ナーロウの世界情勢(2)

 ギリーが棒を使って引いた線は、ずずいっとニートピアの南へ向かった。

 蛮族の本拠地はここより南へずっと行った場所、海のそばにあるらしい。


「蛮族たちはこのヒツジ海のあたりに居るはずだね」


 もうこの星の謎のネーミングセンスには突っ込まないぞ。

 なんだよヒツジ海って。


「蛮族っていうくらいですから、危険な人たちなんですか」

「いや。ならば、そこまで危険じゃないよ」

「人ならば……?」

「蛮族たちはこの惑星ナーロウの元キャスト達でね。私たちエルフを始めとして、ドワーフやノーム、そして……ドラゴン族だね」

「ドラゴンって……あの空を飛んで火を吹くあのドラゴン?」

「細かい部分は違うが、大体そのイメージで良いよ」

「えぇ……」


 この惑星を開発した企業のアホさを甘く見てた。

 ドラゴンまで作って放ってたのかよ!!


「テーマパークが経営破綻した後、キャストだった者たちはそれぞれ部族で寄り集まって生活している。砂エルフやオークもそのうちの一つだよ」

「なるほど、蛮族っていうとあんまり発展してないようにイメージしちゃうんですけど……技術の方はどんな感じなんです?」

「文明の品を手に入れて、生活を向上させているものも居るけどね……狩猟や採集に頼って生活している連中もいる。まちまちだよ」

「種族の種類が多いなら、まあそうなりますよね。

「村をつくるどころか、数が少なくて数軒の家だけっていう連中もいるからね」

「なるほど、蛮族は規模も技術もバラバラな感じですか?」

「だね。一番発展しているのがオークとドワーフ、次に私らエルフかね?」


 オークさん達はあの見た目で技術が先行してるのか。

 まあ人が良さそうだし、色々なところと交渉して技術や物品を手に入れてるんだろうな。ドワーフは自力でなんとかしてそう。エルフは……パクってるのかな?


「ノームたちはよく分からないね。姿自体とんとみない連中だから。もっと分からん連中もいるけどね……」

「よくわからない連中ですか?」

「この惑星ナーロウの地下に住むラットマンたちだよ。そこいら中にトンネルを掘って隠れ住んでて、滅多に姿を表さない連中さね」

「ラットマン……ネズミの獣人みたいな?」

「人間くらいの大きさをした、立ち上がるネズミだね」


 僕は大きな円盤状の耳を持ち、2本の後ろ足で立ち上がったネズミを想像した。

 尖った鼻に大きな耳、そして人に似た四肢……。

 何故だろう、その姿を思い浮かべた瞬間、何故かとてつもない恐怖を覚えた。


「うぅ!」

「どうしたんだい?」

「何故か急に寒気が……ッ!」

「ラットマンのことを聞くと、何故か墜落者は皆そうなるね」


 何でか知らないけど、とひとりちる彼女を他所に「ふう」と一息ついた僕は、ふと思いついた疑問を口にした。


「つまり、蛮族には色々いて、皆好き勝手やってるってことですか?」

「そうだね。ドワーフとオークみたいに手を組んでる連中も居れば、あたしら砂エルフみたいに興味をもってないのもいる。ま、てんでバラバラだね」


 砂エルフは中立なのか……よかった。全方位敵対とかしてたら、ニートピアまでとばっちりで燃やされるところだった。


「彼らの外交関係にも気を配らないといけないわけですね」

「そ。じゃないと、いつの間にか敵に回ってるなんてこともあるかもね」

「蛮族ってどの部族が交渉とか交易とかできるんでしょうか?」

「そうだね…墜落者ギルドなら、大抵の連中が話を聞いてくれるよ」

「あっそうなんですか」


 なんだ、蛮族が二番目にヤバイっていうけど、大したことないな。

 気をつけさえすれば大丈夫なんじゃないか?


「でも、どうしてもダメな連中がいる。ドラゴン族やグリフォン族だね」

「えっ」

「連中は腹が減ってたり機嫌が悪かったら、普通に蛮族以外の連中を襲ってくるよ。あとは暇つぶしに闘いを挑んでくることもあるね。もしそうなったら諦めな」

「なんでよりによって一番強そうなのが……」

「あたしが知りたいよ」

「そのドラゴン族とかについてもっと詳しく教えてくれませんか?」


 ギリーはまだ話さないといけないのか、という顔をしたが僕が頭を下げるとイヤイヤながらも話を続けてくれた。


「あたしも大したことは知らないけどね。ドラゴンとかの連中は、昔この惑星のホテル街に居た連中で、宙族どもが空から降ってきたときに追い出されたんだ」


 ん、ドラゴンがホテル街に?


「ちょっと待ってください、ドラゴンがホテルに?」

「ああ。テーマパークしてた時は宿泊客の部屋で接待してたらしい。」


 ん、何か変だな。部屋に?

 彼女の言い方だと、ドラゴン族がまるで人みたいな……?


「そうだった、サトーは混種モーフについては知らないか」

「もーふ?」

「ドラゴン族は人間の姿もとれるのさ。そこから中間の混じり物、完全な獣の姿をとることは稀だけどね。すさまじく腹が減るらしいよ」

「は、はぁ」


 ちょ、獣人?! いやドラゴンだから竜人か。それに客の接待させてたのか。

 ホテルってことはつまりそっちも?

 うーむ、そういう趣味は分からんでもないが、なんという業の深さだ……。

 第一客層がマニアックすぎるだろ! そら潰れるわ!!


 ちょっと引き気味の僕をギリーは鼻で笑った。


「アンタはそっちの趣味はないんだね」

「ちょっと上級者すぎますね」

「おやおや」

「では、宙族は彼らドラゴン族の居た場所を占拠したわけですよね? なら彼らは宙族と敵対してるんでしょうか?」


 宙族とドラゴン族の関係が悪ければ、交渉次第で彼らの力を借りることができるかも知れない。そう思って僕は聞いてみたのだが――


「内心は知らないけど、そうは見えないね」


 ダメかぁー。


「一部のドラゴン族は宙族どもがやってるショウに出て、賞金を稼いでるらしい」

「ショウ? サーカスみたいな?」

「そんなお子様向けのじゃないよ。命をかけたショウ。闘技場コロシアムさ」

「めっちゃバトルジャンキーじゃないですか!」

「そうだよ。どうせアンタのことだ、利用しようなんてこすい事を考えたんだろうけど……よっぽどのことがないと無理だろうね」

「よっぽどのこと?」

「力で上下関係を教えるしか無いね」

「うん、無理ですね」

「だとおもったよ。蛮族連中で比較的穏健なのはオークとドワーフだよ。まずは連中と仲良くなることだね」

「なるほど……」


 いやはや、惑星ナーロウの世界情勢は複雑怪奇。思った以上に厳しそうだ。

 ぶっちゃけ、ニートピアにお客さんを招待するどころじゃないんじゃないか?


 しかし難しいのは承知の上だ。

 なんとかしないと、遠からず僕はサバンナの一部になる。


 何とかして、このニートピアを運営しなくては。

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