ご飯が少ない!

「ふぅ、こんなもんでいいかな?」

「プイ!」


 ギリーさんの手伝いもあって、なんとか元倉庫を流用した客室が完成した。

 数日かかったが、まぁまぁ上出来じゃないだろうか。


 おお! なんということでしょう――


 石の壁と剥き出しになった土の床しかない元倉庫。

 物置に過ぎなかった空間は、匠(ポチ)の手によって生まれ変わった。


 ザラッとした土が剥き出しだった床は、自然の恵み、雑草を使った床に生まれ変わった。タタミ風のふんわりとした床は、裸足はだしを優しく包み込み、床を踏みしめるたびにサバンナの香りがする。


 そしてベッド。


 カゴ状に編み込んだ草で出来たベッドは、平たい卵のようなフォルムをしている。まるで蝶のサナギを包み込むまゆ彷彿ほうふつとさせるそのベッドは、床と同じ草を材料にしたとはまるで思えない。


 そのベッドの上に僕が体を横たえると、草の弾力が体を支える。


 通常の布のベッドでサバンナの熱帯夜を過ごしたら、汗で背中がぐっしょりと濡れてしまうだろう。


 しかし、この編み込んだ草で作られたベッドなら網目から空気が抜けていく。

 ベッドの異常なまでの通気性の良さは、そのまま高い快適性につながる。

 おお……まるで天上の雲の上に居るようだ!!!


完璧パーフェクトだよポチ。三ツ星ホテルってわけにはいかないけど、快適だ」

「プイ!」

「……何してんだいあんたら?」

「えーと、客室のチェック?」

「それより気にしないといけないことがあるんじゃないか?」

「えーっと?」

「食い物。客人の手持ちがなかったらどうするんだい? このあたりのアロエだって、そのうち無くなるよ」

「う……」


 ベッドに寝転んで浮かれていたら、痛いところを突かれた。

 確かに食料は大問題だ。


 いまニートピアにある食料はそう多くない。

 ポテトチップみたいなパリパリの干し肉キリシと、アロエだけだ。


 いざというときの保存食として干し肉は残してあるが、アロエはそのうち取り尽くしてしまうだろう。


 そうなればニートピアはお終いだ。

 僕はベッドから降りて、客室の扉を開ける。


「暑っ!!」


 木戸をどけた瞬間、猛烈な熱波に襲われた。

 視界のすみっこに浮かんでいるMRの表示だと、気温は46℃になっている。

 なんちゅー凄まじい暑さ。お風呂でもこんな温度に設定しないよ。


「どれどれ……うーん?」


 僕はニートピアの周りを見回した。

 ふむふむ……しこたま草をむしったおかげで、家の周りは赤褐色の大地があらわになっている。濃い緑色をしたアロエの茂みはいくつも刈り取られ、黒く変色した断面が無惨にさらされていた。


 無事な茂みはあと4,5個はあるだろうか?


 見た所、アロエの数にはまだ余裕はある。

 といっても、お客さんがいっぱい来たらわからないな。


「まだアロエはあるけど、そのうち底を尽きそうですね」

「だね。普通はすぐにでも農業を始めるもんだ」

「ちなみにギリーさん、その、農業の方は?」

「さっぱりだよ。収穫したモノを料理するのはできるけどね」

「あっはい、左様ですか」


 どうやら彼女は建築に続いて農業の方もダメらしい。

 うーん、これは本格的に参ったなぁ。


 いや、そもそも農業しようにもニートピアには作物の苗や種もないからなぁ。

 もしあったとしても、この気温で育つかどうか……。


「どうしましょう?」

「このコロニーのリーダーはサトー、あんただろ?」

「ヒントだけでも!」

「しょうがないねぇ……狩りだよ狩り。狩りに行くしか無いだろ」

「狩りですか。この辺って何が狩れるんです? 危ないのいません?」

「そうだね……このあたりだと野ウサギやヘビかねぇ?」

「あ、そこは結構普通なんですね」


 よかった。

 惑星ナーロウにも普通の生き物が居た。


「ヘビはちょっとアレなんで……ウサギでお願いします」

「何いってんだい、アンタも来るんだよ」


 ですよねー。


 僕はギリーさんに首根っこを掴まれて、狩りへと連れていかれた。

 念のため、護衛としてポチも連れて行くとしよう。


 ギリーが狩りに使う装備としてロッカーから取り出したのは、ゴブリンから奪ったボロいライフルとマシンガンだ。

 彼女がライフルを持ち、僕がマシンガンを持った。


 そういえば、最初に会った時の彼女は結構な重武装だったはずだけど、あれはどうしたんだろう?


「そういえばギリーさん、装備は? 後、お仲間のことはいいんですか?」

「ハッ、あいつら何かどうでも良いよ。アタシがぶっ倒れたのをみて、装備を持ってどっか行きやがったからね。今度あったらぶっ飛ばしてやる」


 わー。世紀末旅情あふれる出来事があったのね。

 厳しい世界とは言え、砂エルフも仲間に対してドライだなー。


「あー、一応撃つ前にお話してもらっていいですか? ニートピアでドンパチされるとちょっと困るので」

「ハッ、それくらいは心得てるよ」


 ふぅ、そこは自重してくれるようで良かった。

 オークの人たちが、砂エルフは喧嘩っ早いっていてたけど、本当だな。

 

「さて、ではひと狩り行きますか」

「あいよ」


 僕はマシンガンを肩にかけた。そしてニートピアとサバンナを分ける柵を超え、荒れ地に足を踏み入れた。


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