蛮族との出会い
槍はジャッカロープの頭蓋を貫き、地面に縫い付けている。
一体誰がこんなことを?
僕の頭がハテナでいっぱいになったその時、気の抜けた女の子の声がした。
「よー!!」
「こら! 知らない人に声をかけちゃいけません!」
そこには手をブンブンと振る灰色の短髪の女の子と、彼女の手を引っ張る、黒髪を編み込んでまとめた女の子がいた。
二人とも一枚布を肩にかけたワンピースと、毛皮のケープみたいなのを羽織っている。オークやエルフなんかと比べると、かなり野性味がある。
その格好を見た僕は、アニメにでてくる原始人みたいだな、と思った。
なんか、ただの勘なんだけど、すごい厄介そうな気がするなぁ?
「オレはト……むぐ」
何か言おうをした灰髪の子は、となりの黒髪の子に口を抑えられると、何やら二人でヒソヒソ話を始めた。なんだなんだ……?
・
・
・
(だめですわよ、トンヌヴォ、リングネームを言っちゃ……)
(えー、なんで?)
(リングネームを教えたら、宙族どもの仲間と思われますわ。私達の使命は誰にもヒミツだということを、お忘れですの?)
(なるほど、頭いいなゴッキー!)
(フフ、グリフォンは荒野の賢者ですもの)
(で、どうすりゃいいのさ、ゴッキー)
(その名前で呼ぶのは止めてくださいませ)
(ほいほい)
(そうですわね……ここは私達の幼名を使いましょう。)
(おー、じゃあオレは「ハク」だな?)
(そうですわね。私は「クロ」ですわね)
(さて、貴方がもうやってしまったことについてアレコレ言っても仕方ありませんわ、せっかく人と出会えたのです、ここは情報収集と行きましょう)
(おう!)
・
・
・
「おほん、突然失礼いたしました。
「オレはハク、よろしくな!」
「あ、これはどうも。サトーです」
なにか相談していたかと思ったら、いきなり自己紹介がはじまった。
うーん? ちょっと状況がわからないな。
あ、まず狩猟を助けてもらったことにお礼を言わないといけないな。
あのままだとウサギに確実に逃げられてたし。
「お助けいただいてどうも。あのままだと逃げられてました」
「ふっふー! オレの投げ槍の腕前すごいだろ!」
「ですねー」
うん、すごすぎると思う。
ギリーさんの使ってるライフル以上の威力ってどうなってるの?
馬鹿力っていうレベルじゃないよね?
二人の見た目はどう見ても人間だけど、この世界で住むと、人間でもああなるのだろうか?
「あなた方はこのあたりに住まわれてるんですの?」
「そうですね。ニートピアっていう小さなコロニーに住んでます」
「ほう……
僕にはクロと名乗った少女の瞳が怪しく光ったように見えた。デンキ、電気……格好からして、充電が必要そうなものを持ってるようには見えないけどなあ。
はて、なんで電気を使ってるコロニーのことを知りたいんだろう?
「僕の知っている限り、この辺りで電気を使っているコロニーは無いはずですね。うちのような墜落者ギルドの人たちも、電気についてはさっぱりのはずです」
「あら、そうでしたの?」
「サトーは墜落者ギルドのやつなんだなー?」
「ええ。えーっと、それでクロさんたちは、何で電気がほしいんですか?」
「えっ?」
「あれ、電気を欲しがってるのでは?」
ハクとクロ、そう名乗った二人の少女はお互いに顔を見合わせている。
うん? なんかおかしいぞ?
「デンキってなんですの?」
「なんだー?」
ガクッとずっこけてしまった。
わからないものを探してたんかい!!!
「な、なんで探そうと思ったんですか……?」
「……それはムグモゴ」
クロはハクの口を塞ぐと、おほんと咳払いをして続ける。
「実は私たち、あることで追放されておりまして……難民なのですわ」
「はぁ」
「あれはそう――今日のように暑い日のことでしたわ」
「なんか始まった」
「
この二人が主張するところに寄ると、彼女たちは以前住んでいた場所を、宗教的な意見の不一致によって追い出されたらしい。
このサバンナは暑い、暑すぎる。しかしこの暑さを和らげるキカイ、クーラーのことを彼女たちは旅人たちの話題から知った。
そして、クーラーにはデンキなるものが必要なことも。
過ごしやすい生活には、どうやらデンキなるものが必要と知った彼女たち。
皆のためにもデンキを手に入れるよう部族の長老に進言した。
だが、頭が石頭の長老は、彼女たちの意見に激高し、追い出した。
そうしてサバンナを
で、このハクとクロの二人は、僕にある申し出があるという。
自分たちは故郷を手荷物だけで追い出されたため、旅の準備ができていない。
デンキを探す旅の態勢を整えるしばらくの間、一月ほどニートピアに滞在させてくれないか? というものだ。
そして、その滞在の間は、仕事と戦いを無償で手伝うそうだ。
まあそういうことらしい。
更に詳しく聞くと、ハクもクロも農業の仕方は知っているらしい。
うん。喉から手が出るほど欲しい人材だ。
でもなー?
ところどころ首をひねるところがある。
なんだろう。なんか言葉にできない違和感というか。
「うーん……」
「ダメでしょうか?」
「ダメかー?」
なんか怪しいんだよなぁ……。
でも人手が増えるに越したことはないからなぁ。
彼女たちがニートピアで幸せに過ごせたら、仲間になることを申し出るかも知れない。それか……助けたことで後々報酬を渡してくれたり?
そうだ。評判が上がるというメリットが有る。
この弱肉強食、世紀末世界のナーロウで「信頼できるやつ」というお墨付きが手に入れば、取引や交渉、なにかしらで役に立つだろう……。
しかし、彼女たちの真意を知る術はない。「軒先貸して母屋を取られる」。
この厳しい惑星ナーロウでは、何事も罠の可能性を考えないといけない。
彼女たちは恐らくどこの派閥にも属していない、無宿人だ。
もし望むなら、単純に殺害したり、拘束して奴隷として売却、臓器を摘出したとしても外交的な問題になることはない。
僕はそんな事するつもりもないし、そもそも設備がなくて出来ない。
だが、この後彼女たちが出会うことになる連中はどうだ?
もし、彼女たちをこのままどこかに行かせたとしよう。
そして宙族のコロニーやキャラバンにぶち当たったら?
うわー。うわー。
なんかすっごい酷いことになりそう。
そうなったら、流石にうちの評判も下がらないか?
リスクもあるが……うん、決めたぞ。
「わかったよ。ひとまず受け入れよう」
「ホントか?」
「いいんですの?」
「おいおい、いいのかい? サトー」
(ギリーさん、食料の問題は彼女たちが増えれば確かに加速するけど、銃だってそんな弾丸に数があるわけじゃないんだ)
(ああ、そうだね……銃だっていつかは弾がなくなる。補充のアテはない。となると……あの子達、槍でジャッカロープを仕留められるなら、役には立つね)
(そういうこと)
(ま、ここはアンタの選択に任せよう)
「まぁまぁ、うちもビンボーだから、色々手伝ってもらうよ」
「それはもちろんですわ!」
「ああそうだ、最後に……」
「なんですの?」
「――墜落者ギルドへようこそ!」
――――――
※作者コメント※
サイコパスにも関わらず、サトーが二人に同情的に見えた部分を直しました。
より酷くされる主人公って何…(
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