいー」


 ハクとクロは手際よくウサギの中身をかき出していく。

 もちろん素手だ。彼女たちの白い手は肘まで真っ赤になっている。


「サトー、どこまで持って変える? 心臓とレバーだけにしとくか?」

「え、えぇぇぇ? 欲しかったらいいよ」


 急にそんなこと言われても困る。

 持ち帰っていいよといったら喜んでるので、まあいいか。


 しかしマジの肉食系女子ってかんじだな。

 本当にあっという間にウサギの中身は分けられてしまった。


「しかしサトー、おまえ墜落者にしちゃ珍しいな」

「へ? 何がです」

「普通の墜落者連中だったら、吐いたり泣き出したりするぞ?」

「あ、そうなんですね」

「そうだなー」

「いやいや、いくら僕が墜落者っていっても、このウサギがぬいぐるみじゃないことくらいわかりますよ。『こういうの』が入ってるくらい知ってます」

「ハハッ、意外とすぐ馴染めそうだな」

「一刻も早く、家に帰りたいんですけどね」


 ハクとクロは浅い穴をほっていた。

 必要のない内臓は、そこに軽く埋めて置いていくらしい。

 そうすると、小さな動物たちがそれを漁ってキレイにしていくそうだ。そうしてその動物を狙って、大きな動物たちが――命が続いていくと、そういうわけだ。


 なんとまあ、容赦のない世界だこと。


「さて、あとはこいつを持って帰らないとねぇ」

「あ、そうでしたね。それにしてもデカいなぁ」


 そう、僕たちは倒したウサギをニートピアまで持って帰らないといけない。

 でもトラックやソリみたいなモノも無しにこんな大きなもの――


「せっかくです、私たちがやりますわ」

「もってくぜー」


 えっそれは無理でしょと言おうと思っていたら、クロとハクの二人はジャッカロープの巨大な死体をヒョイッと持ち上げた。

 ……マジ?


「どっちだー?」

「あ、ニートピアはあっちです」

「おっけー!」


 すっごい軽々と運ぶなぁ……。

 もしかしなくても、彼女たちを受け入れたのは失敗だったのでは?


 いや、いまさら帰れなんて言ったら逆ギレの可能性があるな。


 自動車サイズのウサギを持ち上げる筋力だ。

 下手に殴り合いのケンカでも始まったら、僕の首が物理的に吹き飛ぶ。


 ここは穏便に、うん、普段以上に言動に気をつけなくては。

 絶対に逆らわないようにしないと。


 うん、僕は草、アロエは仲間、お友だち。

 たゆたう草……風の流れるままに逆らわない。


 なんか普段とあんま変わらないな?

 涙が出ちゃう。

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