ジャッカロープとの死闘
「うわあぁぁぁぁ!!!」
「それっ!」
危ないところだった。
そばにいたギリーが、恐怖に体がすくんでいた僕を蹴飛ばしたのだ。
おかげで、ウサギの下敷きにならずに済んだ。
ゴロゴロ転がって鼻や口に砂が入ったが、死ぬよりはマシだと思おう。
ウサギは獲物を見失い、耳を高く立てて後ろ足で立ち上がる。
突進で走り抜けていったため、ちょうど僕たちが背中を取った形になっていた。
(よし! これはチャンスだぞ!!)
<TATATATATATA!!!>
僕は引き金に掛かった指に力かける。
カタカナのヒを横にした形のマシンガンは弾を吐き出し暴れまわる。
僕は銃口がウサギの方を向き続けるように必死に銃身を押さえつけた。
<チュイン!チュン!パーン!!>
ゴブリンから奪った低品質なマシンガンはあまりまっすぐ弾が飛ばない。
水を撒き散らすホースのように勝手気ままに弾丸は飛んでいく。
「ブゥ!!」
「当たった!!」
だが、狙った場所以外に飛ぶということは、避けづらいということだ!!
何発かの弾丸がジャッカロープの背中に突き刺さる。
白い巨体は鼻をヒクヒクと動かし、
(ちょっと可哀想だけど……どう見ても危険だしな)
「ブー!ブゥゥ!!!」
傷を受け、怒り狂ったのだろう。
ジャッカロープは可愛らしくも危険な唸り声を上げる。
その怒りと呼応するように、頭部に生えた鹿の角の先端からは勢いよく炎が吹き出している。炎はウサギの頭を中心に、蝶の羽のように広がった。
「何かすごい嫌な予感が……」
「地面に伏せなサトー! やつのとっておきが来るよ!!!」
「はい! あ、ポチもこっちに!!」
「プイ!」
頭部から吹き出す炎を全身にまとったジャッカロープは、後ろ足で地面を蹴って跳躍する。ぐらっと地面が揺れ、熱気が周囲を襲った。
飛び上がったウサギは空中で方向を変える。背中の黒い翼で空気を打ったのだ。
そして、この激しい動きに炎の方はついてこれない。
角から生える炎は千切れ、玉となって隕石みたいにして襲いかかってきた!
(クッ! あの黒い翼はそう使うのか!!)
地面にぶち当たった炎弾はボンボン弾け、薄黄色の砂地を黒く焦がした。
ウサギとかの前に、完全に生物として間違ってない?
「ウサギ、いや、魔王だ……!」
「へへ、面白くなってきたね」
ギリーは不敵に笑うが冗談じゃない。
こんなの絶対おかしいよ。
「もう無理ですよ! 逃げましょうよ!」
「大丈夫。地面を見な、サトー」
彼女がライフルの先で指し示した地面はウサギの血で真っ赤に染まっている。
うわー大惨事だけど……これが何なんだろう?
「ウサギは血を流す。ならいつか死ぬってことさ」
「ハリウッド映画みたいなこと言い出した?!」
セリフはカッコイイがそれどころじゃないだろ!!
案の定、隕石攻撃をしてきたウサギがまた突進してくる。
「グゥ…ブゥ…」
あれ? 動きが鈍ってる?
確かに血を流しすぎたのか、ウサギの突進には先ほどのような勢いがない。
横に走ったら普通に間に合って
それどころか、走り回って息を切らしたようで、鼻を激しくヒクつかせている。
(まさか、もうバテてるのか?)
「血を流しながらあれだけ動いたんだ、意識が飛び始めたね」
「すごい、何とかなりそう」
「そ。狩りってのはね、こうやって脚を使うんだよ」
そういってギリーは健康的な色に日焼けした太ももを叩く。
むむ、ちょっとドキッとしてしまった。
そういえば何かの本で読んだか、動画で見たか、うろ覚えだけど……。
古代、まだ道具が原始的で、人と動物との力の差がそれほどなかった時代。
人間の狩猟は獲物を力づくで殺害するんじゃなくて、飛び道具で獲物を傷つけて、失血か何かで死ぬまで追跡するものだったと学んだ記憶がある。
なるほど、実際に
動物(?)は傷つくと激高して暴れだす。
そのまま戦いを続ければ、危険きわまりない。
そう、バカ正直に戦い続ければ。
なので賢い人間さまは、一発食らわしたら逃げる。
そうして血を流させて弱らせ、動かなくなったところにトドメ。
これなら力の差があってもなんとかなるわけだ。
……いやいや、銃を使っても力の差が埋まらないっておかしいだろ!!
このジャッカロープみたいな生物を作り出した企業は、一体何を考えてたんだ?
エルフにドワーフ、そしてオーク。
テーマパークは隠れみので、生物兵器開発を目的にしてたんじゃないだろうか?
そんな疑念すら湧いてくるな。
「ブゥ…! ヌルァァァァ!!!」
弱ったウサギはひときわ大きな雄叫びを上げると、背中の黒い翼を広げた。
何をするつもりだ?!
「まずいよ! あのウサギ、飛んで逃げるつもりだ!」
「ウサギなのに?!」
まずいな、遠くに逃げられたら骨折り損だ。
しかしギリーのライフルは装填中。
僕のマシンガンもガタガタの弾倉のせいで、なかなか再装填が難しい。
(このままじゃ逃げられる!!)
ウサギとの戦いに勝っても、逃げられて狩猟が失敗すれば、僕らの負けだ。
このままじゃ――焦って予備の弾倉を地面に落とした、その瞬間だった。
「ブォンッ!!!」
何か重たげなものが空を切る音がした。
そして、僕の目の前で飛び上がったウサギが、突然、横から誰かに蹴られたようにして地面に叩きつけられる。
黒い羽根が舞い上がり、もうもうと土色の煙が立ち上る。
煙が収まってから前を見ると、地面に伏したウサギの角から炎が消えていた。
(死んだ……のか? いや、それよりも)
「……槍?」
目の前のウサギの頭をみると、木の棒と鉄の穂先、シンプルな作りの槍が、深々と突き刺さっていた。
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